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1章 悪役貴族は屈しない

第12話 こわいまほう

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 早速、練習を開始する。
 自分の影だからか、思ったよりも簡単に魔力が入り込む。
 といっても、やっぱり魔力を動かすのはまだまだ難しい。

 根気強く魔力を移動させて、影に送り続ける。
 すると、影の濃さが変化した。

【闇魔法を取得しました】

 さらに魔力を送り続けると、今度は影が動き始めた。

 こいつ……動くぞ!
 やばい、楽しくなってきた!

 影をうねうねと動かす。
 赤ん坊が自分の手足を動かすみたいに、自由自在とはいかない。
 けど、俺の意志で影が動いてくれる。

 背中がゾクゾクして、自然と笑みがこぼれた。
 楽しいな。

 地球には存在しなかった魔法を、確かに使えている。
 魔法って、楽しいな……。

 ――んん?
 さっきから魔力を送り続けてるけど、この影、魔力を無尽蔵に吸収するんだが……。
 一体どこまで入るんだ?

 入れ続けないと消えるのか?
 試しに魔力を止めてみるが、消えない。
 まあ、入れられるところまで入れてみるか。

 じゃんじゃん魔力を注ぎ込む。
 でも、大きくなるわけではないし、地面から立ち上がるでもない。
 影は二次元のまま、大きな変化がない……ように思えた。

「うげ……」

 その時、クマバチが近づいて来た。
 ブンブンって音が怖いんだよな。
 人を刺すことは少ないらしいけど、怖いものは怖い。

 刺激しないよう動きを止める。

 すると、何故か俺の周りをぐるぐると回り出した。
 なんでだよ!
 木と間違えてるのか?

 ぐぬぬ。
 さっさと消えてくれないかなあ。

 そう思った、次の瞬間だった。
 地面から影が伸びた。

 あっと思った時には、クマバチが影に捕らわれ、ずぶずぶと影の中に引き込まれて……消えた。

「…………」

 えっ?
 …………えっっ?

 目の前で起ったことが、受け入れられない。

 いや、うん、まあ勇気を振り絞ろう。
 事実として、現実として受け入れようじゃないか。

 クマバチが俺のまわりをまわった。
 俺は早く〝消えてほしい〟と願った。
 すると、影が触手みたいなものを伸ばして、クマバチを捕らえた。
 そのままクマバチが影の中に消えた。

 …………。
 こえぇよ!!

 なんだこれ!
 いや魔法なのはわかるんだけど、こんな魔法知らねぇよ!
 プロデニにこんなのあったか?

 じっくり思い返すけど、まったく覚えがない。
 新しい魔法を編み出したか、あるいは設定として存在するけど、誰も使わなかったか。

 ……まあ、後者なんだろうな。
 元々エルヴィンルートがある前提でゲームを作ってたらしいし。
 この魔法は、プロデニでエルヴィンが使う予定だったのかもしれない。

 それにしても、闇に引きずりこんで消すとか、邪悪だなおい。

 クマバチを飲み込んだ影は、すっかり元の自然界のものに戻っていた。
 どうやら何かを飲み込むと消える仕様らしい。

 そこから改めて魔法の練習をする勇気はなく、いそいそと部屋に戻った。
 その晩、闇に引きずり込まれる悪夢にうなされ――おねしょした。

 ……ちくしょぉぉぉお!!



          ○



 初等部四年生に上がる頃、いよいよ俺は第二の矢を放つ決心を固めた。

 去年から売り出した化粧品は、爆発的にヒットした。
 一ヶ月に製造した50セットは瞬く間に完売。
 それだけに留まらず、あっという間に半年待ち、一年待ち、三年待ちにまでなった。

 さすがにこれはまずいということで、増産することに。
 そりゃ、1セット購入しても3ヶ月しか持たないのに、三年も待たされちゃな……。

 月に100セットを販売して、やっと予約は1年待ちで落ち着いた。
 それでも十分足りてないけどな。

 俺が稼いだ金は、10億を突破した。
 計算が合わない?
 当然。
 ここまで3度値上げしてるからな!
 うはうは!

 さすがはヴァルトナー。
 値段を上げても、需要が減らないギリギリを見極めるのが上手い。

 そういえば、会社名をどうするかって話題になった時、

「そのままファンケルベルクはまずいから、〝ファンケル〟にしたらどうかしら?」
「いろいろまずいので遠慮します!」

 いや、面白いけどさ。
 異世界に来て日本のメーカーを名乗るのも。
 けど、さすがにグリセリンを入れただけの水で、ファンケルを名乗るのは烏滸がましい。
 メーカー開発者たちを馬鹿にする行為なので、丁重にお断りした。

 結果、会社名は〝ヴァルトナー〟になった。
 ヴァルトナー印ではなく、まんま公爵家の名前がついたおかげで、化粧水のものまねをする商家は今のところ現われていない。

 真似をしたら絶対に路頭に迷うだろうからな。

 そんなこんなで、第二の矢が放てるくらいお金が貯まった。
 ステータスも順調だ。


○名前:エルヴィン・ファンケルベルク
○年齢:10歳  ○肩書き:貴族の当主
○レベル:4
○ステータス
 筋力:62 体力:64
 知力:62 精神力:1364

○スキル
 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅰ ・身体操作Ⅰ ・魔力操作Ⅰ
 ・強化魔法Ⅰ ・闇魔法Ⅱ ・威圧Ⅰ
○称号
 ・EXTRAの覇者


 これくらい育てば、第三の矢も放てる日は近いか。
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