デルタトロスの子どもたち ~曖昧な色に染まった世で奏でる祈りの唄~

華田さち

文字の大きさ
1 / 81
少年期

第1話 序章

しおりを挟む


エスフィータ エスフィータ
こどもたちに口づけを 幸せだった日々を思い出し涙するだろう
エスフィータ エスフィータ
亡き魂に花束を こぼれる涙を胸に抱き明日を見つめるだろう
エスフィータ エスフィータ
輝く王冠に祝福を 赤い月夜の晩に彼方のまばゆい光を掴むだろう
エスフィータ エスフィータ
鏡の中で踊り続け 永遠にほほ笑み続けるだろう
エスフィータ エスフィータ
ファ オ デルタトロス



ダリルモアの剣は皇帝ヒュウシャーの体を貫いた。
寝ているところを襲われた彼は、上質のガウンを羽織る間もなくその上から刺されたため、瞬く間にガウンは血で染まっていく。

小国の一つに過ぎなかったカルオロンの礎を築き、栄華を極めた男。
その男が今、自ら招いた行いのために裁きを受けようとしている。

彼は決して愚王ではない、いやむしろ、賢王と言ったほうがいいかもしれない。
何よりも彼が力を注いだのは軍事力の強化だ。
国のためというよりは、飢えを凌ぐため兵を志願するものも多かったが、そうするとどうしても士気が下がり兵力は弱まる。そこで、才能があるものは積極的に採用し、功績を挙げたものには高い地位を与えた。
貴賎の別なく、能力だけでのし上がり地位を築き上げるものが出てくることで、高い軍事力を維持することができたのだ。
しかしこの男の欲望は留まるところを知らなかった。

兵自身に着目し、感情に左右されず自らの思い通りに動く兵士。つまるところ、操り人形を生産することに乗り出したのだ。
この男の欲望によりダリルモアはかけがえのない大切なものを失った。
そして今に至るわけだ。
これで最後。もう終焉を迎えると思っていたダリルモアにヒュウシャーはとんでもない言葉を口にした。

「残念だな。ダリルモア。私を倒しても、世の中は何も変わらんぞ」

意表を突かれたダリルモアは思わず握っていた剣をさらに深く突き刺した。
ヒュウシャーから流れる血は、剣身を伝い鍔からしたたり落ち床へと広がっている。

「お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」
ダリルモアの問いかけにも動じずヒュウシャーは不敵な笑みを浮かべた。

「じきにあの子たちが誕生する。長年待ち望んでいた子たちだ。そして、世の中は混沌とするだろう。待ち受ける未来が希望か絶望か、誰にもわからない。さあどうする? 剣士ダリルモア!」
ヒュウシャーは最期に謎かけのような言葉を残し絶命した。

「何も変わらんだと……?」
ダリルモアは剣を抜き取りうつむきながら呟いた。

曲がりなりにも大陸一の剣士と称され、若い頃は、数々の戦で名を馳せてきた。
今は一線を退き、久々に剣を取ったが、ヒュウシャーの最期の言葉はそんなダリルモアの心を突き刺したのだ。

窓辺へ向かい外を眺めると、石が敷き詰められている城の広場には非常事態に兵士達が集まってきていた。
城内の至る所で篝火が焚かれている。

じきにここにも多くの兵士が踏み込んでくるであろう。
いち早く城を後にした方がいいのはわかっている。しかし、感情がついていかず次に行動が移せない。

今まで一体何をやってきたのだろう? 剣は身を立てるとすべてを捧げてきた。
その代償に失ったものも数多くある。
それなのに、すべて無駄だったというのか?

そんなことを考えながらぼんやりと空を眺めていると、見上げた東の空に赤く光る星がある。
闇夜に浮かび上がるその星は、太陽かの如く力強く、明るく、そして美しく輝いていた。
星は更に大きくなり、赤く輝きだす。
まるでその赤星に惹きつけられるように、あの光る星の方角に行けば、何か答えを見つけられるような気がした。

ダリルモアはさきほど息絶えたヒュウシャーの元へと向かった。
彼の右手親指には指輪がはめられている。
帝王の印章が刻印され、まわりには霊力がやどるとされる貴石が鏤められた、まさに皇帝を象徴する指輪。
もう二度と同じような惨事を繰り返さないためにも、ダリルモアはヒュウシャーにはめられている指輪を外し、懐へと仕舞い込み城を後にした。

ドアを破り、兵士達が皇帝の部屋へと突入してきた時、ダリルモアの姿はもうなく、残されたのは無残な姿で横たわっている皇帝の亡骸だけであった。

城では皇帝が崩御したことを伝える鐘が、真夜中にもかかわらず鳴り響く。
その鐘の音を哀しく聞きながらダリルモアは東へと馬を走らせた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...