シンギュラリティはあなたの目の前に… 〜AIはうるさいが、仕事は出来る刑事〜

クマミー

文字の大きさ
上 下
2 / 5

第2話 事件 突然の別れ

しおりを挟む
 現場はネオン灯で彩られた居酒屋が立ち並ぶ路地裏。そこで男性が倒れているとの情報だ。

「立花横丁2番通りの路地裏が現場です。被害者は…ん?」
KeiRaは事件の概要説明を中断した。

「どうした?」

「被害者はつい数時間前に風見刑事が酔っ払いの喧嘩の件で対応した男性の坂田和昭氏です。覚えてますか?」

「何…?あの坂田が?」

 風見が現場に到着すると、そこは室外機がいくつも並ぶ薄暗い路地裏。賑やかな居酒屋街とは別の時空があるのではないかと錯覚するくらいの静けさだった。

 既に規制線が張られていた。顔を確認したが、確かに坂田で間違いなかった。坂田の体は冷たくなっており、既に亡くなっていた。頭部を鈍器のようなもので強く殴られた痕があった。そしていつも着ている赤いパーカー、手首のGPSがが消えていた。

 遺体のあった場所は風見が喧嘩の対応した場所から約5キロの場所だ。妙なのは早く帰宅するように促したのにも関わらず、自宅とはまるで逆方向に進んでいたことだ。一体何をしていたのか?この辺は人通りも少ない。野次馬さえ集まっていない。目撃情報は期待出来ない。

 坂田のことは知っていた。彼は独り身だった。身寄りはいない。酒のトラブルで何度も風見にパクられている。酒のトラブルさえ無ければ、仕事の出来るごく普通のサラリーマンだった。

 実は1回だけ…風見は警察仲間には内緒で飲みながら、腹を割って話してみたことがある。坂田が営業職として、優秀社員として表彰されるほどの実力の持ち主だったのは、トラブル起こす度にお灸を据えられるイメージとは違い、風見に大きなギャップ感じさせた。

しかし、坂田は仕事でストレスを溜めていた。仕事をそつなくこなすが故に、仕事量が増えてしまったのだろう。坂田にとって、居酒屋で酒を飲むときだけがストレスから解放される瞬間だったのだ。

「出来れば静かに飲みたい。」
「飲んでいる時間を邪魔されるのは我慢ならない。」

風見は坂田に自宅で飲むことも提案したが、「孤独」になる瞬間が怖いと、人混みである居酒屋は譲らなかった。喧嘩の取り締まりのときの様子とは違って、繊細な心の部分もあるとは意外だった。

よく知っているはずだったが、今回だけはいつもの行動範囲から大きく外れていた。室外機には争ったと思われるいくつもの凹んだ痕があった。

「風見刑事、もうかなり暗いです。明るい時間帯の方が現場から見つかるものも多いと思われます。今は…冷静になりましょう。」

KeiRaはトラブルメーカーとはいえ、長く関わりのある人間の死が、風見にとってショックを与えたことをすぐに感じ取った。

「坂田氏はお酒のトラブルを起こしてはいましたが、このような結末を迎えるべき悪人ではなかったといえます。」

「大丈夫だよ、KeiRa。こういう仕事じゃよくあることさ。明日また捜査するよ。」


「おう、どうだった?」
今日の夜勤は佐竹のようだ。

「坂田だった。トラブル続きだったが、更生する余地もあったのに…。」

「坂田って…お前が担当してた?」

「そう。今回のヤマは妙な感じがする。明日もう一度現場に行く。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

Alice Heart Memorys 〜魂の片隅で、君を待つ〜

夢月真人
SF
2107年。誰しもが所有している感情を持つアンドロイド《Alice》が人々の生活をサポートする現代。 一人の青年《吾妻ユウラ》が、新東京大学クラフト専攻科の卒業を間近に控えたある日、不治の病によって母親を亡くなった。母親は最後に「魂は存在し、真実を知ればまた会える」という意味深な言葉を残す。 24歳になった彼は、機械の改良、改造を生業とするクラフターとして働く側で、母親にもう一度会い、あの日の言葉の真意を知るために《魂》の研究を続けていた。 そんなある日、自称妹である感情を持つアンドロイド《ルカ》と共に伝説のボーカルアンドロイド《未來ミナ》生誕50周年を記念するライブに足を運ぶことになるのだが、そこで予期せぬ事件に巻き込まれてしまう。 偶然か必然か、巻き込まれた事件をきっかけに彼は真実へと辿り着くことになるのだが、その真実は予測不能。

トライアルズアンドエラーズ

中谷干
SF
「シンギュラリティ」という言葉が陳腐になるほどにはAIが進化した、遠からぬ未来。 特別な頭脳を持つ少女ナオは、アンドロイド破壊事件の調査をきっかけに、様々な人の願いや試行に巻き込まれていく。 未来社会で起こる多様な事件に、彼女はどう対峙し、何に挑み、どこへ向かうのか―― ※少々残酷なシーンがありますので苦手な方はご注意ください。 ※この小説は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、novelup、novel days、nola novelで同時公開されています。

ゴースト

ニタマゴ
SF
ある人は言った「人類に共通の敵ができた時、人類今までにない奇跡を作り上げるでしょう」 そして、それは事実となった。 2027ユーラシア大陸、シベリア北部、後にゴーストと呼ばれるようになった化け物が襲ってきた。 そこから人類が下した決断、人類史上最大で最悪の戦争『ゴーストWar』幕を開けた。

『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

処理中です...