クマの短編ホラー小説

クマミー

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幽霊が乗ってくるタクシー

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 佐藤は飲み会終わりのサラリーマンを自宅までお送りし、さてもう一仕事…とゆっくりアクセルを踏み込もうとしたら、2人組の若い男女がこちらへ向かって手を振っていた。

2人はタクシーに乗り込むと男が、
「俺が帰ってきたら、飯と風呂くらい用意しとけよ!」
急に喚き出した。

「お客さん、もしかしてお酒飲んでる?お酒臭いよ?」

「うるせぇよ!さっさと出せよ!」
男はすごみながら、持ってきた瓶ビールを飲む。
女は男を怖がっているのか…座席の端で小さくなっている。

「酒が切れたぞ!早く買ってこいよ!」
酔って家と勘違いしてるのか…男はまた大声を出した。

「お客さん!タクシーの中では酒類禁止です!守れない場合は降車していただくことになります…規則があるものですから…。」

「もういい!他のタクシーにするわもう!」
男はそう言い放ち、フラフラとした足取りで道路を歩き出した。

 気がつくと、後部座席には女が1人でポツンと取り残されている。

「あなた…私が見えるんですか?」

「ええ、見えてますよ。あなたはもうこの世にはいない。まぁ昔から霊とかが見える体質なんですよ、私。」

「私、成仏したいです。だから最期に願いを叶えてくれませんか?」

「何です?」

「アイツ轢き殺して下さい。」

「え?」

「私はアイツから日常的に暴力を振るわれていて、ついさっき死にました。仕返ししないと気が済みません。」

(こういうタイプは目的を成し遂げるまで、引き下がらないんだよな…。)
佐藤は周りに人がいないことを確認し、仕方なく承諾した。

佐藤は男に向かってアクセルを全力で踏み込んだ。


しかし、男がいた地点を通過したが手応えがない。男はフラフラと道路を歩き続けている。

「あら、そういうこと。もうアイツ死んでたの?」

「えっ?何を言っているのですか?」

「2、3日前に闇サイトで仕入れた毒をアイツの食べ物、飲む物全てに仕込んでおいたんだっけ?今頃部屋で死んでるんじゃないの?」
女は腹を抱えて笑っている。
「じゃあ、アイツに死んでるよって伝えてきますね。酔っ払ってきっと死んだと気づいてませんよ。」

女はタクシーを降りた。




実は気づいていた。


2人とも既に死んでいることには。
乗ったときから。


このタクシーに乗る霊は吹っ切れるのか、時々とんでもない爆弾発言をしてくる。佐藤はそれを聞くのが面白くてたまらないのだ。


これだからタクシードライバーはやめられない。
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