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従兄弟は理解が早いのに、王子様はやっぱり愚か。
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今日の従姉妹は何だったのか。
レナードは考える。
幼馴染の従姉妹は子供の頃こそ良く遊んだが、二人とも年頃になるにつけそれなりの距離を置くようになったーー当たり前だ、従姉妹は王太子殿下の婚約者なのだ。
幼い頃から美しい少女だったが、今は聡明さと気品が加わり益々美しい令嬢に成長し妃教育も順調で、誰もが素晴らしい王太子妃になるだろう事を疑っていなかった。
だが、あの子爵令嬢が現れてからというものーー…殿下は変わられた。従姉妹は最初こそ「過度な接触はおやめください」と注意していたものの殿下は聞く耳を持たなかった。
そして従姉妹は目に見えて萎れていった。
最近は登城する回数も減り、学内でも殿下と共にいる姿を見かけなくなり、気にはしていたのだがーー、今日のあの様子。
友人たちと街のカフェで語らい、同じ皿の菓子を分け合い屈託ない笑みを浮かべていた従姉妹は共に遊んでいた頃に戻ったように可愛いらしかった。
そんな従姉妹の様子に自分の友人も彼女の友人もつられて笑い、思いがけず楽しい時間となり、
「立場を弁えろ」
と言っていた自分も気付けば、
「……悪くない」
と微笑んでいた。
が、彼の認識は一つだけ間違っていた。
“登城する回数が減った”のではない、フェリシアはあの日以降”全く登城していない“のである。
当然、”妃教育の一環“という建前でフェリシアに課せられていた書類の山はそのまま王太子の元へ行く事になる。
城へ戻ってくるなりその山に絶句した王太子は、
「……何だこれは」
呆然と呟いた。
「殿下が最近サボりがちだからですよ」
侍従はにべもなく言う。
最近放課後もフェリシナと過ごす事が多く、城に戻るのが遅くなっている自覚があるリカルドは返す言葉もなく淡々と書類を裁き始めた。
そうして王太子と顔を合わせなくなってひと月もした頃、フェリシアの元に夜会の招待状が届いた。王太子からドレスも一緒に贈られてきたが同封されていた手紙の中身がまた酷かった。
「自分はエスコート出来ないが、外聞が悪いので婚約者である私にはこれを着て出席するように、中座して話をする時間を作る」
要約するとこんな感じの身勝手極まりないものだった。
エスコートしないのにドレスだけ贈ってそれ着て来いって何様だ王子様だ。
でも私だって立派な公爵家のお姫様だーーコイツ、どうしてくれよう?私は考えを巡らせた。
実のところこれは最近自分のところにまわってくる書類が多いのはフェリシアが自分とフェリシナとの仲に嫉妬し、フェリシナとの時間を減らす為にフェリシアがわざと手を抜いているのだと判断した王子の意趣返しだった。
こんな真似をした罰としてフェリシナをエスコートして行き、立場を弁えさせたうえで中座した席でフェリシアに注意を促すつもりだったのだ。
が、
当然この企みは失敗に終わる。
顔色ひとつ変えずに従兄弟のレナードにエスコートされて出席したフェリシアは美しく活き活きと輝いていて会場の視線をさらった。
フェリシナの身丈に合わない豪奢な装いなど問題にならないほどに。レナードとのダンスも楽しそうに踊り、リカルドには一瞥もくれなかった。
中座した個室で対峙した時も、
「それで、殿下。お話とは?」
先程レナードと踊っていた時と違い、つまらない雑事などさっさと終わらせたいという態のフェリシアにリカルドは戸惑った。
今までのフェリシアは自分と二人になる時間を喜んでいたからだ。
フェリシアのそんな態度に調子を狂わされながらも、リカルドは「最近妃教育(にかこつけたただ働き)を怠けていないか」
と切り出した。
が、
それに対するフェリシアの返事は、
「だってお妃教育受けておりませんもの」
というものだった。
「な、何だとっ?!」
「私、ここふた月近くは登城すらしておりませんわよ?それすら気付いておられなかったなんていかに私に無関心かがよーーーくわかるエピソードですわね殿下?」
うふふ と不敵に笑う婚約者の言葉にリカルドは絶句した。
そのリカルドに対しフェリシアは続けて、
「そもそも、道徳的に問題があると思いませんこと?殿下ががあの方とイチャイチャしてる間何故私が書類捌きをしなければいけませんの?私、殿下の部下になった覚えなどありませんのに。妃教育は義務かもしれませんが執務は一介の公爵令嬢の義務にはあたりませんよ?これは王太子殿下の義務であって私の義務ではありません」
さらには国王陛下夫妻には許可をもらってあると言われフェリシアはさっさとその場を後にした。
リカルドはなす術なくそれを見送り、急ぎ母に取りついでもらい詰め寄ると、
「今頃気づいたのですか。ここひと月以上全く城に来ていないフェリシアに全く気付かなかったなんて、我が息子ながら本当にひどいこと」
と呆れ果てた声で言われた。
あなたがそんなだから、フェリシアが妃教育を休みたいと言ってきた時も認めるしかなかったのですよ、とも。
リカルドは返す言葉がなかった。
レナードは考える。
幼馴染の従姉妹は子供の頃こそ良く遊んだが、二人とも年頃になるにつけそれなりの距離を置くようになったーー当たり前だ、従姉妹は王太子殿下の婚約者なのだ。
幼い頃から美しい少女だったが、今は聡明さと気品が加わり益々美しい令嬢に成長し妃教育も順調で、誰もが素晴らしい王太子妃になるだろう事を疑っていなかった。
だが、あの子爵令嬢が現れてからというものーー…殿下は変わられた。従姉妹は最初こそ「過度な接触はおやめください」と注意していたものの殿下は聞く耳を持たなかった。
そして従姉妹は目に見えて萎れていった。
最近は登城する回数も減り、学内でも殿下と共にいる姿を見かけなくなり、気にはしていたのだがーー、今日のあの様子。
友人たちと街のカフェで語らい、同じ皿の菓子を分け合い屈託ない笑みを浮かべていた従姉妹は共に遊んでいた頃に戻ったように可愛いらしかった。
そんな従姉妹の様子に自分の友人も彼女の友人もつられて笑い、思いがけず楽しい時間となり、
「立場を弁えろ」
と言っていた自分も気付けば、
「……悪くない」
と微笑んでいた。
が、彼の認識は一つだけ間違っていた。
“登城する回数が減った”のではない、フェリシアはあの日以降”全く登城していない“のである。
当然、”妃教育の一環“という建前でフェリシアに課せられていた書類の山はそのまま王太子の元へ行く事になる。
城へ戻ってくるなりその山に絶句した王太子は、
「……何だこれは」
呆然と呟いた。
「殿下が最近サボりがちだからですよ」
侍従はにべもなく言う。
最近放課後もフェリシナと過ごす事が多く、城に戻るのが遅くなっている自覚があるリカルドは返す言葉もなく淡々と書類を裁き始めた。
そうして王太子と顔を合わせなくなってひと月もした頃、フェリシアの元に夜会の招待状が届いた。王太子からドレスも一緒に贈られてきたが同封されていた手紙の中身がまた酷かった。
「自分はエスコート出来ないが、外聞が悪いので婚約者である私にはこれを着て出席するように、中座して話をする時間を作る」
要約するとこんな感じの身勝手極まりないものだった。
エスコートしないのにドレスだけ贈ってそれ着て来いって何様だ王子様だ。
でも私だって立派な公爵家のお姫様だーーコイツ、どうしてくれよう?私は考えを巡らせた。
実のところこれは最近自分のところにまわってくる書類が多いのはフェリシアが自分とフェリシナとの仲に嫉妬し、フェリシナとの時間を減らす為にフェリシアがわざと手を抜いているのだと判断した王子の意趣返しだった。
こんな真似をした罰としてフェリシナをエスコートして行き、立場を弁えさせたうえで中座した席でフェリシアに注意を促すつもりだったのだ。
が、
当然この企みは失敗に終わる。
顔色ひとつ変えずに従兄弟のレナードにエスコートされて出席したフェリシアは美しく活き活きと輝いていて会場の視線をさらった。
フェリシナの身丈に合わない豪奢な装いなど問題にならないほどに。レナードとのダンスも楽しそうに踊り、リカルドには一瞥もくれなかった。
中座した個室で対峙した時も、
「それで、殿下。お話とは?」
先程レナードと踊っていた時と違い、つまらない雑事などさっさと終わらせたいという態のフェリシアにリカルドは戸惑った。
今までのフェリシアは自分と二人になる時間を喜んでいたからだ。
フェリシアのそんな態度に調子を狂わされながらも、リカルドは「最近妃教育(にかこつけたただ働き)を怠けていないか」
と切り出した。
が、
それに対するフェリシアの返事は、
「だってお妃教育受けておりませんもの」
というものだった。
「な、何だとっ?!」
「私、ここふた月近くは登城すらしておりませんわよ?それすら気付いておられなかったなんていかに私に無関心かがよーーーくわかるエピソードですわね殿下?」
うふふ と不敵に笑う婚約者の言葉にリカルドは絶句した。
そのリカルドに対しフェリシアは続けて、
「そもそも、道徳的に問題があると思いませんこと?殿下ががあの方とイチャイチャしてる間何故私が書類捌きをしなければいけませんの?私、殿下の部下になった覚えなどありませんのに。妃教育は義務かもしれませんが執務は一介の公爵令嬢の義務にはあたりませんよ?これは王太子殿下の義務であって私の義務ではありません」
さらには国王陛下夫妻には許可をもらってあると言われフェリシアはさっさとその場を後にした。
リカルドはなす術なくそれを見送り、急ぎ母に取りついでもらい詰め寄ると、
「今頃気づいたのですか。ここひと月以上全く城に来ていないフェリシアに全く気付かなかったなんて、我が息子ながら本当にひどいこと」
と呆れ果てた声で言われた。
あなたがそんなだから、フェリシアが妃教育を休みたいと言ってきた時も認めるしかなかったのですよ、とも。
リカルドは返す言葉がなかった。
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