<完結済>画面から伸びて来た手に異世界へ引きずりこまれ、公爵令嬢になりました。

詩海猫

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公爵令嬢は優秀な魔法使いでしたが、王子様はろくでなしでした。

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そして眠っている間にたくさんの記憶が流れ込んできた。
私はフェリシア。
フォルトナ公爵令嬢で王太子殿下の婚約者。
父は宰相、兄は王子の側近として仕えている。
私・フェリシアは幼い頃から厳しいお妃教育を受けてきた。
政略結婚とはいえ王子とはそれなりに仲良くやってきた。
王子はお妃教育の後によく「お疲れ様」とお茶の席を用意して労ってもくれたし、「気晴らしになるように」と帰り際庭園に咲く花を切って持たせてくれたりしてた。

だが、魔法学園に入って間もなくその態度が一変した。特例枠で入学してきた金色の髪の子爵令嬢に殿下は熱を上げ、私に冷たい態度と言葉を投げつけるようになった。

お昼も放課後もーーー要するに暇さえあればその子と過ごし、在学中も私には執務の手伝いはさせるくせにねぎらいひとつ、いたわりの言葉一つなかった。
社交は最低限、夜会のエスコートも最初の一曲こそ婚約者である私と踊るが、その後は愛しの彼女のところに行ったまま私が”先に・いつ・黙って”消えようと気にもしない、どころか気付かない。
なのに、お妃教育は続いてる。

「こんな王子ヤツの婚約者でいるの、真っ平だわ」
博識で高位の魔法使いでもあったフェリシアは禁断の魔法に手を出した。
他人と魂を入れ替える魔法だ。
誰でも良いわけではなく、自分と近しい魂ーー肉親、同性の兄弟さらには双子であれば尚良いーーとされ、他人で可能なのは魔力の波長が近かったり魂の形が似てたりーーそんなものは調べようがないというのに、彼女は異世界に自分という魂の形が似た人間を見つけてしまう。
そして、決して簡単ではないその魔術を成功させてしまう。

で、

今この状況。

私がフェリシアになってる今、紫亜の身体にはフェリシアが入っているのだろう。
所作も言葉遣いも身体が覚えている。
これだけ身体に残されている情報が共有出来ていれば生活していく上で不自由はない筈だ、現に今まで誰にも気付かれていないーーフェリシアの中に違う人格わたしがいる事に。

そして、私にそんな禁術を解除するスペックはない。だって私はただの女子高生なのだ。一緒にハロウィンを過ごす予定だった友達が彼氏を作り、ドタキャンをくらった為、やけ食いをしながらのゲーム三昧をして過ごすはずの。

なので、

私は目覚めるなりまたも絶叫した。
「嘘でしょぉおっ!?」
誰か、嘘だと言ってーー!!



叫んでも王子は来ないーーて、来るわけないそもそも元凶が王子だった。
そう、まさに今目の前にいる婚約者を無視して可愛い彼女とイチャついてる王子が全ての元凶。
この国の王太子リカルド・シュナイタフだ。
ここは王太子専用サロンだ。
勿論王太子一人というより、王太子が他の生徒と交流するために誂えられたもので王太子の招きがあれば誰でも入れるーー逆に、なければ誰も入れないーーそして今このサロンには三人だけだ。
私と、王太子と、子爵令嬢、今はお昼休み。
私は定期的にここでお昼を頂いていた。
以前は二人で、現在は三人で。
いや、語弊があるなバカップル二人と私一人で、が正しい。

私とは最初に挨拶と執務の事で二、三言話しただけでその後は隣に置いた子爵令嬢のみと甘ったるい会話を繰り広げている。
「今日このブローチを付けてみたら皆が素敵だって褒めてくれましたの!」
そりゃ、それいい品だからね。
「それは良かったな」
「はい!お陰で皆の輪に入れていただけてとても嬉しかったですわ!」
いちいち目をキラキラさせて、ハイトーンな猫撫で声で。
そのテンション疲れない?
「私も嬉しいよ」
蕩けるような笑みで微笑む顔だけは素晴らしい王太子、いやもうバカ王子でいいや顔は良いけど元凶だしーーの指先が子爵令嬢の髪を愛おしげに梳きながら、
「君の髪は本当に綺麗だなーーフェリシナ」
そう、この子爵令嬢の名前は奇しくもフェリシナという。
フェリシアと一文字違い、髪はきらきらの金髪、瞳は明るい翠。顔はーー可愛いけどあざとさが隠しきれていないしフェリシアの方が美人だと思う。
因みに王子も青みがかった金髪に青い瞳の美青年だーー中身残念だけど。

こんな感じで二人は目の前の婚約者を無視してロマンス劇場を繰り広げている。
これもう私のこと見えてないよね?
つーか婚約者を向かいに置いて子爵令嬢を隣しかも至近距離に置くって何なの?!
そもそも距離感おかしいだろお前ら、常識に疎い子爵令嬢はともかく王子オマエ面倒なマナーの権化じゃないのかよ?!
給仕してる人たちだって明らかに引いてるわよっ?!

私は堪らず手にしたカトラリーを置いて席を立つと、目の前の二人が驚いたようにこちらを見る。
バカ王子は純粋な驚き、子爵令嬢は勝ち誇った瞳ーーしっかり王子から見えない角度を保ってる辺りは流石というべきか王子に見る目がなさすぎるというか。
私はそんな二人に挑戦的な瞳を向け、
「あら、見えておられましたのね?あたかもこちらにはお二人しかおられないと思ってらっしゃるご様子でしたのに」
「なっ……「私はお邪魔のようですから失礼致しますわね?」」
何か言いかけたバカ王子に被せて言うと、
「ご馳走様でした」
とお礼を(バカップルにじゃない、給仕さん達にだ)言って退出した。
言われた給仕と控えていた王子の侍従は驚いて
「フォルトナ様……」
「フォルトナ嬢…?」
と声をかけてきたが、
「今までありがとう」とだけ返し、その場を後にした。


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