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「申し訳なかった、エルドア子爵。貴方の思いも知らず、一方的に責める資格など俺にはなかったのに」
「いえ。私も言葉にも態度にも出すことなくここまで来てしまいました」
「いや、貴殿のいう通りだった。俺は書類上の婚姻でリーアの十二歳からの八年間__女性にとって最も大切な時期を何もせず縛り続けた。貴殿の言っていた言葉は正しい」
「いえ、私こそ娘から頼られる父親にはなれませんでした。ガゼル子爵に紹介状の件で連絡があった際にも、もしその家庭教師に何か異変があったら知らせてほしいと伝えるくらいしかできなかった。だが、貴方は違った」
エルドア子爵はそこでエドワードを見あげ、次いでアルスリーアに向けた目を眩しそうに細めた。
「貴方は方々に手を尽くし、捜し出し、私は何のヒントも与えなかったのに__、ガゼル子爵の元に通って礼を尽くし、夫人として迎え入れてくださったと聞いております。私が言うことではありませんが、あの頑固な娘をよく説得できたものだと感服いたしました」
「ああ、彼女にはもの凄く怒られた。“相手にも心があることを忘れるな“、“言うべきことはちゃんと伝えろ“と」
「……左様でしたか」
苦笑いする子爵に、
「其方らはもう少し相手に伝える努力をすべきじゃのう」
呆れたように国王が突っ込み、
「本当ですわ。全く男ど__、いえ殿方の“言わなくても伝わってるだろう“とか“言わずとも察してくれるだろう“、挙句の果てに“これくらいは謝れば許してもらえるだろう“という謎の確信はどこからきていますの?ただの都合の良い思い込みでしかないというのに」
王妃の怒りは健在だった。
「申し訳ありません、王妃陛下」
エドワードが素直に頭を下げ、
「今更ながら身に突き刺さる思いです」
エルドア子爵も恭しく礼を取り、
「……色々済まんかった」
と国王が呟いた。
(色々なにやらかしたんですか国王陛下……)
どう突っ込んで良いかわからないところに、この流れに入れない人が突っ込んできた。
「おい!私を除いて勝手に話をまとめるんじゃない!エドワード、お前はうちに生まれて良い教育を受けられたからこそその地位まで昇りつめたんだぞ?その恩を忘れるな!」
「あら嫌だまだいたの?」
喰ってかかるフェンティ侯爵を即座に斬って捨てたのは王妃だった。
「最低限の教育の間違いだろう、馬鹿か?」
続いてエドワードに突っ込まれ、国王夫妻はその援護射撃にまわる。
「下っ端騎士から戦地で位が上がるのに実家のコネなんぞ通用するわけないだろうが、エドワードの実力じゃ」
「わかったらとっとと退がりなさい、貴方への確認は終わったわ」
「し、ししししかし!その娘への配慮が足りなかったのはエルドア子爵も同罪で!なのに私だけがこのような、」
「なに言ってるのよ貴方はエドワードは別の女性と結婚させるからアルスリーアに身を引けなどと言おうとしてたでしょう?そういえば聞き忘れていたわ。エルドア子爵、貴方も最初フェンティ伯に怒りを覚えていたのでしょう、今はどうなの?」
「栄誉ある騎士伯とその夫人に迎えられた方に私ごときが何も言えようはずがありません。臣下としてお二人の幸せを願うのみです」
「いえ。私も言葉にも態度にも出すことなくここまで来てしまいました」
「いや、貴殿のいう通りだった。俺は書類上の婚姻でリーアの十二歳からの八年間__女性にとって最も大切な時期を何もせず縛り続けた。貴殿の言っていた言葉は正しい」
「いえ、私こそ娘から頼られる父親にはなれませんでした。ガゼル子爵に紹介状の件で連絡があった際にも、もしその家庭教師に何か異変があったら知らせてほしいと伝えるくらいしかできなかった。だが、貴方は違った」
エルドア子爵はそこでエドワードを見あげ、次いでアルスリーアに向けた目を眩しそうに細めた。
「貴方は方々に手を尽くし、捜し出し、私は何のヒントも与えなかったのに__、ガゼル子爵の元に通って礼を尽くし、夫人として迎え入れてくださったと聞いております。私が言うことではありませんが、あの頑固な娘をよく説得できたものだと感服いたしました」
「ああ、彼女にはもの凄く怒られた。“相手にも心があることを忘れるな“、“言うべきことはちゃんと伝えろ“と」
「……左様でしたか」
苦笑いする子爵に、
「其方らはもう少し相手に伝える努力をすべきじゃのう」
呆れたように国王が突っ込み、
「本当ですわ。全く男ど__、いえ殿方の“言わなくても伝わってるだろう“とか“言わずとも察してくれるだろう“、挙句の果てに“これくらいは謝れば許してもらえるだろう“という謎の確信はどこからきていますの?ただの都合の良い思い込みでしかないというのに」
王妃の怒りは健在だった。
「申し訳ありません、王妃陛下」
エドワードが素直に頭を下げ、
「今更ながら身に突き刺さる思いです」
エルドア子爵も恭しく礼を取り、
「……色々済まんかった」
と国王が呟いた。
(色々なにやらかしたんですか国王陛下……)
どう突っ込んで良いかわからないところに、この流れに入れない人が突っ込んできた。
「おい!私を除いて勝手に話をまとめるんじゃない!エドワード、お前はうちに生まれて良い教育を受けられたからこそその地位まで昇りつめたんだぞ?その恩を忘れるな!」
「あら嫌だまだいたの?」
喰ってかかるフェンティ侯爵を即座に斬って捨てたのは王妃だった。
「最低限の教育の間違いだろう、馬鹿か?」
続いてエドワードに突っ込まれ、国王夫妻はその援護射撃にまわる。
「下っ端騎士から戦地で位が上がるのに実家のコネなんぞ通用するわけないだろうが、エドワードの実力じゃ」
「わかったらとっとと退がりなさい、貴方への確認は終わったわ」
「し、ししししかし!その娘への配慮が足りなかったのはエルドア子爵も同罪で!なのに私だけがこのような、」
「なに言ってるのよ貴方はエドワードは別の女性と結婚させるからアルスリーアに身を引けなどと言おうとしてたでしょう?そういえば聞き忘れていたわ。エルドア子爵、貴方も最初フェンティ伯に怒りを覚えていたのでしょう、今はどうなの?」
「栄誉ある騎士伯とその夫人に迎えられた方に私ごときが何も言えようはずがありません。臣下としてお二人の幸せを願うのみです」
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