上 下
65 / 73

64

しおりを挟む
「申し訳なかった、エルドア子爵。貴方の思いも知らず、一方的に責める資格など俺にはなかったのに」
「いえ。私も言葉にも態度にも出すことなくここまで来てしまいました」
「いや、貴殿のいう通りだった。俺は書類上の婚姻でリーアの十二歳からの八年間__女性にとって最も大切な時期を何もせず縛り続けた。貴殿の言っていた言葉は正しい」
「いえ、私こそ娘から頼られる父親にはなれませんでした。ガゼル子爵に紹介状の件で連絡があった際にも、もしその家庭教師に何か異変があったら知らせてほしいと伝えるくらいしかできなかった。だが、貴方は違った」

エルドア子爵はそこでエドワードを見あげ、次いでアルスリーアに向けた目を眩しそうに細めた。
「貴方は方々に手を尽くし、捜し出し、私は何のヒントも与えなかったのに__、ガゼル子爵の元に通って礼を尽くし、夫人として迎え入れてくださったと聞いております。私が言うことではありませんが、あの頑固な娘をよく説得できたものだと感服いたしました」
「ああ、彼女にはもの凄く怒られた。“相手にも心があることを忘れるな“、“言うべきことはちゃんと伝えろ“と」
「……左様でしたか」
苦笑いする子爵に、

「其方らはもう少し相手に伝える努力をすべきじゃのう」
呆れたように国王が突っ込み、
「本当ですわ。全く男ど__、いえ殿方の“言わなくても伝わってるだろう“とか“言わずとも察してくれるだろう“、挙句の果てに“これくらいは謝れば許してもらえるだろう“という謎の確信はどこからきていますの?ただの都合の良い思い込みでしかないというのに」
王妃の怒りは健在だった。

「申し訳ありません、王妃陛下」
エドワードが素直に頭を下げ、
「今更ながら身に突き刺さる思いです」
エルドア子爵も恭しく礼を取り、
「……色々済まんかった」
と国王が呟いた。

(色々なにやらかしたんですか国王陛下……)
どう突っ込んで良いかわからないところに、この流れに入れない人が突っ込んできた。
「おい!私を除いて勝手に話をまとめるんじゃない!エドワード、お前はうちに生まれて良い教育を受けられたからこそその地位まで昇りつめたんだぞ?その恩を忘れるな!」
「あら嫌だまだいたの?」
喰ってかかるフェンティ侯爵を即座に斬って捨てたのは王妃だった。
「最低限の教育の間違いだろう、馬鹿か?」
続いてエドワードに突っ込まれ、国王夫妻はその援護射撃にまわる。
「下っ端騎士から戦地で位が上がるのに実家のコネなんぞ通用するわけないだろうが、エドワードの実力じゃ」
「わかったらとっとと退がりなさい、貴方への確認は終わったわ」
「し、ししししかし!その娘への配慮が足りなかったのはエルドア子爵も同罪で!なのに私だけがこのような、」
「なに言ってるのよ貴方はエドワードは別の女性と結婚させるからアルスリーアに身を引けなどと言おうとしてたでしょう?そういえば聞き忘れていたわ。エルドア子爵、貴方も最初フェンティ伯に怒りを覚えていたのでしょう、今はどうなの?」

「栄誉ある騎士伯とその夫人に迎えられた方に私ごときが何も言えようはずがありません。臣下としてお二人の幸せを願うのみです」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

処理中です...