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「どちら様でしょうか?私はアルスリーア・フェンティと申します」
そうアルスリーアが発したと同時に、どこかでブハッと吹き出す音がしたような気がするが、場の固まった空気に割って入ることは出来なかったようだ。
フェンティ侯爵は十二歳以降のアルスリーアを知らないだけでなく、今日のアルスリーアの仕上がりは王室謹製だ。
ドレス生地ひとつとっても最高級品、身に付けている髪飾りは重くならないようにひとつひとつの粒こそ小さいがカラーダイヤモンドを中心に色とりどりに散りばめられ、首元を飾る宝石は大粒のブルーサファイア、それもエドワードの瞳の色に合わせている。
レベッカは自国の民族衣装に近いドレスなのでデザインが違うのは当然だが、金色にこだわって頭の天辺に載せられた飾りから爪先までキンキラキンなので__黒髪黒目であるからよく映えて似合ってはいるのだが__ちょっとやりすぎで眩しかった。
というか、「そこまでふんだんに金を使われるとかえって安っぽく見えてしまう」
とアデリアの王妃御用達デザイナーなら言っただろう。
そこまで金一色の王女と並んでも、アルスリーアの装いの方が華やかだった。
アルスリーアのドレスは青のグラデーションカラーで、金は裾やグラデーションの一部にポイントに使われているだけなのに、立っているだけで華があり、胸元の石こそ大きめだがアルスリーアの佇まいはそれを身につけるに相応しいと見る者を納得させるだけのものがあった。
この隣に並んで遜色がないのは王妃だけだろうというレベルに仕上がっているアルスリーアを前に、フェンティ侯爵が本人か戸惑うのはわかるが、アルスリーアは違う。
記憶力の良い彼女が八年間会わなかったくらいで忘れるはずがないのだ。
なのに、敢えてこう言い放った理由がわかる人間は思わず吹き出してしまったのだろう、彼女の意図するところを汲み取って。
だが、この侯爵がそんな意図を察せるはずもなく、
「な__、何を言っているんだ?君がアルスリーア・フェンティならば私の息子の妻だろう、まさか義理の父親の顔を忘れたのか?」
と不快そうに詰め寄ったので、広間のクスクス笑いの数は増えていった。
そんなフェンティ侯爵の憤慨など どこ吹く風で、
「まあ__私に義理の父などおりましたかしら?」
アルスリーアは戸惑いの表情でエドワードに水を向ける。
「いいや、いないな。仮に義理でも父親を名乗るなら俺がいない間君への気遣いのひとつや二つ__いや八年分ならば百ぐらいか?あってもいいはずだが八年間、何もしなかったのだろう?そんなのは父でも遠縁の親戚ですらない、知らないじじいだろう」
「ですわよね?そういえば八年前お伺いした時に『何も知らない』といったおじさまに似ている気がしますけれど……」
「気のせいだろう、知らないおじさんで合っている」
ダンス同様、ここでもまた実に息の合った二人だった。
そうアルスリーアが発したと同時に、どこかでブハッと吹き出す音がしたような気がするが、場の固まった空気に割って入ることは出来なかったようだ。
フェンティ侯爵は十二歳以降のアルスリーアを知らないだけでなく、今日のアルスリーアの仕上がりは王室謹製だ。
ドレス生地ひとつとっても最高級品、身に付けている髪飾りは重くならないようにひとつひとつの粒こそ小さいがカラーダイヤモンドを中心に色とりどりに散りばめられ、首元を飾る宝石は大粒のブルーサファイア、それもエドワードの瞳の色に合わせている。
レベッカは自国の民族衣装に近いドレスなのでデザインが違うのは当然だが、金色にこだわって頭の天辺に載せられた飾りから爪先までキンキラキンなので__黒髪黒目であるからよく映えて似合ってはいるのだが__ちょっとやりすぎで眩しかった。
というか、「そこまでふんだんに金を使われるとかえって安っぽく見えてしまう」
とアデリアの王妃御用達デザイナーなら言っただろう。
そこまで金一色の王女と並んでも、アルスリーアの装いの方が華やかだった。
アルスリーアのドレスは青のグラデーションカラーで、金は裾やグラデーションの一部にポイントに使われているだけなのに、立っているだけで華があり、胸元の石こそ大きめだがアルスリーアの佇まいはそれを身につけるに相応しいと見る者を納得させるだけのものがあった。
この隣に並んで遜色がないのは王妃だけだろうというレベルに仕上がっているアルスリーアを前に、フェンティ侯爵が本人か戸惑うのはわかるが、アルスリーアは違う。
記憶力の良い彼女が八年間会わなかったくらいで忘れるはずがないのだ。
なのに、敢えてこう言い放った理由がわかる人間は思わず吹き出してしまったのだろう、彼女の意図するところを汲み取って。
だが、この侯爵がそんな意図を察せるはずもなく、
「な__、何を言っているんだ?君がアルスリーア・フェンティならば私の息子の妻だろう、まさか義理の父親の顔を忘れたのか?」
と不快そうに詰め寄ったので、広間のクスクス笑いの数は増えていった。
そんなフェンティ侯爵の憤慨など どこ吹く風で、
「まあ__私に義理の父などおりましたかしら?」
アルスリーアは戸惑いの表情でエドワードに水を向ける。
「いいや、いないな。仮に義理でも父親を名乗るなら俺がいない間君への気遣いのひとつや二つ__いや八年分ならば百ぐらいか?あってもいいはずだが八年間、何もしなかったのだろう?そんなのは父でも遠縁の親戚ですらない、知らないじじいだろう」
「ですわよね?そういえば八年前お伺いした時に『何も知らない』といったおじさまに似ている気がしますけれど……」
「気のせいだろう、知らないおじさんで合っている」
ダンス同様、ここでもまた実に息の合った二人だった。
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