20 / 73
19
しおりを挟む
「いらっしゃいませ、フェンティ様」
翌日やって来たエドワードを丁寧に迎えると、吃驚した顔をされた。
(そんなに驚かなくても。__そりゃ、最初は酷かったけど)
「本日はお休みをいただきましたので、軽いものしか用意出来ませんでしたがどうぞ」
とアフタヌーンティーの席へエドワードを促す。
「あ あぁ、ありがとう……今日は、これを君に」
一瞬呆けていたエドワードは、いつものような花束でなく、小さな小箱を差し出した。
「これは?」
「髪留めだ。君が十六の時に髪をばっさり切ったと聞いて驚いたけど、もう伸びてるみたいだしその……、仕事中は付けないとしても休みの日なんかに使えると思う」
(髪留め……指輪やネックレスみたなものだったら恋人同士でもないのにって断れるけれどこれは)
逡巡するアルスリーアに、エドワードが慌てたように言う。
「だ、大丈夫だ、受け取ったからって求婚を受け入れてもらえたなんて自惚れたりはしない!受け取ってもらえたらそれで良いんだ」
「……はい、ありがとうございます」
アルスリーアは僅かに微笑んで受け取り、二人とも席に着いた。
「ディーン様から聞きました。その、出征中のエドワード様の「__えっ?!」、」
「ディーンが?アイツ何言ったの?!」
(まさか毎日リーアの可愛さを語ってたこととか遠征中たまたま見つけた場所でこんな所ならリーアと来たかったとか言ってたこと喋ったのかあいつ?!)
「い、いえ聞いたのは少しだけですその__エドワード様が戦場で強かったのは私を迎えに行く約束を果たすためだったと。それは事実、なのでしょうか?」
躊躇いがちに尋ねるアルスリーアの瞳が不安げに揺れる。
「っ……」
言葉を失うエドワードを見てやっぱり違って頓珍漢なことを言ってしまったかと口元を覆うアルスリーアに、
「……の、」
「え?」
「そんなの当たり前じゃないかっ!他に何か理由があるのかっ?!」
と立ち上がって激昂した。
「え、と」
仰け反りつつ、アルスリーアは冷静に疑問をぶつけていく。
(そりゃあるでしょう、国とか家族とか、騎士仲間とか色々?)
「だって、ディーン様を助ける為に、急いで向かったのですよね?私には何も言わずに?」
「っ、それは__そうだけど、」
言われてシュン、となったエドワードがすとんと席に戻る。
「あるじゃないですか、他の理由」
「きっかけはそうだけど決心したのはそうじゃない」
「どういう意味ですか?」
「騎士になろうと思ったのは泣いてる君を守りたかったから、騎士として出世しようと思ったのは君に苦労させたくなかったからだ。俺は何の相続権もない三男坊だし、身分からいっても経験値からしても卒業したての新米が最前線に出されることは本来ならまずない。けどそれがあっさり通るくらい、当時の前線は押されていた。そこへディーンが行方不明になったって聞いて、今すぐ行かなきゃって思った。」
「騎士になった理由は私で、前線に向かったのはディーン様を死なせたくなかったから、ですよね?」
「そうだね。付け加えるなら、俺が幼馴染の女の子の話をした時に君と正式に婚約して、君の卒業までに立派な騎士になればいいって言ってくれたのもディーンなんだ。当時の俺に君を幸せに出来る自信はなかった。彼は二歳上なだけでなく、学園を十五で辞めて騎士として五年やって来た人で、いつもアドバイスを貰ってた。そんな彼を絶対に死なせたくなかったのも本当だけど、同時にリーアが泣いて止めるだろうなってこともわかってた。__だから、目を逸らした」
翌日やって来たエドワードを丁寧に迎えると、吃驚した顔をされた。
(そんなに驚かなくても。__そりゃ、最初は酷かったけど)
「本日はお休みをいただきましたので、軽いものしか用意出来ませんでしたがどうぞ」
とアフタヌーンティーの席へエドワードを促す。
「あ あぁ、ありがとう……今日は、これを君に」
一瞬呆けていたエドワードは、いつものような花束でなく、小さな小箱を差し出した。
「これは?」
「髪留めだ。君が十六の時に髪をばっさり切ったと聞いて驚いたけど、もう伸びてるみたいだしその……、仕事中は付けないとしても休みの日なんかに使えると思う」
(髪留め……指輪やネックレスみたなものだったら恋人同士でもないのにって断れるけれどこれは)
逡巡するアルスリーアに、エドワードが慌てたように言う。
「だ、大丈夫だ、受け取ったからって求婚を受け入れてもらえたなんて自惚れたりはしない!受け取ってもらえたらそれで良いんだ」
「……はい、ありがとうございます」
アルスリーアは僅かに微笑んで受け取り、二人とも席に着いた。
「ディーン様から聞きました。その、出征中のエドワード様の「__えっ?!」、」
「ディーンが?アイツ何言ったの?!」
(まさか毎日リーアの可愛さを語ってたこととか遠征中たまたま見つけた場所でこんな所ならリーアと来たかったとか言ってたこと喋ったのかあいつ?!)
「い、いえ聞いたのは少しだけですその__エドワード様が戦場で強かったのは私を迎えに行く約束を果たすためだったと。それは事実、なのでしょうか?」
躊躇いがちに尋ねるアルスリーアの瞳が不安げに揺れる。
「っ……」
言葉を失うエドワードを見てやっぱり違って頓珍漢なことを言ってしまったかと口元を覆うアルスリーアに、
「……の、」
「え?」
「そんなの当たり前じゃないかっ!他に何か理由があるのかっ?!」
と立ち上がって激昂した。
「え、と」
仰け反りつつ、アルスリーアは冷静に疑問をぶつけていく。
(そりゃあるでしょう、国とか家族とか、騎士仲間とか色々?)
「だって、ディーン様を助ける為に、急いで向かったのですよね?私には何も言わずに?」
「っ、それは__そうだけど、」
言われてシュン、となったエドワードがすとんと席に戻る。
「あるじゃないですか、他の理由」
「きっかけはそうだけど決心したのはそうじゃない」
「どういう意味ですか?」
「騎士になろうと思ったのは泣いてる君を守りたかったから、騎士として出世しようと思ったのは君に苦労させたくなかったからだ。俺は何の相続権もない三男坊だし、身分からいっても経験値からしても卒業したての新米が最前線に出されることは本来ならまずない。けどそれがあっさり通るくらい、当時の前線は押されていた。そこへディーンが行方不明になったって聞いて、今すぐ行かなきゃって思った。」
「騎士になった理由は私で、前線に向かったのはディーン様を死なせたくなかったから、ですよね?」
「そうだね。付け加えるなら、俺が幼馴染の女の子の話をした時に君と正式に婚約して、君の卒業までに立派な騎士になればいいって言ってくれたのもディーンなんだ。当時の俺に君を幸せに出来る自信はなかった。彼は二歳上なだけでなく、学園を十五で辞めて騎士として五年やって来た人で、いつもアドバイスを貰ってた。そんな彼を絶対に死なせたくなかったのも本当だけど、同時にリーアが泣いて止めるだろうなってこともわかってた。__だから、目を逸らした」
628
お気に入りに追加
2,952
あなたにおすすめの小説
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる