14 / 73
13
しおりを挟む
「……立派に自立した、大人の女性に、見える」
青い瞳に真正面から見つめられてうろたえながら、エドワードは思うままに答えた。
「それは良かったです。ところでフェンティ様、人には心があることはご存知ですか?」
「?勿論だ」
「ではそれを踏まえた上でお答え下さい、何も説明せず、互いに消息さえ知り得ない相手が貴方の計画通りに動くと、無条件に何年も自分を待っていると、何故思えたのです?また自分が同じ状況に置かれたとしたらどうしますか?」
将来を約束していた相手が理由も告げず目の前から去った。
たまに生存報告程度の短い手紙だけが来るが、自分からは送れない。
勝手に入籍していたのに、相手の実家からも何も連絡がない。
実家は跡継ぎである弟のもので、早く結婚して出ていけと言われている。
相手は四年後には迎えに来ると言って来なかった__このまま待っていて何になる?
自分なら、そう考える。
そこまで考えてざぁっと血の気がひく。
「すまなかっ……リーア、俺は、なんてことを」
「思い至っていただけて良かったです、そう、私はもう貴方の知る幼い泣き虫のリーアではないのです。」
“リーア“ “エディ“ “僕“ “わたし“
どれも幼い頃しか使っていないワード。
お互い呼び合わなくなって八年。
それをエドワードは意図せず行っていた、リーアといる時は“僕“で騎士団にいる時は“俺“という使い分けを。
「貴方を無心に慕っていた幼い少女はもうどこにもおりません。ですから、「ストップだ」え?」
「俺が悪かったのはわかった。何度でも謝る。だから一方的に終わらそうとするな」
ここでエドワードの纏う雰囲気が変わる。
(お?軍を指揮する時の団長だ)
アルスリーアも一瞬呑まれて黙るが、
「それは、ご命令ですか?フェンティ伯閣下」
即座に切り返した。
(強いな、アルスリーア嬢)
「っ……命令じゃない、すまないリーア。君に命令なんかしない__八年前、黙っていなくなって本当にすまなかった。その後も、ろくに連絡も、デビュタントに間に合わなかったことも、本当に申し訳なかった。けど、ずっと君を想ってたことも本当なんだ嘘じゃない」
「……遠くで想うだけでは、何も伝わりません」
「アルスリーア嬢!」
流石に非難するディーンに、アルスリーアは冷静に問う。
「ではなぜ行動で示さなかったんです?」
「だからそれはっ……」
「団長は戦地でっ……」
同時に言い返す二人に、
「戦地でどうこうを言ってるのではありませんよ?まずフェンティ様は出立前“行かないで“と止める私に取り合うことをしませんでした。次に、黙って婚姻届を出して行ってしまったことと、そのことについて手紙で一言も触れなかったこと。ほんの短い文しか送れなくても、毎回ひと言ずつ伝えることは出来たのではないですか?毎回同じ相手の息災を願う文でなく、例えば“行方不明だった友人と合流出来た“とか“いない間に政略で婚約者を変えられたくなかった“とか、そういった文言でも散りばめてくださったら、私にも推測できたかもしれませんのに__同じ理由でデビュタントもです、“間に合いそうにない、済まない“とでも送ってくださってたら待つ気持ちにもなったかもしれませんわ」
「それは__」
リーアが止めた時、顔を見ていたら決心が鈍りそうだからすぐに目を逸らした。
行っている間に誰かに取られたくないから籍を入れた__自分の身勝手でしかない。
リーアを守る為にもっと強くなって帰って来れば許されると思っていた。
戦地に行ってすぐからリーアの顔が毎晩ちらついて離れなくて、想いは募るばかりで、でも手紙にそんな卑怯な本音や弱音なんか書けなかった。
リーアの前ではずっとかっこいい騎士でいたかったから。
帰って顔を見て伝えたかった全部、お詫びも想いも。
想いの一部を、贈り物に託したつもりでいた。
どれもこれも一方的な想いで、伝えていなかった__一番大切なひと言を。
青い瞳に真正面から見つめられてうろたえながら、エドワードは思うままに答えた。
「それは良かったです。ところでフェンティ様、人には心があることはご存知ですか?」
「?勿論だ」
「ではそれを踏まえた上でお答え下さい、何も説明せず、互いに消息さえ知り得ない相手が貴方の計画通りに動くと、無条件に何年も自分を待っていると、何故思えたのです?また自分が同じ状況に置かれたとしたらどうしますか?」
将来を約束していた相手が理由も告げず目の前から去った。
たまに生存報告程度の短い手紙だけが来るが、自分からは送れない。
勝手に入籍していたのに、相手の実家からも何も連絡がない。
実家は跡継ぎである弟のもので、早く結婚して出ていけと言われている。
相手は四年後には迎えに来ると言って来なかった__このまま待っていて何になる?
自分なら、そう考える。
そこまで考えてざぁっと血の気がひく。
「すまなかっ……リーア、俺は、なんてことを」
「思い至っていただけて良かったです、そう、私はもう貴方の知る幼い泣き虫のリーアではないのです。」
“リーア“ “エディ“ “僕“ “わたし“
どれも幼い頃しか使っていないワード。
お互い呼び合わなくなって八年。
それをエドワードは意図せず行っていた、リーアといる時は“僕“で騎士団にいる時は“俺“という使い分けを。
「貴方を無心に慕っていた幼い少女はもうどこにもおりません。ですから、「ストップだ」え?」
「俺が悪かったのはわかった。何度でも謝る。だから一方的に終わらそうとするな」
ここでエドワードの纏う雰囲気が変わる。
(お?軍を指揮する時の団長だ)
アルスリーアも一瞬呑まれて黙るが、
「それは、ご命令ですか?フェンティ伯閣下」
即座に切り返した。
(強いな、アルスリーア嬢)
「っ……命令じゃない、すまないリーア。君に命令なんかしない__八年前、黙っていなくなって本当にすまなかった。その後も、ろくに連絡も、デビュタントに間に合わなかったことも、本当に申し訳なかった。けど、ずっと君を想ってたことも本当なんだ嘘じゃない」
「……遠くで想うだけでは、何も伝わりません」
「アルスリーア嬢!」
流石に非難するディーンに、アルスリーアは冷静に問う。
「ではなぜ行動で示さなかったんです?」
「だからそれはっ……」
「団長は戦地でっ……」
同時に言い返す二人に、
「戦地でどうこうを言ってるのではありませんよ?まずフェンティ様は出立前“行かないで“と止める私に取り合うことをしませんでした。次に、黙って婚姻届を出して行ってしまったことと、そのことについて手紙で一言も触れなかったこと。ほんの短い文しか送れなくても、毎回ひと言ずつ伝えることは出来たのではないですか?毎回同じ相手の息災を願う文でなく、例えば“行方不明だった友人と合流出来た“とか“いない間に政略で婚約者を変えられたくなかった“とか、そういった文言でも散りばめてくださったら、私にも推測できたかもしれませんのに__同じ理由でデビュタントもです、“間に合いそうにない、済まない“とでも送ってくださってたら待つ気持ちにもなったかもしれませんわ」
「それは__」
リーアが止めた時、顔を見ていたら決心が鈍りそうだからすぐに目を逸らした。
行っている間に誰かに取られたくないから籍を入れた__自分の身勝手でしかない。
リーアを守る為にもっと強くなって帰って来れば許されると思っていた。
戦地に行ってすぐからリーアの顔が毎晩ちらついて離れなくて、想いは募るばかりで、でも手紙にそんな卑怯な本音や弱音なんか書けなかった。
リーアの前ではずっとかっこいい騎士でいたかったから。
帰って顔を見て伝えたかった全部、お詫びも想いも。
想いの一部を、贈り物に託したつもりでいた。
どれもこれも一方的な想いで、伝えていなかった__一番大切なひと言を。
747
お気に入りに追加
2,838
あなたにおすすめの小説
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです
天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。
その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。
元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。
代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
人の顔色ばかり気にしていた私はもういません
風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。
私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。
彼の姉でなく、私の姉なのにだ。
両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。
そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。
寄り添うデイリ様とお姉様。
幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。
その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。
そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。
※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。
※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる