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「……立派に自立した、大人の女性に、見える」
青い瞳に真正面から見つめられてうろたえながら、エドワードは思うままに答えた。
「それは良かったです。ところでフェンティ様、人には心があることはご存知ですか?」
「?勿論だ」
「ではそれを踏まえた上でお答え下さい、何も説明せず、互いに消息さえ知り得ない相手が貴方の計画通りに動くと、無条件に何年も自分を待っていると、何故思えたのです?また自分が同じ状況に置かれたとしたらどうしますか?」

将来を約束していた相手が理由も告げず目の前から去った。
たまに生存報告程度の短い手紙だけが来るが、自分からは送れない。
勝手に入籍していたのに、相手の実家からも何も連絡がない。
実家は跡継ぎである弟のもので、早く結婚して出ていけと言われている。
相手は四年後には迎えに来ると言って来なかった__このまま待っていて何になる?

自分なら、そう考える。

そこまで考えてざぁっと血の気がひく。
「すまなかっ……リーア、俺は、なんてことを」
「思い至っていただけて良かったです、そう、私はもう貴方の知る幼い泣き虫のリーアではないのです。」
“リーア“ “エディ“ “僕“ “わたし“
どれも幼い頃しか使っていないワード。
お互い呼び合わなくなって八年。
それをエドワードは意図せず行っていた、リーアといる時は“僕“で騎士団にいる時は“俺“という使い分けを。

「貴方を無心に慕っていた幼い少女はもうどこにもおりません。ですから、「ストップだ」え?」
「俺が悪かったのはわかった。何度でも謝る。だから一方的に終わらそうとするな」
ここでエドワードの纏う雰囲気が変わる。
(お?軍を指揮する時の団長だ)
アルスリーアも一瞬呑まれて黙るが、
「それは、ご命令ですか?フェンティ伯閣下」
即座に切り返した。
(強いな、アルスリーア嬢)

「っ……命令じゃない、すまないリーア。君に命令なんかしない__八年前、黙っていなくなって本当にすまなかった。その後も、ろくに連絡も、デビュタントに間に合わなかったことも、本当に申し訳なかった。けど、ずっと君を想ってたことも本当なんだ嘘じゃない」
「……遠くで想うだけでは、何も伝わりません」
「アルスリーア嬢!」
流石に非難するディーンに、アルスリーアは冷静に問う。
「ではなぜ行動で示さなかったんです?」
「だからそれはっ……」
「団長は戦地でっ……」
同時に言い返す二人に、
「戦地でどうこうを言ってるのではありませんよ?まずフェンティ様は出立前“行かないで“と止める私に取り合うことをしませんでした。次に、黙って婚姻届を出して行ってしまったことと、そのことについて手紙で一言も触れなかったこと。ほんの短い文しか送れなくても、毎回ひと言ずつ伝えることは出来たのではないですか?毎回同じ相手の息災を願う文でなく、例えば“行方不明だった友人と合流出来た“とか“いない間に政略で婚約者を変えられたくなかった“とか、そういった文言でも散りばめてくださったら、私にも推測できたかもしれませんのに__同じ理由でデビュタントもです、“間に合いそうにない、済まない“とでも送ってくださってたら待つ気持ちにもなったかもしれませんわ」

「それは__」
リーアが止めた時、顔を見ていたら決心が鈍りそうだからすぐに目を逸らした。
行っている間に誰かに取られたくないから籍を入れた__自分の身勝手でしかない。
リーアを守る為にもっと強くなって帰って来れば許されると思っていた。
戦地に行ってすぐからリーアの顔が毎晩ちらついて離れなくて、想いは募るばかりで、でも手紙にそんな卑怯な本音や弱音なんか書けなかった。

リーアの前ではずっとかっこいい騎士でいたかったから。
帰って顔を見て伝えたかった全部、お詫びも想いも。
想いの一部を、贈り物に託したつもりでいた。

どれもこれも一方的な想いで、伝えていなかった__一番大切なひと言を。














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