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エルドア子爵家を辞した後、エドワードは渡された箱を馬に括りつけ、自分は馬の手綱を引いてとぼとぼと歩いていた。
そう、馬に乗らず歩いているのだ。
“とぼとぼ“と注釈を加えたくなるレベルでしょんぼりと歩く様は本当に哀しげでこれが“常勝将軍“と言われる男だとは誰も信じないだろう。

それにしても__、事態は思っていたより深刻だった。
経緯自体は聞いていた。
書類上だけ婚約者と籍を入れて来たことも、彼女の父親が長男にしか情の向かない男であることも聞いてはいた。
だが、実際はずっと酷かった。
エルドア子爵は食えない男ではあったが常識のない人物には見えなかった__ていうか本人の承諾なしに入籍してたのか、この戦場では頼りになる上司は?
__何やってんだ。

と、
言いたいところだがここまで哀愁漂う背中を見せられてしまっては言うに言えない。
自分は副官として彼が戦場で強かったのは、早く戦いを終えて彼女を迎えに行く為だったのだと知っていたし、デビュタントの日に贈る品を散々悩んで選んでいたことも知っている。
まぁ、悩みすぎたせいで間に合わなかったのだろうが。
計算通りなら、デビュタントの前日には着く予定だったのだ。

だが遠く離れた場所から品物を送る場合、遅延は避けて通れない。
天候や天災などのアクシデントで遅れが生じることを考慮してもっと早く送るべきだったのだ。
子爵から聞いた限りでは“デビュタントの日“が彼女にとって待てるリミットだったのだろう、その時点で既に四年待たされているのだ。
その間エドワードの実家である侯爵家で花嫁修行でもしていればまた違ったかもしれないが__完全なる放置により彼女は出奔、家を出てから既に四年、経過しているのだ。
聞いた限り思慮深い女性ひとのようだから、何の計画もなしに家を出たわけではないだろう。
だとすれば、頼ったツテが必ずあるはずだ。
「まずは学園か」
ディーンは彼女の捜索プランを頭の中で練り始めた。





「フェンティ団長が、行方知れずになった婚約者を探してるそうだよ」
そんな話を耳にしたのは休みの日に町に買い物に出た時だ。
さり気に品物を手に取りながら耳を澄ましていると、
「いや、婚約者じゃなくて奥様じゃなかったっけ?」
「いや、幼馴染だって聞いたけど」
「え?ただの幼馴染?」
「いや、だから幼馴染のご令嬢と婚約してたんだろ?」
「あれ団長ってもう結婚してるんじゃなかったっけ?」
まるで謎々のようだ、どれも間違ってないけど__いや、もしかしたら出征先から綺麗な奥方でも連れ帰って来たのかも知れない。
それで離婚手続きしたくて探してるとか?
「まぁ、もう私の知ったことじゃないか……」
名乗り出るつもりなんかない。
離婚したければ勝手にすれば良いのだ、八年前と同じように。

現在の住まいでもある領主館に戻ると、ご領主夫妻が客人を見送っているのが見えた。
領主夫妻自らということは身分の高い相手なのだろうが、立派な身なりの客人は「ではくれぐれも、よろしくお願い致します」と深々と頭を下げていた。
借金の申込か何かだろうか。
私は通用門から入るので客人に姿を見られることはない。
遠目に正門から出て行く客人を見送った。

「どなたが来られていたのですか?」
「あゝイリューシア、騎士団長のお使いの方だよ」
私はここではイリューシア・ハイドと名乗っている__て え、騎士団長?
「知っているかい?フェンティ団長の奥方が行方知れずで、今方々に人をやって捜索されているそうだ」
方々で、捜索?
「今、町で少しだけ聞きましたが……フェンティ様に奥様がいらっしゃったのですか?」
発表とかお披露目とかしてないんだから、言わなきゃ知られずに済んでよかったんじゃ?
「あゝ、戦争に行かれる前に誓って行かれた方がいたそうなのだが、行方不明になってしまわれたそうで将軍は大変ご心痛なのだそうだ」
いや誓ってないし。
「アルスリーア様という名で、赤い髪に青い瞳の女性だそうよ、イリューシアと同じね」
……ソウデスネ。
「私も領地内を廻って聞いてみるがイリューシアも何かわかったら知らせてくれ」
「……かしこまりました」
__そんなに離婚届を出すのが困難な状況なのだろうか?











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