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フローリアとネリーニ

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フローリアの亡骸は明るい花の色のドレスを着せられ、色とりどりの花で敷き詰められた棺に一晩安置された。
祈りの間には明るい光が灯され、化粧を施したフローリアはまるで花の妖精のように微笑んで眠っていた。
女生徒は数名のグループや或いは一人ずつでも希望に応じて入るのを許され、話したことが聞こえないように護衛の女性騎士はピッタリと閉ざした扉の向こうに控えた。
多くの女生徒が入れ替わり立ち替わり訪れた深更を見計らって、ネリーニはフローリアの元を訪れた。

「フローリア様……」
フローリアは美しかった。初めて学内で会った時と同じように。
「私たちを、助けるためだったのですね……?」
フローリアの言い方は“現在学園で玩具にされたのは自分だけだ“とあの場にいた者に印象付けた。
違うとわかっている者も、薄々そうではないと感じている者もこれから先口にすることはないだろう。
今まで恩恵を享受していた者も出来なくなるに違いない__というより学園そのものの存続も危うい。
学園の制度に縛られ、玩具にされたという令嬢が告発して自ら命を絶ったのだ。
広間にいた賓客たちもこれから先どうこの国の王家と付き合うつもりか協議していくことだろう。

他にお世話係をさせられていた令嬢も自分もフローリアに救われたのだ。
あの『結末を見届けにいらっしゃい』という招待状はこういう意味だったのだ。
「どうして、貴女が……」
大好きな先輩だった、憧れの女性だった。
「あんな屑の為に、死ななければならなかったのですか……?」
わかっている、彼女はもうそこまで追い詰められていたのだ。
あの屑の子など産みたくなかったのだろう。
おそらくだがエディアルもネリーニに同じような真似をするつもりだった。
あの二人はただ仲が良いのでなく、何かにつけ張り合っていたから。

どれくらいそうしていたのか、扉の外から声がかかり、ネリーニは一旦祈りの間を辞した。
その後こっそり別のグループに混じって入り、柱の影に身を隠した。
(せめて、最後のこの夜だけでも)
フローリアと共に過ごそうと、どうか彼女の魂が安らかでありますようにとネリーニは柱の影で祈った。
やがて棺の傍以外の照明が落とされ、しん と辺りが寝静まったようになった頃、静かに部屋を訪れた人がいた。

王妃だった。

「ごめんなさい……」
そう言いながら棺に近寄った王妃はフローリアの手を握り、慟哭した。

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……!気付いていたの、貴女が後宮に連れてこられた日、貴女の瞳を見てすぐにわかったの嗚呼この子はあの忌まわしい慣習の犠牲者なのだと、我が子がその愚を犯したのだと……!でも私は何も出来なかった、この国に嫁いで来てそのことを知った時私はなんとか撤廃しようと動いたけれどこの国に味方の少ない私にはそれが叶わなかった!我が子が何の疑問も持たずその制度を利用する子に育ってしまうことを止められなかった!何とか貴女が自死を選ばないようにすぐ側で見守ることしか出来ずに__結局貴女にこんな道を選ばせた……!」

(ああ……王妃様は知ってらしたんだわ)
だからあの時真っ直ぐにホワイト伯爵夫人に寄り添えたのだ。
「私に言い出す勇気がなくて、力がなくてごめんなさい__貴女の命懸けの訴えを、無駄にしないと誓うわ」
王妃は止めどなく涙を流しながらフローリアの亡骸に誓った。


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