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後宮 3
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「殿下から伺ってはいたが、顔色がよくないな。パネラが心配していたよ、手紙の返事が来ないと」
カンパネラは母の名だ。伯爵はパネラと呼んでいる。
「そんな余裕はございませんので。伯爵、お聞きしたいのですがあの時私があの部屋を訪れる前、殿下から何を言われたのです?」
「なっ……?」
「大事なことなのです、お話ください。できれば一言一句違えることなく」
「……殿下とお前が、恋仲になったと」
「いつ、どこで?」
「図書室で、よく顔を合わせるうちに本の感想やお薦めを言い合う仲になったと。そのうち、それ以外にも時間を見つけては人目を忍んで逢瀬を重ねるようになったと」
「それで?」
「その先は__、お前も聞いていたではないか!」
「いいえ?私はあの場で何も喋らせてはもらえませんでした。殿下と伯爵だけが勝手に話して、勝手に結論づけた。それだけですわ」
「っ、まさか__違うのか?」
「私は図書室で殿下と本に付いて語り合ったことなどございませんよ?」
「……何だと……?」
「全ては殿下の作り事__何故、先に私本人に確かめようとはして下さらなかったのですか?」
「何を馬鹿な__ならばお前のその腹の子は何だと言うのだ?!」
「私が望んでこうなったとでも思うのですか?」
伯爵が椅子から立ち上がって詰め寄ろうとした所で不穏な空気を察したのだろう、会話が届かない場所まで下がっていた騎士が「どうかなさいましたか?」と割って入った。
今は娘の方が身分が高いことを思い出したのだろう、「い、いえ、申し訳ありません」と伯爵は大人しく椅子に戻った。
「お時間はもう少しとってあります。お茶の用意を致しましょうか?」
と尋ねてくる侍女に、
「いえ、結構よ。__話は済んだから」
「……フローリア……?」
まるで冷たい水底のような瞳にホワイト伯爵は寒気を覚え、尋ねようとしたが「もう戻ります」とフローリアが立ち上がったので尋ねることは不可能だった。
立ち上がって見送る姿勢になった伯爵の横をすり抜け、扉を開けて待つ騎士や侍女たちのいる方へ体を向けたフローリアはすれ違い様、ひと言だけ伯爵に告げた。
一番告げるべき最後のひと言を。
カンパネラは母の名だ。伯爵はパネラと呼んでいる。
「そんな余裕はございませんので。伯爵、お聞きしたいのですがあの時私があの部屋を訪れる前、殿下から何を言われたのです?」
「なっ……?」
「大事なことなのです、お話ください。できれば一言一句違えることなく」
「……殿下とお前が、恋仲になったと」
「いつ、どこで?」
「図書室で、よく顔を合わせるうちに本の感想やお薦めを言い合う仲になったと。そのうち、それ以外にも時間を見つけては人目を忍んで逢瀬を重ねるようになったと」
「それで?」
「その先は__、お前も聞いていたではないか!」
「いいえ?私はあの場で何も喋らせてはもらえませんでした。殿下と伯爵だけが勝手に話して、勝手に結論づけた。それだけですわ」
「っ、まさか__違うのか?」
「私は図書室で殿下と本に付いて語り合ったことなどございませんよ?」
「……何だと……?」
「全ては殿下の作り事__何故、先に私本人に確かめようとはして下さらなかったのですか?」
「何を馬鹿な__ならばお前のその腹の子は何だと言うのだ?!」
「私が望んでこうなったとでも思うのですか?」
伯爵が椅子から立ち上がって詰め寄ろうとした所で不穏な空気を察したのだろう、会話が届かない場所まで下がっていた騎士が「どうかなさいましたか?」と割って入った。
今は娘の方が身分が高いことを思い出したのだろう、「い、いえ、申し訳ありません」と伯爵は大人しく椅子に戻った。
「お時間はもう少しとってあります。お茶の用意を致しましょうか?」
と尋ねてくる侍女に、
「いえ、結構よ。__話は済んだから」
「……フローリア……?」
まるで冷たい水底のような瞳にホワイト伯爵は寒気を覚え、尋ねようとしたが「もう戻ります」とフローリアが立ち上がったので尋ねることは不可能だった。
立ち上がって見送る姿勢になった伯爵の横をすり抜け、扉を開けて待つ騎士や侍女たちのいる方へ体を向けたフローリアはすれ違い様、ひと言だけ伯爵に告げた。
一番告げるべき最後のひと言を。
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