記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫

文字の大きさ
上 下
61 / 64

side ロッドハルト

しおりを挟む
戸惑う表情には、幼さを残しながらも淑女を感じずにおれない理知的な光が宿る。

もう、子供ではない。

勇敢で無鉄砲な子供は消え、正義感が強く凛とした少女へ成長し、艶やかに花開いた__レオンの為に。
この真っ直ぐな瞳も、華奢ながら豊かな膨らみを帯びた身体も、全てレオンのもの。
もう二人はひとつ屋根の下で暮らしている。



大いなる誤解だったが。





あの格子は国を守る結界障壁の長年の研究成果だった。
これだけ強力なら魔法使いが複数でかかっても解除は不可能、破壊に多勢でかかったとしても時間がかかる。
事実、レオンにも破壊も干渉も不可能で、少しだけ溜飲が下がる想いだった。

そして思った。、目の前でレオンお前から彼女セイラを奪ったなら。
その時、何があっても諦めないその瞳は、どんな色に染まるんだろうかと。
そんな仄暗い感情はリュートとセイラに(物理的に)吹っ飛ばされてしまったけれど。



その後、僕の愛しい少女はドラゴンの群れを殲滅し、黒幕をやっつけ、ちょっと語弊があるかもしれないがついでに父である国王もやっつけた。
その時、セイラが言ったひと言が事のほか胸を抉った。

トラメキアの皇帝に彼女は言ったのだ。
前皇帝が攫った花嫁、既にその皇帝も彼女も亡くなっているにも関わらず、「トラメキアの側妃の一人として葬られている彼女の亡骸を、彼の国に帰し謝罪せよ」と。
「どんな大国の皇帝でも、そこにどんな理由があったとしても。愛する人と結ばれる筈の女性ひとを、目の前で攫っていいはずがありません。可及的かつ速やかにその時の装身具等と共に彼女を故郷に帰し、彼の国に謝罪して下さい。当の本人がいないのなら、その息子であるあなたが、現在いま皇帝であるあなたが!大事な結婚式をぶち壊してしまって済まなかったと、愛する人を奪って申し訳なかったと!ただその場面を目の当たりにして嘆くしか出来なかった方々に許しを請いなさい!今私にやったように!よろしいですわねっ?」
有無を言わさぬ迫力のセイラにトラメキア皇帝は「ははっ!直ちに」と平伏して実行した。



これは僕にも刺さった。
彼女が一番怒っているのは目の前のトラメキア皇帝本人より自分とレオンとを引き裂こうとした僕と、父である国王である事を思い知らされたからだ。

レオンの目の前で同じ事をしようとした僕と、二度に渡ってあっさりトラメキアにセイラを引き渡そうとした国王

その二人には一暼もくれず、セイラは皇帝を刺し続ける。
「それが済んだなら速やかに知らせを寄越して下さいませ。嘘や誤魔化しは許しません。私はドラゴンを通していつでも見ていますわよ?あなたがたが何を何度企もうと、何度でも私が潰します」
言われた皇帝は本当にブリザードを浴びてるかのようにブルブル震えて真っ青だった。
父もまた然り。


そして「属国となれば許してもらえるのか」という皇帝の問いには(ちょっと誇らし気に頰を紅潮させた国王には目もくれず)否、と答えた。
「属国というのは、ただ富を増やすものではありません。その国の民全てに責任を持つという事です。例えば今回の件に関わった国全てが属国になって、その国になんらかの危機が訪れた時、国王陛下は全てを救う事が出来ますか?自分の肩に背負いきれないものなど、持つべきものではないのです」
と、酷く苦そうな顔で言った。
先程まで断罪の女神然としていた彼女が、酷く小さく(実際小柄で華奢な少女なのだが)見えた。

だが、その小さな少女は極刑を受けてもおかしくない僕に死刑も背を曲げて生きる事も許さないと言った。
前を向いて生きろと、自分の幸せを見つけろと。

なんでそんな事を。
君を好きな僕は、君にとってもレオンにとっても危険なのに。
実際危険な目に遭わせたのに。

「殿下の纏うオーラは初めて会った時と変わりません。ゆえにこれ以上の危険はないと判断します__その判断が間違っていたなら、その時は自分の身に降りかかる危険は甘んじて受けましょう、殿下が私の為にキャロルと敢えて接触して下さったのと同じ様に」
「!」
(見透かされていた……)
トラメキアと通じセイラを陥れようとしていたキャロルを、こっちも利用していた事、その上でセイラに危害が及ばないようにしていた事も__それだって、単に自分のものにしてしまいたかったという欲望の延長線上でしかないのに。

それでもいいの?

本当に、君には敵わない。





そして、君は酷い子だね。
僕がレオンと同じように君を想ってる事、わかっててそんな風に言うなんて。

君は強い子だけど、レオン以外には酷く冷酷になる。
それは君が竜の愛し子だからかもしれないし、そうではないのかもしれないけど。

良いだろう、君に仕えよう。
君と、次代の王となる弟に。



君が、それを望むなら。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...