記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫

文字の大きさ
上 下
50 / 64

50

しおりを挟む
 
そう、私が先程したお願いは "この場は私の好きにさせて下さい、ロッド殿下の処遇についても"というもの。
もちろん、レオン様の元から逃げたりしないという約束の上、代わりにレオン様は「ならばあのキャロルという娘の処分は私に委せてもらう。いいな?」
という事で私達の間ではまとまっているとはいえ、この振りにぴったり合わせてくるレオン様ってやっぱり凄い。

 固まった王様の代わりに王妃様が尋ねる。
「やっぱり、貴女には王宮は息苦しいの?」
「否、とは申せません」
ドラゴンは王城みたいな閉鎖空間とは対極にいる生き物だから。
それに、ドラゴンに乗って空を飛ぶのは心地良かったから。
「では何故そのまま逃げなかったの?」

何故かと言えば、それはたぶん、
「それはレオン様がこの国の王子で、私がレオン様に恋してるから、ですかね?」
自覚したら、その言葉は自然と口をついて出た。
祝祭の日にレオン様を前にした時はあんなに苦労したのに。

罵しりだって褒め言葉だって、嘘だって本当だって__他の人にならいくらだって出てくるのに。
レオン様相手だと調子が狂う。
固まって、言葉が全然出てこなくなる。
でも、きっとそれはレオン様も一緒で。
私に対してはこの完璧王子様もちょっと不器用になるのだ、たぶん。

「「「「こ、恋???」」」」
声が重なりすぎて誰が誰やらわからないがそこは放っておいて私は考え続ける。

多分そう。

だって、あの皇太子の国だったらほっといただろうから。
私は別に博愛精神の持ち主ではないのだ。
キスされたり、押し倒したりしてくるレオン様は怖い。
でも、別に触れられるのは嫌じゃない。
ロッド殿下や黒太子の時は恐怖より嫌悪感が先だった。
だから気付いた。
ああそうか。
私は“レオン様以外に触られるのは嫌なんだ“としみじみ思い知った。

「心に従った結果です」

実際のとこ、私は迷っていた。この力があればどんな包囲網だって突破できるし、誰かに守ってもらう必要もない。
だから、ギルドに入って冒険者も悪くないって思ってた。
だって、他の転生者、もしくは転移者に会って情報交換とか出来るかもしれないし、もしかしたらギルドそのものが転移者発案なのかもしれない。
私はこの国のほんの僅かな部分しか知らない。
竜の背に乗って、もっとあちこち飛んで行けるなら__そう考えたらわくわくした。

でもレオン様は祝祭の時も、ロッド殿下に襲われそうになった時も助けにきてくれた。
王子様みたいに、ではなく本当の王子様として、私を唯一の妃として。
だから、私も全力で応えようと思う。

「では、レオンがいなかったら今日の貴方の行動はあり得なかったのね?」
「はい」
別に救世主とかになりたかったわけじゃない。
ただ目の前の出来事に対してできる事をやっただけだ。
実際、仕掛けて来た側からすれば私は悪魔みたいに映ってるだろうし。
まあ、自業自得だけど。仕掛けてきたのあっちだし。
人によってはどんな為政者も悪役だったり英雄だったりするんだろう__だとしたら?
思わずにいられなかった。

“めんどい“って。

レオン様の事は好きだし、叔母様がたの事だって好きだし尊敬もしている。
でもちょっと混ざってみて思ったけど王族ってすっっごい疲れる。
だから、正直言うなら、特になりたいとは思わない。

それでもやってみようと思ったのは。

レオン様は言ってた。
「どんなに強がっても最終的に君の嫌がる事は出来ない」
「閉じ込めてしまいたいけどそれでは君を幸せには出来ない」
そんな風に強引で暴走してるようで、
「自分の手で私を幸せにしたい」って動機がちゃんとあるのだ、他の人と違って。ロッド殿下との一番の違いはそこだ。
あの状況で諦めないレオン様、あんな事を諦めきった表情で仕掛けてきたロッド殿下。
あのとんでもなく入念な準備だって他の人がやってたら「何このひと怖い」で終わりだったろう。
レオン様だから、“ちょっと怖いけど嬉しい“で済むのだ。
優しかったり野獣になったり、王子様になったり__時々わけがわからなくて怖くなるけど、私の為に色々してくれるのは素直に嬉しいと思える。
それは無意識に自分の中に"レオン様だけが特別、レオン様の事が最優先"って枠がいつのまにか勝手に出来てたから。
そしてそれはレオン様も多分一緒で。

「ならー…」と王妃が続けようとしたところで、切羽詰まった伝令の声がその場を遮った。
「こ、国王陛下!トラメキア皇帝が!」

 __は?

とこの場がなったのは仕方ない。
「と、トラメキア皇帝?」
「は!トラメキア皇帝が単独でドラゴンに騎乗し、いらっしゃったのです!"この通り護衛や供は一切連れておらぬ、至急セイラ姫に御目通り願う"と。お待ち下さるよう言ったのですが凄まじい形相にて"頼むから今すぐ、我が国の存亡に関わるのだ"とそれは酷い汗と顔色で仰っるので__」
いかが致しましょう?と使いが発する前に、
「お通しして」
と私が言ったので使者がぎょっとした顔になりそろりと国王の顔色を窺うが、
「姫の、言う通りにいたせ」
と国王は命じた。

そう間をおかずに、豪奢なローブを纏い宝冠を頭に載せたいかにも皇帝らしい格好の、ドラゴンを飛ばして来るにはいささか場違いな__事実、衣服が大分乱れた姿のトラメキア皇帝・フィニアスの姿が案内の兵と共に姿を現した。
皇帝は広間の一同の姿をひと通り見廻し、ぴたりとセイラに視線を止めると、そのままセイラの前にふらふらと歩みよった。
さすがにレオン、リュート、ユリウスが警戒態勢に入ろうとしたがそれをセイラが手で押し留める。
がやがて、セイラの目の前でよろよろと老木のように皇帝が跪いた。

「メッセージは受け取っていただけたようですわね?」
セイラはそんな皇帝を相手に先程までの調子を全く崩さない。
「こ、これが我が国の宝物庫の目録全てだ!必要ならばこの首もお付けする!だからどうか__!」
「貴方の首なぞいりません。老人の首を飾る趣味なぞございませんわ」
「で、では、こちらの属国になればお助け下さるか?!」
「あいにく属国募集もしておりません。現在いまのこの国だけでも貴方がたの企みによって大変な目にあってるというのに、他国を助ける余裕などあるはずございませんでしょう」
「あ、あれは我が息子ルキフェルが独断でやったのだ!確かに止めきれなかった責はわたしにもあるが__!」
何言ってやがる。何も知らない人間が速攻で私に詫び入れになんか来れるか。

「貴公の国に何があったと言うのだ?」
 ここまで完全に蚊帳の外だった国王が王様らしく言う。
「こ、これは国王陛下……!挨拶が遅れて申し訳ない!」
 ははーっとばかりに皇帝が平伏するさまは一種異様だ。
「先刻、私のいる玉座の頭上にいきなり氷漬けのドラゴンが降ってきたのだ」
「……………」
 広間に何とも言えない沈黙が落ちる。

 沈黙の心中を言葉にするなら、
 「__やったのか」
 のひと言に尽きるだろう。
つまり、先程の「思いのほか面倒」というのは"やるのが面倒"ではなく"やってみたら結構面倒だった"という意味だったのかと皆が正しく理解したのである。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...