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しおりを挟むそう、私が先程したお願いは "この場は私の好きにさせて下さい、ロッド殿下の処遇についても"というもの。
もちろん、レオン様の元から逃げたりしないという約束の上、代わりにレオン様は「ならばあのキャロルという娘の処分は私に委せてもらう。いいな?」
という事で私達の間ではまとまっているとはいえ、この振りにぴったり合わせてくるレオン様ってやっぱり凄い。
固まった王様の代わりに王妃様が尋ねる。
「やっぱり、貴女には王宮は息苦しいの?」
「否、とは申せません」
ドラゴンは王城みたいな閉鎖空間とは対極にいる生き物だから。
それに、ドラゴンに乗って空を飛ぶのは心地良かったから。
「では何故そのまま逃げなかったの?」
何故かと言えば、それはたぶん、
「それはレオン様がこの国の王子で、私がレオン様に恋してるから、ですかね?」
自覚したら、その言葉は自然と口をついて出た。
祝祭の日にレオン様を前にした時はあんなに苦労したのに。
罵しりだって褒め言葉だって、嘘だって本当だって__他の人にならいくらだって出てくるのに。
レオン様相手だと調子が狂う。
固まって、言葉が全然出てこなくなる。
でも、きっとそれはレオン様も一緒で。
私に対してはこの完璧王子様もちょっと不器用になるのだ、たぶん。
「「「「こ、恋???」」」」
声が重なりすぎて誰が誰やらわからないがそこは放っておいて私は考え続ける。
多分そう。
だって、あの皇太子の国だったらほっといただろうから。
私は別に博愛精神の持ち主ではないのだ。
キスされたり、押し倒したりしてくるレオン様は怖い。
でも、別に触れられるのは嫌じゃない。
ロッド殿下や黒太子の時は恐怖より嫌悪感が先だった。
だから気付いた。
ああそうか。
私は“レオン様以外に触られるのは嫌なんだ“としみじみ思い知った。
「心に従った結果です」
実際のとこ、私は迷っていた。この力があればどんな包囲網だって突破できるし、誰かに守ってもらう必要もない。
だから、ギルドに入って冒険者も悪くないって思ってた。
だって、他の転生者、もしくは転移者に会って情報交換とか出来るかもしれないし、もしかしたらギルドそのものが転移者発案なのかもしれない。
私はこの国のほんの僅かな部分しか知らない。
竜の背に乗って、もっとあちこち飛んで行けるなら__そう考えたらわくわくした。
でもレオン様は祝祭の時も、ロッド殿下に襲われそうになった時も助けにきてくれた。
王子様みたいに、ではなく本当の王子様として、私を唯一の妃として。
だから、私も全力で応えようと思う。
「では、レオンがいなかったら今日の貴方の行動はあり得なかったのね?」
「はい」
別に救世主とかになりたかったわけじゃない。
ただ目の前の出来事に対してできる事をやっただけだ。
実際、仕掛けて来た側からすれば私は悪魔みたいに映ってるだろうし。
まあ、自業自得だけど。仕掛けてきたのあっちだし。
人によってはどんな為政者も悪役だったり英雄だったりするんだろう__だとしたら?
思わずにいられなかった。
“めんどい“って。
レオン様の事は好きだし、叔母様がたの事だって好きだし尊敬もしている。
でもちょっと混ざってみて思ったけど王族ってすっっごい疲れる。
だから、正直言うなら、特になりたいとは思わない。
それでもやってみようと思ったのは。
レオン様は言ってた。
「どんなに強がっても最終的に君の嫌がる事は出来ない」
「閉じ込めてしまいたいけどそれでは君を幸せには出来ない」
そんな風に強引で暴走してるようで、
「自分の手で私を幸せにしたい」って動機がちゃんとあるのだ、他の人と違って。ロッド殿下との一番の違いはそこだ。
あの状況で諦めないレオン様、あんな事を諦めきった表情で仕掛けてきたロッド殿下。
あのとんでもなく入念な準備だって他の人がやってたら「何このひと怖い」で終わりだったろう。
レオン様だから、“ちょっと怖いけど嬉しい“で済むのだ。
優しかったり野獣になったり、王子様になったり__時々わけがわからなくて怖くなるけど、私の為に色々してくれるのは素直に嬉しいと思える。
それは無意識に自分の中に"レオン様だけが特別、レオン様の事が最優先"って枠がいつのまにか勝手に出来てたから。
そしてそれはレオン様も多分一緒で。
「ならー…」と王妃が続けようとしたところで、切羽詰まった伝令の声がその場を遮った。
「こ、国王陛下!トラメキア皇帝が!」
__は?
とこの場がなったのは仕方ない。
「と、トラメキア皇帝?」
「は!トラメキア皇帝が単独でドラゴンに騎乗し、いらっしゃったのです!"この通り護衛や供は一切連れておらぬ、至急セイラ姫に御目通り願う"と。お待ち下さるよう言ったのですが凄まじい形相にて"頼むから今すぐ、我が国の存亡に関わるのだ"とそれは酷い汗と顔色で仰っるので__」
いかが致しましょう?と使いが発する前に、
「お通しして」
と私が言ったので使者がぎょっとした顔になりそろりと国王の顔色を窺うが、
「姫の、言う通りにいたせ」
と国王は命じた。
そう間をおかずに、豪奢なローブを纏い宝冠を頭に載せたいかにも皇帝らしい格好の、ドラゴンを飛ばして来るにはいささか場違いな__事実、衣服が大分乱れた姿のトラメキア皇帝・フィニアスの姿が案内の兵と共に姿を現した。
皇帝は広間の一同の姿をひと通り見廻し、ぴたりとセイラに視線を止めると、そのままセイラの前にふらふらと歩みよった。
さすがにレオン、リュート、ユリウスが警戒態勢に入ろうとしたがそれをセイラが手で押し留める。
がやがて、セイラの目の前でよろよろと老木のように皇帝が跪いた。
「メッセージは受け取っていただけたようですわね?」
セイラはそんな皇帝を相手に先程までの調子を全く崩さない。
「こ、これが我が国の宝物庫の目録全てだ!必要ならばこの首もお付けする!だからどうか__!」
「貴方の首なぞいりません。老人の首を飾る趣味なぞございませんわ」
「で、では、こちらの属国になればお助け下さるか?!」
「あいにく属国募集もしておりません。現在のこの国だけでも貴方がたの企みによって大変な目にあってるというのに、他国を助ける余裕などあるはずございませんでしょう」
「あ、あれは我が息子ルキフェルが独断でやったのだ!確かに止めきれなかった責はわたしにもあるが__!」
何言ってやがる。何も知らない人間が速攻で私に詫び入れになんか来れるか。
「貴公の国に何があったと言うのだ?」
ここまで完全に蚊帳の外だった国王が王様らしく言う。
「こ、これは国王陛下……!挨拶が遅れて申し訳ない!」
ははーっとばかりに皇帝が平伏するさまは一種異様だ。
「先刻、私のいる玉座の頭上にいきなり氷漬けのドラゴンが降ってきたのだ」
「……………」
広間に何とも言えない沈黙が落ちる。
沈黙の心中を言葉にするなら、
「__やったのか」
のひと言に尽きるだろう。
つまり、先程の「思いのほか面倒」というのは"やるのが面倒"ではなく"やってみたら結構面倒だった"という意味だったのかと皆が正しく理解したのである。
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