記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫

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レオンの報告に、場は静まり帰った。
が、レオンは更に続ける。
「おっつけ関わった者達も芋づる式に捕まるでしょう。で・皆さま方はいつまで(何もせずに)ここで間抜け面そうしているつもりですか?その状態でセイラが戻ってきて来た時、何を言うおつもりで?」
暗に何もせずにここでぼけっとしてると嫌われますよ?
と告げるレオンの言葉に、
「す、すぐに我が領地の民の安否確認と被害状況を収集して参りますっ!」
「わ、私めも!」
我も我もと出口に殺到する貴族の一人が、
「失礼致します殿下。このような時に差し出がましいとは存じますが、改めてご婚約おめでとうございます」と如才なく頭を下げるとしまった、やられたとばかりに次々にそれに続く祝い口上が述べられ、さらにはわざわざそれを言いに戻ってくる者までいるのにレオンは苦笑いし、
「祝ってくれるのはありがたいがこの状況だ。皆今は事態の収拾に力を注いでくれ」
レオンがそう述べて皆を下がらせると後には王室一家とユリウスだけが残った。





セイラが役目を終えて城に帰還したのは夕刻。
レオンに言われた通り宮で待機していたリリベルに頼み軽く湯を使わせてもらって一休みしてから身繕いをし、迎えにきたレオン様と共に王宮入りしたのはもう深更と言っていい時間だった。
「もう少し休まなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫です。それに、私の役目はまだ終わっていません」
それはなんだ、とは訊かずに「議々の場に残っていた連中は問題ない。皆私と君の婚約祝いを競うように述べていた」
「__レオン様は、それでよろしいのですか?」
「言ったろう?予定に変更はない。君との式もだ」
「レオン様って、」
(変わってますね?)
こんな面倒な設定背負ってたらヒロインでも遠慮されそうなもんなのに。
いや、そもそもあのゲームには聖竜の祝福云々設定なんてカケラも出て来てないけどさ?
「……君に言われたくはないな」
(あれ、今声に出てた?)
「顔に書いてある」
(そうなのか……)
学園ではそれなりに上手くやれているはずなんだけどな?
なんだろう、レオン様相手だとちっとも上手くいかない。
そして、やっぱり不安だった。
「本当に、良いのですか?こんな、」
と声にしてみる。
が、その先は声に出来なかった。
レオン様の唇に塞がれた。
「"こんな"とか言うな。例えお前自身の事であっても、俺の妃を否定する事は許さない。いいな?」
「__はい……」
嗚呼 そうか。レオン様このひとにはどうでもいいんだ。
私にドラゴンの祝福があってもなくても、それはきっとヒロインに全く傾かなかっのと同じで。
なら、
「レオン様、お願いがあります」
こんな願いも、この人ならばきっと可能だ。



幾重にも防音・防御魔法がかけられた部屋に集まっていたのは国王夫妻、ミリアム妃、レオン様、ロッド殿下、私の家族にユリウス、騎士団長、それにカインがいた。
なんで生徒会長が?いや 生徒会長だからかな?

国王は何だか具合が悪そうというより今にも死にそう、と言った方がいいような顔色で椅子に掛けているが……さて、どう(料理)しようか?
王妃様からいただいた芭蕉扇(仮)をそのまま手にして私は考える。
その国王が、
「ご」と言ったところでパシン!と王妃様の扇子が小気味よく鳴り響いた。
国王ははたかれた手を押さえながら固まってしまっている。
そして(一応)小声で「ご苦労であった、なんて台詞吐く資格は貴方にはありません!もっと先に言うべき事があるでしょう!この期に及んで貴方がセイラに偉そうに掛ける言葉があるとお思い?!ややこしくなるから引っ込んでらっしゃい!」と叱りつけた。

いや、小声でも丸聞こえです王妃さま。

「ステラの言う通りですよ、ダリウス。良くやってくれたわ、セイラ。この国を、民を、守ってくれてありがとう」
王太后の言葉に王妃も居住まいを正し、「そう!それを一番に言わなければいけなかったわ。ありがとう、セイラ。貴女がいなければ、未だ町はドラゴンの炎に包まれていた事でしょう。__わかってない人もいるみたいだけれど」
ちら、と扇子越しに睨まれて国王が縮こまる。

「それで__えぇと、幾つか訊きたいことがあるのだけれど良いかしら?」
「__私に答えられる範囲内でよろしければ」
室内がごく、という空気に呑みこまれる。
本来なら、いち伯爵令嬢が王妃に言っていい言葉ではない。
例え実の姪であっても。
だが、今の私は"いち伯爵令嬢"としてここにいるわけではない。

それはこの室内部屋にいる人びとにもわかっている。
そして、王妃は剛毅な人だった。
「貴女、いつの間に聖なる竜ホーリードラゴンの祝福なんて受けてたの?」
と直球である。
「幼い時分に、家族でとある地方に行った時、ですわ。私は一人で森に入った時、白いドラゴンと出逢いました」
そう、あの時は良くわかってはいなかった。
だがあのドラゴンは全く恐ろしくはなく、むしろ優しささえ感じて、まだ小さかった私は一緒に遊んだ。 
一緒に遊んで、話して、言葉が通じる事を不審にさえ思わない私に愉快そうな瞳を向けてあのドラゴンは言ったのだ。
「力をあげよう。どんな力が良い?」
と。
私は少し考えて、
「……大事な人を守れる力」と答えた。


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