記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫

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二人には言われた内容はわからなくても、耳元で何やら囁いていたのは当然見られていたので尋問された。

いや、正確には尋問ではないのだが気分としてはそんな感じだったのだ。

黒太子のセリフをそのまま伝えると当然レオン様は怒り狂った。
そして、激昂からひと呼吸おいて言ったのだ。
「で、お前はどう思ったんだ?」
 は?
「どうって?」
「答える間がなかったのは見ていたからわかっている。だがお前はどう思ったんだ?」
「どうって、どうも?」
「「どうも??」」
 ……息ぴったりですね、レオン様とユリウス。
「特に何も感じなかったという事か?」
 感じるも何もそんな仲じゃない。
「そうですね。強いて言えば、急に耳に息がかかってくすぐったかった、くらいでしょうか?」
ぴきっ 、とレオン様の顔に青筋が浮かんだのに自分の思考に没頭していた私は気が付かなかった。

だって、あの黒太子は別に私が好きなわけではなく、むしろ興味なかったはずだからなんであんな事をしたかと言えば、外交上では知っていたレオン様が派手に収めた(派手に起こしたのも王子だが)あの祝祭の騒ぎで私に興味を持って、さらにはレオン様の反応があまりにも顕著で?だからちょっかい出してみたくなったとかそんなとこじゃなかろうか。
その証拠に、同じ城内にいる間もこれといって何か仕掛けては来なかった。

単にレオン様がブロックしてたのかもしれないけど。

だが、あのドラゴン騒ぎで私の魔力を知った途端“しまった“と思ったのだと思う。

トラメキアの王族は強い魔力を持つ女性を見境いなしに求める。
こんな事なら、知っていたなら。
レオン様がこんな風に私を保護する前に、あの学園にいるうちに___攫ってしまえば良かったと。
 
あれはそういう意味じゃないかと思う。
学園内でも私の魔力は秘されていたから。
だって見境なしに「治してくれ」と言われても困るし、"ミラー"に関しても個人教授だったし?
でも“ミラー“って前はあんなに強くなかったんだよね。
学園に入って、一度フルパワーでやってみてくれと言われてやったら教室と先生が吹き飛んだんだよね。
いや死なせてないですよ?怪我はさせてしまいましたが。
なんで、あんな強くなってたんだろ?
本格的な魔法訓練は入学してからだが、コントロールの仕方は入学前から自宅で受けていた。
あの時はそんなことはなかったのに。

 ん?

入学前と、入学後で違う?

違った事といえば__「あ」

そっか、前世の記憶。
なるほど、これが転生チートというやつか。
記憶の覚醒と同時に魔力が強まった?
 
それなら合点がいく。

自分の考えにすっきりするまで没頭していた私はすっかり自分の置かれている状況を忘れていた。
「セイラ」
強い調子で名前を呼ばれ、漸く目の前のレオン様に意識がいく。

「なにが 「あ」なのかそろそろ説明してくれないか?」
「あっ、すみません。脳内で考えがまとまらなくって、その……黒太子が言った言葉は」
 たぶん、こういう意味だったと思うとの私の推測を話すと、
「なるほど」
 納得してくれた。
「つまり、お前は何とも思わなかったんだな?あいつに至近距離でそんな台詞をはかれても」
あれ?なんか会話の方向が違う?
感じたままを言ったつもりなのだが。
どう答えたらいいのかわからず戸惑う私にレオン様は複雑そうだったが、
「ならいい」
と話を打ち切った。盛大な溜息付きで。


「?」私はわけがわからない。

こんな感じに跡を濁しまくった黒太子だったが、その後国王夫妻に呼ばれ王宮で話をすませてきたレオン様は何やらやたら上機嫌になっていた。

何があったんだろう。

わからないが、
「君のドレスの発注をしよう」といきなり職人達を数人宮に呼び寄せた。
「いえ、ドレスはもう、」
充分な数揃えてもらってるしそんな着る機会だってないはずだし。
「何言ってるんだ。君は俺の正妃、つまり我が国では王妃に次ぐ地位に就くんだよ?これから人前に出る事も増える。毎回同じという訳にいかないのだから数を揃えておくに越した事はない」
あの衣装室の中だけで充分だと思うのだが___いや、それ以前に。

王妃に次ぐ地位。
 
我が国にはまだ王太子がいない。
王子の誰かが立太子すればその王子の妃が王妃に次ぐ地位になる。
が、この国の王太子は国王による指名制で、誰がなるかは未知数だ。
そして王子がたは未だ全員独身。王子の中で初めて妃を娶るのがレオン様、その相手が私___やっぱり結婚するの、卒業まで待ってもらえないかな?
無理だとわかってても、心の中でそう呟いてしまった。





セイラは知らなかった。
あの事件後黒太子に暗殺団か死の呪いでも送り込みそうなレオン様を、虚仮にされた形のユリウスや騎士団長達が止める筈もなく、むしろ積極的に協力する始末で手に負えない旨を兄からきいた王妃様が一発くらわせて下さったお陰で”私専用の騎士と魔法使いと近衛の精鋭から成る護衛部隊を作る”事で収まりがついたこと。

城中の人間が(リリベルやユリウスら一部の例外を除いて)私を「姫様」としか呼ばなくなったこと。
これにはドラゴン襲撃の際のセイラの行動にとことん心酔した騎士達がした噂がひと役買った。
「凄かったなぁ」「ああ、まさか殿下が素直に謝るなんてなあ」
 ”氷の貴公子”と異名を持つレオンは騎士団や主だった者達には有力な王子であるだけでなく”敵認定されたらとことんヤバい王子”と認識されていた。
魔力だけでも半端なく強いのに腕っぷしもやたら強い。
そこに権力を足したら無敵である。
それらを全て駆使して敵認定した相手を徹底的に叩きつぶす事から”キレたら大魔王”と尊敬と畏怖を持って呼ばれ、俺様気質でもあるため自分がこうと決めたら人の言う事なんかまず聞かないし、引かない。
それをまさかあの小柄な少女が胸倉掴んで怒鳴りつけるとは。
しかもあの殿下が苦笑して大人しく言う事きいた!まじか!

と、主にドラゴンに関してよりレオンに対しての態度で心酔されていた。
「俺あの時思わず妃殿下って呼びそうになったわー」
「あー俺も」「俺も」「俺も」
「もうレオン様の宮に入られてるんだから妃殿下で良くね?」
「いや、まだ正式な婚約発表もまだなのにそれは不味いだろ」
「じゃあ、やっぱローズ伯ご令嬢?」
「それもレオン殿下の婚約者って認めてないみたいでマズくね?」
「だからってまさかセイラ様とは呼べないだろ?」
「殿下に殺されたくなきゃやめとけ」
 団長が割って入った。
「じゃ、やっぱり妃殿下ですか?」
「……確かに、あの方を呼ぶにはそれが一番相応しいが……」
 レオンとの付き合いも長い団長は考え込んだ。
あの状況で一人でドラゴンに立ち向かい、粉砕し、レオンを怒鳴りつけ、あまつさえ傷を治した上で怪我人は引っ込んでいろ と言い放った。
さらにその上で騎士団の被害が最小限に留まるよう力を尽くしてくださった、あの器量にあの魔力、危機的状況に対する立ち居振る舞い。
どれをとっても申し分ない。あれほど殿下に相応しい姫君だったとは。
いくら王妃様と王太后様のお気に入りの姪御姫であってもまだ十五の少女を妃にとは性急にすぎるのではないかと思ったが、なるほどあれだけの方であるならレオン殿下が早くお傍にと思われるのも無理もないこと。
尚且つ黒太子まで狙ってるとあれば尚更だ。早急に護衛団の手配を整えば。
考える団長の横で、
「てかさ、姫様で良くね?元々隊長とセイラ様って陛下や殿下がたとは従兄妹で血筋的には直系の王族とあんま変わんないッスよね?で、四カ月後には正式に王家に入られるってわかってんだし__」
「あ そうか」「だな」「じゃ姫様で統一って事で」
 という本人がきいたら盛大に抗議しそうなやりとりを経てのことも。

それが傍系まで王族としてたらきりがないので公爵位にある親族含め直系以外は王族と同等、などという扱いは元々していないこの国では異例中の異例であった事にも気づいていなかった。



他にも”セイラ妃殿下専用護衛部隊”には希望者が殺到して肝心要の隊のほうが人材不足になりそうだったので”妃殿下専用護衛部隊に応募しても良い権利”を賭けて博打をうつ始末で、
「お前ら現行の立場を何だと思っとるんだー‼︎」
と各所の上官がキレたり、それをきいた兄が、
「博打の強さだけでは妹の護衛は任せられんぞ?どれ、俺がしてやる」
と指をぽきぽきとならし改めてした挙句騎士達は訓練に支障はないものの湯浴みする時や寝る時に地味~にじわじわくる傷だらけにされ「隊長の鬼ー!」「悪魔だ!こんな正確にギリギリの傷付けまくれるとかどんだけだよ!」と寮内に悲鳴が木霊したこととか。
婚約発表前なのにお祝いの品が殺到したりだとか、何故か婚約披露パーティーの予算が大幅に増幅されたりした事など(だからドレスの数も増えたのだが)含め、セイラは知らなかった。

予算が増えたのは今回のいらん騒ぎの片棒担いだ形の国王が私とレオン様の婚約について「二度と邪魔するような事はしません」という旨の誓約書を書かされた挙句、詫びとしてこの催しについて多額の個人資産を放出している事など、想像すらしてはいなかった。
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