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__ていうか、わかりやすい。

 会場に集められていたのはおもに特権派とそれに近い傍観派の貴族たちで、昨夜会場にいた生徒も混じっている。
 方たちが。
 つまり、何かあった時に私の味方をする人はいないわけだ。
 王も隠密からの報告を受けていたはずだが、この面子を正確に記憶していたかどうかまでは不明だ。
どちらかといえばルキフェルの指示だろう、ここまで把握されていたのが少しうすら寒い気はするが。

けれど、だからこそやりやすい。

 味方がいないという事は守る必要も、気を使う必要もないのだから。

昨夜は学園行事だし、他の生徒を巻き込みたくなくて早く終わらそうと思ったが、ここのホストは国王だし生徒会に気を使う必要もない。

 私の手をとるレオン様も固い表情になったが、すぐにそれを崩さざるを得なくなった。
 入り口を一歩入った途端、
「レオン様!お待ちしてましたわ!」
 とほとんど飛び付くように反対側の手を取ってきた女性がいたからだ。

 __誰?少なくとも、私は見たことがない。
 ユリウスも警戒体制を取ったから知らないのだろう。
 当のレオン様は、
「フェリシア皇女…」
 どうやら知ってるらしい。
 というか、名前だけなら私も知っている。

 そこへ、見計らってたのがみえみえのタイミングで、
「おぉ!早速仲良くなったようだな!」
 国王が黒太子を伴ってやってくる。

 __なってねぇよ。

 心中ツッこみしつつ、レオン様に張り付いた女性__いや少女か?年齢は私より下の様だが身長が高いし、着てるドレスも大人っぽいのでよく見ないと気が付かなかったが、確か今十三才だっけ?
 フェリシア皇女はルキフェル・トラメキアの妹姫だ。
いつの間にこの国に来てたのだろう?

 そんな私の疑問を読んだかのように、
「妹は以前殿下に一度お会いしていて、是非もう一度会いたいと昨夜押し掛けてきてしまいましたの」
ちょっとはにかんで皇女が微笑む。

 __昨夜?
わざわざ、このタイミングで?
「ドラゴンに乗ればひとっ飛びですから」
「おぉっ!流石はトラメキアの姫君だ!」
 国王の食い付きが半端ない。
褐色の髪に金色の瞳のこの姫は白いドラゴンライダーだそうだ。
雰囲気は兄に似て野生的で、いかにもお転婆姫だ。

「ねえレオン様!この城の庭園は素晴らしいと伺っております!案内して下さいませんか?」
「私は長く国を離れていたので案内出来る程詳しくはありませんよ、私にとってもここの庭は迷宮です」
 王子様スマイルの苦笑版、という器用な表情でやんわりと辞退するレオンに、
「まあ!そうですの?残念ですわ。でもこの会場はお兄様とレオン様以外は知らない方ばかりなのですもの」
「おぉ!そうだな。レオン、悪いが少しの間フェリシア皇女のお相手を頼む。私はルキフェル殿下と政治的な話があるのでな。ローズ伯令嬢、今宵はローズ伯が来ておられない。代わりに其方が来るが良い」

ヲイ、あからさますぎるだろ。

「政治的なお話ならば父の跡を継ぐ兄が聞くべきなのでは?私はご遠慮させていただきたく……」
「それ程難しい話ではありませんよ。昨夜もお話したかったのですがレオンハルト殿下に攫われるように貴女は会場からいなくなってしまった。だから少しの間私の話相手になって欲しいのです」
 こちらの皇子スマイルも見十三事なものだ、目は全く笑っていないが。
「光栄ですわ、ルキフェル殿下。レオン様ーー」
「そうだな。では、、セイラ」
「はい、レオン様」
 心細げに手を離す楚々とした仕草と慕わしげな呼び方が嫌でも二人の距離感を周りに印象づける。
 尤も、二人の目だけの会話で言えば、
 〈すぐ戻る、気をつけろ。〉
 〈勿論です、レオン様〉
 て感じだが。

「では、セイラ嬢」
 ルキフェルに手を取られ広間を歩き出すと皆が道を開ける。
ルキフェルは今夜の主賓で、一緒にいるのが国王夫妻なのだから当たり前といえば当たり前なのだが前世のドラマで見た”大奥”みたいでヤだなあ、と思った所に予想外の光景が目に入る。

 __!__しまった。

 広間の一角に控えてる楽団が目に入ったのだ。
夜会なのだからいて当然なのだが、失念していた。
普通の夜会なら楽団は最初から演奏しているからだ。
 彼らがまだ待機状態なのは昨夜の祝祭と同じ体裁を取っているから。
 そして今夜の主賓は黒太子だ、間違いなく彼が誰かにダンスを申し込んだ時が楽団の開始の合図。
 昨夜デビューしたものの私はまだ誰とも公の場で踊った事がない。
 このまま行けば私はファーストダンスを黒太子と踊る事になってしまう。
 舌打ちしたい気分だ。

 日もまだ落ちきってはいないが、とっととこの場を退散しなくてはいけない。

 国王が政治的な話をする、などと言っていたせいか私達の周りに人は寄って来ない。
「今日のドレスもとても美しいですね。よくお似合いです」
「……ありがとうございます」
 今着てるのはロイヤルイエローの豪奢なドレスだ。
 一目見た時はああ、美女と野獣のあの場面の物に似てるな、なんて呑気な感想を抱いてたけど。
 ”レオン様が用意したドレスで他の人とファーストダンスを踊る”なんて事態だけは避けなければならない。
「そうしていると似合いだの。そう思わぬか?王妃よ」
「……はい、陛下」
 ミリアム様は複雑な表情だ。
 敵ではないが、援護も期待出来ない、か。

 この国王はほんとにわかってるのか?

 今のこの状態は、”国の法律も、国王じぶんの決定も、何よりも王子であるレオン様を軽んじている”と宣伝してるようなものだという事を。

 正式に決められた他国の王子の婚約者に求婚する。
 それは通常、どこの国でも許されない。
 だが、トラメキアだけは例外だ。 トラメキアは略奪婚を是とする国だからだ。



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

 トラメキアは特性として”強い女性”を好む。
当然、強い子孫を残すため。
その相手はドラゴンライダーだったり女性騎士だったり、比類なき魔力の持ち主だったりした。
 そして、”これ”と見込んだ相手ならば身分も国も問わず、時には相手の気持ちや立場さえ問わなかった。
 三代前の皇帝は、妃にと望んだ姫が既に婚約者がいる身だからと断った国を攻め滅ぼし、姫を妃にした。
 二代前の皇帝は、既に結婚していた女性の夫に決闘を申し込み死に至らしめ、その女性を妃にした。
 前皇帝は、交流のあった国の結婚式に招待された際に花嫁を攫い国に連れ帰って自分のものにしてしまった。
 国力が弱まっていてトラメキアの庇護を失なえない彼の国は、抗議すら出来なかったと言う。

*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

 酷い話である。
 さすがに時流も変わり今はそんな横暴が通る時代ではないし、現皇帝はそんな前代に比べて穏やかな人柄であるときいているが、トラメキアの皇族はとにかく女好きというのが通説だ。

 何の力がなくとも、美しければ。
 美しくなくとも、人と違う力があれば、気に入った女性はとにかく後宮に放り込むときいた。
 自国の町娘から他国の王族まで。
 そして正妃には身分でなく気に入った寵姫を立てる。
 下手したら町娘の下に王女が降る事になりかねない。
 シンデレラストーリーなんて可愛いものではない、まさに大奥の異世界版だ。

 だからこそ国王が慎重になるのはわかるが、この国はそんなに弱くはない。
魔法学園の例でわかるようにこの国は魔法使いが他国より圧倒的に多く、その魔法使いを育てる環境も整っている。
 他国との交流も盛んで文化も生活水準もトラメキアより高い。
 トラメキアはドラゴン関係には強いが、一方で魔法使いが少ない。
 そんな無体な真似は出来ない筈だ。

 だが、目の前の国王はどう見ても私とルキフェルを取り持とうとしている。
 __変な薬嗅がされたり、傀儡の術に掛かってたりしないだろうな?
 と、つい疑ってしまう。

「昨夜はラインハルトが大変な迷惑を掛けたとか。申し訳なかった、ルキフェル皇太子」
 いや、国王あなたのバカ息子に一番迷惑掛けられたの多分ルキフェルそいつじゃなくて私だぞ?ついでに納めたのはレオン様だよ?ルキフェルこのひと何もしてないからね?

「いえ、私は特に。大変だったのはローズ伯令嬢でしょう」
 黒太子の目線が国王から私に移る__物騒な光りを帯びて。

 この人の金色の瞳は、見てると落ち着かない。
一つ上なだけとは思えない、レオン様と変わらぬ体格と野生の獣みたいな威圧感のせいか十五才の少年ではなく十八くらいの青年にしかみえない。
 そしてその金色の瞳が映す光は決して私に恋してるとかではなく。
 獲物を品定めしている。
 いくら私が恋愛ごとには疎くても、それだけはわかる。

 
 だって、レオン様とは、まるで違うから。
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