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だって私は元々宮廷一の実力者の娘で、兄は騎士団の隊長で、王子とは従兄弟でもありお城にも割と普通に出入りしているからして、シンデレラストーリーには向かない。
一方キャロルは何のコネもない下位貴族の子爵令嬢。
その愛くるしい笑顔で王子その他をひきつける愛されヒロイン。
身分低いながらも王子に見初められたシンデレラを地でいってるのだ。
しかしこの2人、見ていると良く似ている。容姿そのものではなく、容姿の使い方が、だ。
相手により使い分けられる純真無垢な天使の顔、慈悲深い微笑み、些細な事に感謝する無邪気な笑みーーそして時折見せる不敵な笑み。
どれも魅力的なのだ。
キャロルにも王子にも同性の味方がそれなりにいる事がそれを証明している。
だから、多分脳みそお花畑な恋人同士じゃなく、互いが互いを認めた上で一緒にいるのではないかと思う。
元々は登城を許されていない子爵家の令嬢だと言うのに最近は”王子の友人”枠でちょいちょい城に出入りしては王子の計らいで城の馬車に揺られて帰ってくる。
確かに嫉妬と羨望は集めるだろうが、門限に遅れる事も多い為寮監や生徒会としては注意せざるを得ない。
そんな注意に対してキャロルは、
「申し訳ありません。王子殿下がどうしても夕食を一緒に、おっしゃるので」
とか、
「殿下に城を案内していただいてたら迷子になってしまって」
とか何でも殿下のせいにしている。
私、いや大体の貴族は、
「んなわけないだろ」
とわかってはいるのだが、面倒なので型通りに外出禁止等に留めている。
そんなキャロルを庇って生徒会に直訴してくる信者もいて補佐(つまり私だ)は突っ撥ねるのに大忙しである。
皮肉な事に身分が高ければ高い程、財務大臣の重要性を知ってる為私には逆らえない。
故にこの役を押し付けられた。
ーーー結果、目の敵にされる条件揃いまくりだ。
夏の祝祭が近付く。
準備を、念入りにしておこう。
いつ断罪されても、問題ないように。
私はとにかく1人にならず、親しげに平民の生徒と話しては彼らの知識を吸収した。
冒険者として生きる事になった時、彼らの生活の知恵は役に立つだろう。
先日親しくなった女生徒2人とリズとで町に出かけた時は楽しかった。
週末の外出は申請さえ通れば自由だ。
もちろんガイドならぬガード付きだったけど。
貴族の生徒、他裕福な商家の子女のこういった外出には必ず護衛の同行が義務付けられている。
まあ、誘拐とか洒落にならないから当たり前ではある。
尤も彼らは適切な距離を弁えてるので、そんなに気にはならなかった。
私は町で色んな事を教わった。
町娘や冒険者などの普段着が安くて質の良い店の見分け方、果物の見分け方に値切り方、両替商の場所、利用の仕方等々……うん、幸い前世の私は自炊くらいはしてたし何とかなりそう!
最後はちょっとお洒落なカフェでケーキとお茶にした。
得る物の多かった休日に私はとても満足だった。
だから、護衛の他に私の行動を逐一見張ってた人がいた事には、全く気がついていなかった。
友達と約束がない週末はマメに実家に帰った。
色々整理しておかなければならなかったし、追放されたら二度と帰って来れない我が家だからだ。
元々見られて困るようなものは残してっていない。
私は嵩張る物は避けて小さな宝石類を少しずつ持ち出し、贈り物で頂いた物などは綺麗に整理してしまったまま手を付けないようにした。
元々日本の学校と違ってアクセや小物は自由なので私が持ち出すのを誰も訝しむ事はなかったが、もちろん私が持ち出したのは学園で着飾る為なんかじゃなくーーというかそれを盗まれた挙句、誰かが事故にあった現場で証拠にでも使われたら面倒なので髪留め以外付けていないーー追放された時に換金して路銀にする為である。
因みに私のお兄様は隠しルート攻略キャラなので、キャロルについて尋いてみると、
「んー……なんというか、虫みたいなコだな」
という答えだった。
「……ちょうちょみたいって事ですか?」
そこまで脳みそお花畑さんには見えないけど、そうみせかけてるって事だろうか?
「いや、どこにでも湧いて出るっていう意味で」
「………」
要するに何にもわからないくせにいちいち会話に割って入ってくるので邪魔になって仕方ない、らしい。
キャロルはもう城に行きまくってるし当然兄への接触もはかってるだろうとは思ったが、好感度アップどころか、虫って__うん、お兄様は攻略される心配はなさそうだ。
また心配の芽が一つ減った。
週末明けの昼休み、昨日父について城にいってきたというリリアンヌが嬉々として自慢話を披露していた。
「お城の庭はそれはもう素晴らしいんですのよ……!自由に散歩して良いと言われあちこち見てまわりましたの」
(そりゃ政務の邪魔だろーからね?)
(でしょうね。公爵は用事あっていったんだろうし。)
きこえよがしの声に私とリズはしらっとつっこんだ。
こういう時私とリズの気はぴったりだ、もはや目で会話が出来る。
なんでこういう事があるってわかってて敢えて食堂にくるかっていうと補佐の義務だからだ。
補佐が同じ場所に固まってたら目が届かない場所も固定されてしまう。
なので続けて同じ場所でランチしない、これ常識。みたいな?
「そりゃあこの学園の庭もきちんと手入れはされてますけど、やはり王城とは違いますわぁ」
当たり前だろ。
てか、学園の中庭批判しちゃいけないって覚えてたのね、偉い、エライ。
「そうそう!それで見事な庭に見惚れて歩いてましたら王妃様をお見かけしましたの!とてもお美しくて……」
まあっ!と周りから羨望の声とハートマークが飛び交う。
ちらっとリズが私を見やる。
ーー頑張ってね。
ーーいや、ヤなんだけど?
私は大きな溜息をついた。
「__という訳で、緊張してしまってご挨拶しそこねてしまいましたのだけど……」
途中、聞いてなかったけど要するに遠くから通りすぎるの見かけただけだよね?いやそもそも近く通ってもリリアンヌから一方的にお声掛け出来る訳ないよね?王妃様に。
いかん、思考がお花畑のお陰で保育士さんみたいになってきた。
「羨ましいですわ!」
「そんな風にお城の中を自由にまわれるなんてさすがリリアンヌ様」
シンパ達が持ち上げる。
「そういえば、ローズ伯ご令嬢は最近登城されてはいませんの?」
やっぱりお鉢がこっちにきた。
城の散歩くらい好きにしてくれ、頼むから。
何ヘクタールあると思ってんだ?
「そうですわね、入学が遅れた分忙しくしてましたから__寝込んでる間いただいたお見舞いのお礼に伺って以来いっておりませんわ」
「お見舞い?」
リリアンヌの眉がつりあがる。
「ええ、寝込んでる間毎日のように。お花はもちろん、お茶やお菓子などにメッセージカードを添えて頂いてましたの」
「………」
実際はもっと高価な贈り物も紛れてたがそれは黙っておく。
これ以上面倒はごめんだ。
「それが申し訳なくて、起き上がれるようになってすぐお礼を言いに伺いましたの。ああ勿論先触れのお手紙は出しましたわよ?そうしたらすぐに顔を見せにいらっしゃいと言っていただいたので伺いましたの。」
と私が繋げると先程まで紅潮していた笑顔が固まる。
「そ、そうですの?おかしいわね?正式に登城した時は門のところで名簿にサインをしてからでないと入れないでしょう?」
正式じゃなくて公式、な。門も対象も違うからそこ覚えようね?
焦ったような口振りだったがその自分の言葉に自信を得たようで、
「そうよ!ここ数ヶ月分の名簿をわたくしちらりとみましたけどあなたの名前はなかったわ!」
勝ち誇ったように言う。ちらりとじゃなくてがっつり見たんだな?けど城門幾つあると思ってんだ?参考にならないぞ、それ?
「私的な訪問でしたから」
私はばっさり切る。
「私的?嘘おっしゃい!あなたがお城に私的になんーー「妃殿下の私室に直接お伺いしましたの。くぐった門もきっと違いますわ。だって、私サインを求められた事がないんですもの」
なんでかって言ったら顔パスだからだ。私は門兵に顔を覚えられている。サインと身分証明が必要なのは、覚えられていない人だ。
困ったように告げる私の言葉に自分が墓穴を掘った事に気付いてさーーっと青ざめたリリアンヌ様は、哀れ石像にーーはならなかったが昼休み中、固まったままだった。静かになって良い事である。
一方キャロルは何のコネもない下位貴族の子爵令嬢。
その愛くるしい笑顔で王子その他をひきつける愛されヒロイン。
身分低いながらも王子に見初められたシンデレラを地でいってるのだ。
しかしこの2人、見ていると良く似ている。容姿そのものではなく、容姿の使い方が、だ。
相手により使い分けられる純真無垢な天使の顔、慈悲深い微笑み、些細な事に感謝する無邪気な笑みーーそして時折見せる不敵な笑み。
どれも魅力的なのだ。
キャロルにも王子にも同性の味方がそれなりにいる事がそれを証明している。
だから、多分脳みそお花畑な恋人同士じゃなく、互いが互いを認めた上で一緒にいるのではないかと思う。
元々は登城を許されていない子爵家の令嬢だと言うのに最近は”王子の友人”枠でちょいちょい城に出入りしては王子の計らいで城の馬車に揺られて帰ってくる。
確かに嫉妬と羨望は集めるだろうが、門限に遅れる事も多い為寮監や生徒会としては注意せざるを得ない。
そんな注意に対してキャロルは、
「申し訳ありません。王子殿下がどうしても夕食を一緒に、おっしゃるので」
とか、
「殿下に城を案内していただいてたら迷子になってしまって」
とか何でも殿下のせいにしている。
私、いや大体の貴族は、
「んなわけないだろ」
とわかってはいるのだが、面倒なので型通りに外出禁止等に留めている。
そんなキャロルを庇って生徒会に直訴してくる信者もいて補佐(つまり私だ)は突っ撥ねるのに大忙しである。
皮肉な事に身分が高ければ高い程、財務大臣の重要性を知ってる為私には逆らえない。
故にこの役を押し付けられた。
ーーー結果、目の敵にされる条件揃いまくりだ。
夏の祝祭が近付く。
準備を、念入りにしておこう。
いつ断罪されても、問題ないように。
私はとにかく1人にならず、親しげに平民の生徒と話しては彼らの知識を吸収した。
冒険者として生きる事になった時、彼らの生活の知恵は役に立つだろう。
先日親しくなった女生徒2人とリズとで町に出かけた時は楽しかった。
週末の外出は申請さえ通れば自由だ。
もちろんガイドならぬガード付きだったけど。
貴族の生徒、他裕福な商家の子女のこういった外出には必ず護衛の同行が義務付けられている。
まあ、誘拐とか洒落にならないから当たり前ではある。
尤も彼らは適切な距離を弁えてるので、そんなに気にはならなかった。
私は町で色んな事を教わった。
町娘や冒険者などの普段着が安くて質の良い店の見分け方、果物の見分け方に値切り方、両替商の場所、利用の仕方等々……うん、幸い前世の私は自炊くらいはしてたし何とかなりそう!
最後はちょっとお洒落なカフェでケーキとお茶にした。
得る物の多かった休日に私はとても満足だった。
だから、護衛の他に私の行動を逐一見張ってた人がいた事には、全く気がついていなかった。
友達と約束がない週末はマメに実家に帰った。
色々整理しておかなければならなかったし、追放されたら二度と帰って来れない我が家だからだ。
元々見られて困るようなものは残してっていない。
私は嵩張る物は避けて小さな宝石類を少しずつ持ち出し、贈り物で頂いた物などは綺麗に整理してしまったまま手を付けないようにした。
元々日本の学校と違ってアクセや小物は自由なので私が持ち出すのを誰も訝しむ事はなかったが、もちろん私が持ち出したのは学園で着飾る為なんかじゃなくーーというかそれを盗まれた挙句、誰かが事故にあった現場で証拠にでも使われたら面倒なので髪留め以外付けていないーー追放された時に換金して路銀にする為である。
因みに私のお兄様は隠しルート攻略キャラなので、キャロルについて尋いてみると、
「んー……なんというか、虫みたいなコだな」
という答えだった。
「……ちょうちょみたいって事ですか?」
そこまで脳みそお花畑さんには見えないけど、そうみせかけてるって事だろうか?
「いや、どこにでも湧いて出るっていう意味で」
「………」
要するに何にもわからないくせにいちいち会話に割って入ってくるので邪魔になって仕方ない、らしい。
キャロルはもう城に行きまくってるし当然兄への接触もはかってるだろうとは思ったが、好感度アップどころか、虫って__うん、お兄様は攻略される心配はなさそうだ。
また心配の芽が一つ減った。
週末明けの昼休み、昨日父について城にいってきたというリリアンヌが嬉々として自慢話を披露していた。
「お城の庭はそれはもう素晴らしいんですのよ……!自由に散歩して良いと言われあちこち見てまわりましたの」
(そりゃ政務の邪魔だろーからね?)
(でしょうね。公爵は用事あっていったんだろうし。)
きこえよがしの声に私とリズはしらっとつっこんだ。
こういう時私とリズの気はぴったりだ、もはや目で会話が出来る。
なんでこういう事があるってわかってて敢えて食堂にくるかっていうと補佐の義務だからだ。
補佐が同じ場所に固まってたら目が届かない場所も固定されてしまう。
なので続けて同じ場所でランチしない、これ常識。みたいな?
「そりゃあこの学園の庭もきちんと手入れはされてますけど、やはり王城とは違いますわぁ」
当たり前だろ。
てか、学園の中庭批判しちゃいけないって覚えてたのね、偉い、エライ。
「そうそう!それで見事な庭に見惚れて歩いてましたら王妃様をお見かけしましたの!とてもお美しくて……」
まあっ!と周りから羨望の声とハートマークが飛び交う。
ちらっとリズが私を見やる。
ーー頑張ってね。
ーーいや、ヤなんだけど?
私は大きな溜息をついた。
「__という訳で、緊張してしまってご挨拶しそこねてしまいましたのだけど……」
途中、聞いてなかったけど要するに遠くから通りすぎるの見かけただけだよね?いやそもそも近く通ってもリリアンヌから一方的にお声掛け出来る訳ないよね?王妃様に。
いかん、思考がお花畑のお陰で保育士さんみたいになってきた。
「羨ましいですわ!」
「そんな風にお城の中を自由にまわれるなんてさすがリリアンヌ様」
シンパ達が持ち上げる。
「そういえば、ローズ伯ご令嬢は最近登城されてはいませんの?」
やっぱりお鉢がこっちにきた。
城の散歩くらい好きにしてくれ、頼むから。
何ヘクタールあると思ってんだ?
「そうですわね、入学が遅れた分忙しくしてましたから__寝込んでる間いただいたお見舞いのお礼に伺って以来いっておりませんわ」
「お見舞い?」
リリアンヌの眉がつりあがる。
「ええ、寝込んでる間毎日のように。お花はもちろん、お茶やお菓子などにメッセージカードを添えて頂いてましたの」
「………」
実際はもっと高価な贈り物も紛れてたがそれは黙っておく。
これ以上面倒はごめんだ。
「それが申し訳なくて、起き上がれるようになってすぐお礼を言いに伺いましたの。ああ勿論先触れのお手紙は出しましたわよ?そうしたらすぐに顔を見せにいらっしゃいと言っていただいたので伺いましたの。」
と私が繋げると先程まで紅潮していた笑顔が固まる。
「そ、そうですの?おかしいわね?正式に登城した時は門のところで名簿にサインをしてからでないと入れないでしょう?」
正式じゃなくて公式、な。門も対象も違うからそこ覚えようね?
焦ったような口振りだったがその自分の言葉に自信を得たようで、
「そうよ!ここ数ヶ月分の名簿をわたくしちらりとみましたけどあなたの名前はなかったわ!」
勝ち誇ったように言う。ちらりとじゃなくてがっつり見たんだな?けど城門幾つあると思ってんだ?参考にならないぞ、それ?
「私的な訪問でしたから」
私はばっさり切る。
「私的?嘘おっしゃい!あなたがお城に私的になんーー「妃殿下の私室に直接お伺いしましたの。くぐった門もきっと違いますわ。だって、私サインを求められた事がないんですもの」
なんでかって言ったら顔パスだからだ。私は門兵に顔を覚えられている。サインと身分証明が必要なのは、覚えられていない人だ。
困ったように告げる私の言葉に自分が墓穴を掘った事に気付いてさーーっと青ざめたリリアンヌ様は、哀れ石像にーーはならなかったが昼休み中、固まったままだった。静かになって良い事である。
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