1 / 64
1
しおりを挟む
__王立魔法学園。二年制のこの学園は魔力を持つ十四~十六才の生徒達に貴賎なく門戸を開いており、王室の保護の下最高の教育と環境を約束されている__
そう、世間では評されつつその実 生徒の半分を国民としては少数派の貴族が占め(最高の環境の維持が貴族の寄付による部分も否定できないため特例枠というものが存在する)、さらに寮は家柄ごとに分けられていたりする(まあ王族がいる年もあるので保安上仕方がない)魔法学園。
入学式を終え、学園生活に胸を躍らせ春の花が舞う敷地に一歩入った途端、
「あれ……?」
目にした景色に妙な既視感を感じ目を擦ったところでぱきん、と頭の中で何かが弾けた。
そして、私はその場に倒れた。
高熱にうなされ、目が覚めた時には入学式から既に三日が経っていた。うなされている間に見た夢、いや前世の記憶によるパニックから立ち直るまでに更に三日かかった。
伯爵令嬢として生きてきて十四年と五ヶ月、領地からほとんど出たことがない箱入り娘。
__それが私、セイラ・ローズだ。
父は財務大臣を務め、王家の信頼も厚く遡れば王室に嫁いだ親族も少なくない。
その私が、悪役令嬢って……そんな馬鹿な。
そりゃあ私は乙女ゲー好き・美形の王子様大好き・実年齢=彼氏いない歴のオタク、現実の恋愛経験なしで二次元キャラにしか恋した事ないまま死んで、生まれ変わったらこんな世界に生きてみたいって憧れはあったけど。
何も某乙女ゲームの悪役令嬢でなくてもいいでしょっ!?
ヒロインとまでは言わない、せめてただの伯爵令嬢ポジションで生きさせてくれても良くないっ?!
そもそも、こういうのってもっと幼い頃に記憶戻るのがテンプレじゃないの?
そんでもってバッドエンド迎えない様に令嬢が頑張ってアレコレするもんじゃないのか?
入学式当日って遅くね?
いや遅い、ってかおかしい!
ここで戻されても今更どうしろってのっ!?
……いや落ち着け、落ち着こう私。
この世界はゲームじゃない、ゲームに似た世界だ。
生きてる人間が構築している世界の筈だ。
その証拠に私はまだ誰の婚約者でもない、候補の一人ってだけだ。
考えろ__まだ何か方法はあるはず。
今の自分は魔法使いだし、知識だってある。
悪役令嬢としてはテンプレだが、脳内会議なるものをしてノートに書き出してみた。
一.学園に入学してもヒロインを徹底的に避け、尚且つ王子との仲を邪魔しない様に努めて行動する
二.いっそこのまま学園に行くのをやめる
三.王子の婚約者候補を辞退する
四.自分の魔力レベルをあげて追放されても自力で生きていける素地を固める。
……一.がいち番容易ではあるけど、どうだろ。
令嬢側が避けてもこういうのってイベントが強制発動しやすい気がするんだよね、いわゆるゲーム補整っていうの?
それにヒロインが転生、もしくは転移者の可能性だってある。
その場合さらに避けきるのは難しくなってくる。
二.もなあ、そもそも学園入学は魔力を持つ者貴族なら受験制とはいえほぼ義務なんだよなぁ。そりゃ、何事にも特例はあるもんだけど私は王族じゃないから強権発動する権力とか持ち合わせてないし、難易度高い。
三.も王族相手にこちらが一方的に、とはいかないけど__うん?こっちに問題があった場合は?
……例えば健康を害してて、妃としての義務を果たせない場合とか?
幸い私は入学式後校舎に一歩も入る事なく倒れ、原因不明の高熱で何日も寝込んだ後だ。
婚約者候補には私より身分が高いご令嬢達だっている。
私一人辞退したところで、多分向こうも気にしないだろう。
辞退した後学園に通ったところで、婚約者どころか候補ですらない私はヒロインのライバルにはなり得ない!
よし、これで行こう。
でもって一応四もいつ追放されても対応出来るように準備だけはしておこう。
断罪イベントは卒業までに四回ある。
一回目は入学式から三カ月後、四回目が卒業式の二カ月前。
ヒロインが四回目まで待っててくれれば良いけど、一回目って準備期間少なすぎない?
__どちらにしろ、ヒロインにライバル認定されなきゃいいのよね?
漸く脳内会議(前世の記憶が強すぎて口がどんどん悪くなってはいるが、脳内だからいいのだ。)が終わると、私は王城に手紙を書いた。
臥せっている間沢山のお見舞いをありがとうございます、漸く身体も回復いたしましたのでお礼を直接申し上げたく、つきましては登城と面会の許可を頂きたく__云々。
よし、流石伯爵令嬢として育ってきただけあってこれくらいは容易い。
難しかったのは、殿下の予定の把握。
本人が王城にいる時ではさすがに無理。
いや、お見舞い(あちこちからいっぱい来てたけど)一番沢山送ってきてたのは殿下だし殿下に直接言うのが筋なんだけど__無理。
だって私は殿下の事が大好きだ、初めて登城した子供の頃から。
殿下も妹を可愛がるみたいに接してくれていた。
だから、婚約者候補に加えられた時は嬉しかった。
今回寝込んでる間だってわたしの大好きな花や紅茶やアクセサリーを毎日メッセージカード付きで届けてくれた。
だからこそ、殿下に断罪なんかされたくない__される前に自分からお別れすれば、傷もきっと浅くて済む。
大丈夫。
これはまだ、恋にすらなってない。
前世の私と同じく恋に恋して憧れを抱いてるだけだ。
きっと。
私はズキズキと痛む心臓の痛みに気付かないフリをして登城の支度をした。
そう、世間では評されつつその実 生徒の半分を国民としては少数派の貴族が占め(最高の環境の維持が貴族の寄付による部分も否定できないため特例枠というものが存在する)、さらに寮は家柄ごとに分けられていたりする(まあ王族がいる年もあるので保安上仕方がない)魔法学園。
入学式を終え、学園生活に胸を躍らせ春の花が舞う敷地に一歩入った途端、
「あれ……?」
目にした景色に妙な既視感を感じ目を擦ったところでぱきん、と頭の中で何かが弾けた。
そして、私はその場に倒れた。
高熱にうなされ、目が覚めた時には入学式から既に三日が経っていた。うなされている間に見た夢、いや前世の記憶によるパニックから立ち直るまでに更に三日かかった。
伯爵令嬢として生きてきて十四年と五ヶ月、領地からほとんど出たことがない箱入り娘。
__それが私、セイラ・ローズだ。
父は財務大臣を務め、王家の信頼も厚く遡れば王室に嫁いだ親族も少なくない。
その私が、悪役令嬢って……そんな馬鹿な。
そりゃあ私は乙女ゲー好き・美形の王子様大好き・実年齢=彼氏いない歴のオタク、現実の恋愛経験なしで二次元キャラにしか恋した事ないまま死んで、生まれ変わったらこんな世界に生きてみたいって憧れはあったけど。
何も某乙女ゲームの悪役令嬢でなくてもいいでしょっ!?
ヒロインとまでは言わない、せめてただの伯爵令嬢ポジションで生きさせてくれても良くないっ?!
そもそも、こういうのってもっと幼い頃に記憶戻るのがテンプレじゃないの?
そんでもってバッドエンド迎えない様に令嬢が頑張ってアレコレするもんじゃないのか?
入学式当日って遅くね?
いや遅い、ってかおかしい!
ここで戻されても今更どうしろってのっ!?
……いや落ち着け、落ち着こう私。
この世界はゲームじゃない、ゲームに似た世界だ。
生きてる人間が構築している世界の筈だ。
その証拠に私はまだ誰の婚約者でもない、候補の一人ってだけだ。
考えろ__まだ何か方法はあるはず。
今の自分は魔法使いだし、知識だってある。
悪役令嬢としてはテンプレだが、脳内会議なるものをしてノートに書き出してみた。
一.学園に入学してもヒロインを徹底的に避け、尚且つ王子との仲を邪魔しない様に努めて行動する
二.いっそこのまま学園に行くのをやめる
三.王子の婚約者候補を辞退する
四.自分の魔力レベルをあげて追放されても自力で生きていける素地を固める。
……一.がいち番容易ではあるけど、どうだろ。
令嬢側が避けてもこういうのってイベントが強制発動しやすい気がするんだよね、いわゆるゲーム補整っていうの?
それにヒロインが転生、もしくは転移者の可能性だってある。
その場合さらに避けきるのは難しくなってくる。
二.もなあ、そもそも学園入学は魔力を持つ者貴族なら受験制とはいえほぼ義務なんだよなぁ。そりゃ、何事にも特例はあるもんだけど私は王族じゃないから強権発動する権力とか持ち合わせてないし、難易度高い。
三.も王族相手にこちらが一方的に、とはいかないけど__うん?こっちに問題があった場合は?
……例えば健康を害してて、妃としての義務を果たせない場合とか?
幸い私は入学式後校舎に一歩も入る事なく倒れ、原因不明の高熱で何日も寝込んだ後だ。
婚約者候補には私より身分が高いご令嬢達だっている。
私一人辞退したところで、多分向こうも気にしないだろう。
辞退した後学園に通ったところで、婚約者どころか候補ですらない私はヒロインのライバルにはなり得ない!
よし、これで行こう。
でもって一応四もいつ追放されても対応出来るように準備だけはしておこう。
断罪イベントは卒業までに四回ある。
一回目は入学式から三カ月後、四回目が卒業式の二カ月前。
ヒロインが四回目まで待っててくれれば良いけど、一回目って準備期間少なすぎない?
__どちらにしろ、ヒロインにライバル認定されなきゃいいのよね?
漸く脳内会議(前世の記憶が強すぎて口がどんどん悪くなってはいるが、脳内だからいいのだ。)が終わると、私は王城に手紙を書いた。
臥せっている間沢山のお見舞いをありがとうございます、漸く身体も回復いたしましたのでお礼を直接申し上げたく、つきましては登城と面会の許可を頂きたく__云々。
よし、流石伯爵令嬢として育ってきただけあってこれくらいは容易い。
難しかったのは、殿下の予定の把握。
本人が王城にいる時ではさすがに無理。
いや、お見舞い(あちこちからいっぱい来てたけど)一番沢山送ってきてたのは殿下だし殿下に直接言うのが筋なんだけど__無理。
だって私は殿下の事が大好きだ、初めて登城した子供の頃から。
殿下も妹を可愛がるみたいに接してくれていた。
だから、婚約者候補に加えられた時は嬉しかった。
今回寝込んでる間だってわたしの大好きな花や紅茶やアクセサリーを毎日メッセージカード付きで届けてくれた。
だからこそ、殿下に断罪なんかされたくない__される前に自分からお別れすれば、傷もきっと浅くて済む。
大丈夫。
これはまだ、恋にすらなってない。
前世の私と同じく恋に恋して憧れを抱いてるだけだ。
きっと。
私はズキズキと痛む心臓の痛みに気付かないフリをして登城の支度をした。
141
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる
mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。
どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。
金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。
ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。
【書籍化のため引き下げ予定】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
※書籍化決定のため引き下げ予定です。他サイト様にも投稿しています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる