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__王立魔法学園。二年制のこの学園は魔力を持つ十四~十六才の生徒達に貴賎なく門戸を開いており、王室の保護の下最高の教育と環境を約束されている__



そう、世間では評されつつその実 生徒の半分を国民としては少数派の貴族が占め(最高の環境の維持が貴族の寄付による部分も否定できないため特例枠というものが存在する)、さらに寮は家柄ごとに分けられていたりする(まあ王族がいる年もあるので保安上仕方がない)魔法学園。
入学式を終え、学園生活に胸を躍らせ春の花が舞う敷地に一歩入った途端、
「あれ……?」
目にした景色に妙な既視感を感じ目を擦ったところでぱきん、と頭の中で何かが弾けた。
そして、私はその場に倒れた。

高熱にうなされ、目が覚めた時には入学式から既に三日が経っていた。うなされている間に見た夢、いや前世の記憶によるパニックから立ち直るまでに更に三日かかった。



伯爵令嬢として生きてきて十四年と五ヶ月、領地からほとんど出たことがない箱入り娘。

__それが私、セイラ・ローズだ。

父は財務大臣を務め、王家の信頼も厚く遡れば王室に嫁いだ親族も少なくない。
その私が、悪役令嬢って……そんな馬鹿な。
そりゃあ私は乙女ゲー好き・美形の王子様大好き・実年齢=彼氏いない歴のオタク、現実の恋愛経験なしで二次元キャラにしか恋した事ないまま死んで、生まれ変わったらこんな世界に生きてみたいって憧れはあったけど。

何も某乙女ゲームの悪役令嬢でなくてもいいでしょっ!?

ヒロインとまでは言わない、せめてただの伯爵令嬢ポジションで生きさせてくれても良くないっ?!
そもそも、こういうのってもっと幼い頃に記憶戻るのがテンプレじゃないの?
そんでもってバッドエンド迎えない様に令嬢が頑張ってアレコレするもんじゃないのか?
入学式当日って遅くね?
いや遅い、ってかおかしい!
ここで戻されても今更どうしろってのっ!?

……いや落ち着け、落ち着こう私。
この世界はゲームじゃない、ゲームに似た世界だ。
生きてる人間が構築している世界の筈だ。
その証拠に私はまだ誰の婚約者でもない、候補の一人ってだけだ。
考えろ__まだ何か方法はあるはず。
今の自分は魔法使いだし、知識だってある。



悪役令嬢としてはテンプレだが、脳内会議なるものをしてノートに書き出してみた。

一.学園に入学してもヒロインを徹底的に避け、尚且つ王子との仲を邪魔しない様に努めて行動する

二.いっそこのまま学園に行くのをやめる

三.王子の婚約者候補を辞退する

四.自分の魔力レベルをあげて追放されても自力で生きていける素地を固める。

……一.がいち番容易ではあるけど、どうだろ。
令嬢側が避けてもこういうのってイベントが強制発動しやすい気がするんだよね、いわゆるゲーム補整っていうの?
それにヒロインが転生、もしくは転移者の可能性だってある。
その場合さらに避けきるのは難しくなってくる。

二.もなあ、そもそも学園入学は魔力を持つ者貴族なら受験制とはいえほぼ義務なんだよなぁ。そりゃ、何事にも特例はあるもんだけど私は王族じゃないから強権発動する権力とか持ち合わせてないし、難易度高い。

三.も王族相手にこちらが一方的に、とはいかないけど__うん?こっちに問題があった場合は?
……例えば健康を害してて、妃としての義務を果たせない場合とか?

幸い私は入学式後校舎に一歩も入る事なく倒れ、原因不明の高熱で何日も寝込んだ後だ。
婚約者候補には私より身分が高いご令嬢達だっている。
私一人辞退したところで、多分向こうも気にしないだろう。
辞退した後学園に通ったところで、婚約者どころか候補ですらない私はヒロインのライバルにはなり得ない!

よし、これで行こう。
でもって一応四もいつ追放されても対応出来るように準備だけはしておこう。
断罪イベントは卒業までに四回ある。
一回目は入学式から三カ月後、四回目が卒業式の二カ月前。
ヒロインが四回目まで待っててくれれば良いけど、一回目って準備期間少なすぎない?

__どちらにしろ、ヒロインにライバル認定されなきゃいいのよね?


漸く脳内会議(前世の記憶が強すぎて口がどんどん悪くなってはいるが、脳内だからいいのだ。)が終わると、私は王城に手紙を書いた。

臥せっている間沢山のお見舞いをありがとうございます、漸く身体も回復いたしましたのでお礼を直接申し上げたく、つきましては登城と面会の許可を頂きたく__云々。
よし、流石伯爵令嬢として育ってきただけあってこれくらいは容易い。

難しかったのは、殿下の予定の把握。
本人が王城にいる時ではさすがに無理。
いや、お見舞い(あちこちからいっぱい来てたけど)一番沢山送ってきてたのは殿下だし殿下に直接言うのが筋なんだけど__無理。

だって私は殿下の事が大好きだ、初めて登城した子供の頃から。
殿下も妹を可愛がるみたいに接してくれていた。
だから、婚約者候補に加えられた時は嬉しかった。
今回寝込んでる間だってわたしの大好きな花や紅茶やアクセサリーを毎日メッセージカード付きで届けてくれた。
だからこそ、殿下に断罪なんかされたくない__される前に自分からお別れすれば、傷もきっと浅くて済む。



大丈夫。
これはまだ、恋にすらなってない。
前世の私と同じく恋に恋して憧れを抱いてるだけだ。
きっと。
私はズキズキと痛む心臓の痛みに気付かないフリをして登城の支度をした。

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