44 / 47
新たな流れ
しおりを挟む
この一件で内裏は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
本人たちさえその気なら内々にすますこともできた案件だが、薫本人が見過ごすつもりはなく公に裁こうとしたことと、まるで大捕物のように大騒ぎで馬や兵が市中を駆け巡ったため人の口の端に上ることも止められなかった。
ここまで大事になってしまえば誰も庇い立てできるはずがなく、匂宮は自ら地位を返還し、都から遠く離れた海にほど近い場所に住まいを構え蟄居した。
謀らずも光源氏と同じ道を辿る結果となったが、源氏の時のように「都に呼び戻そう」という気運は高まらなかった。
他でもない帝がこの一件で胸を患い、次いで匂宮の母中宮も病に伏したからだ。
引き換え薫東宮一族の者に病に倒れる者はなく、一層の華やぎを見せたので「神の御加護がある一族だ」と持て囃された。
夕霧の娘・六の君と匂宮はこの件で離婚していたが、薫が尚侍(ないしのかみ・宮中の女官の最高位)として引き立てたことで面目を潰さずに済んだ。
薫は匂宮に振り回された形である六の君を気の毒に思っただけであだめいた事は一切なかったが、感謝した夕霧は表立って薫の支持にまわった。
一番上の大臣でもある夕霧がそうしたことで他の朝臣たちもこぞって薫の支持者となり、彼らを抑えきれなくなった帝は僅かな在位期間をもって退位し、薫に帝位を譲った。
そんな一連の動きを結月と月影は静かに目で追い、口出しすることなく時流に任せていた。
透夜は蓮花が亡くなってから姿を見せなくなったが、薫が即位して一年近く経った頃、市中を見渡せる高台から町を見下ろす白頭巾の姿があった。
時を同じくしてその白頭巾を遠く離れた木の上から見つめる少女の存在を透夜はもちろん月二人もこの時は知る由もない。
少女はこの時代の人間らしくない仕草で「へー、あの薫大将が即位ねぇ……」と足をプラプラさせながら呟く。
巫女装束に似てはいるがスカート部分が短く、まるでミニスカ巫女のような格好だがそれが不思議と下品でなく似合っており、腰まである長い髪をポニーテールにしている。
髪は黒く顔立ちも日本人のようだがその肌は抜けるように白く、瞳は一見黒に見えるが明るい場所でよくよく見ると濃い紫色をしている。
「ほいほい帝が変わるのもどうかと思うけど、皇后を立てないって宣言を即位と同時にしちゃうとはねぇ」
薫の帝は「我が妃は蓮花さまのみ」と新たな妃を迎えることなく、東宮にはそのまま蓮花と薫の第二子・咲夜が立った。
後宮に妃としているのは浮舟のみだが、尚侍はじめ身分高い姫が次々と志願して女官として伺候したのと、「既に男御子がおられるのならば」と朝臣たちも不承不承ながら頷いたらしい。
「何とも慕われたものよねぇ……かつての光源氏は帝位に就くことはおろか冷泉院にも世継ぎは生まれなかったってのに息子があっさり東宮?源氏物語に続きがあったとしたらこんな展開もあったのかしら?」
そう嘯く少女の姿は蓮花に似ていたが、突っ込む口調はかつての織羽を連想させた。
本人たちさえその気なら内々にすますこともできた案件だが、薫本人が見過ごすつもりはなく公に裁こうとしたことと、まるで大捕物のように大騒ぎで馬や兵が市中を駆け巡ったため人の口の端に上ることも止められなかった。
ここまで大事になってしまえば誰も庇い立てできるはずがなく、匂宮は自ら地位を返還し、都から遠く離れた海にほど近い場所に住まいを構え蟄居した。
謀らずも光源氏と同じ道を辿る結果となったが、源氏の時のように「都に呼び戻そう」という気運は高まらなかった。
他でもない帝がこの一件で胸を患い、次いで匂宮の母中宮も病に伏したからだ。
引き換え薫東宮一族の者に病に倒れる者はなく、一層の華やぎを見せたので「神の御加護がある一族だ」と持て囃された。
夕霧の娘・六の君と匂宮はこの件で離婚していたが、薫が尚侍(ないしのかみ・宮中の女官の最高位)として引き立てたことで面目を潰さずに済んだ。
薫は匂宮に振り回された形である六の君を気の毒に思っただけであだめいた事は一切なかったが、感謝した夕霧は表立って薫の支持にまわった。
一番上の大臣でもある夕霧がそうしたことで他の朝臣たちもこぞって薫の支持者となり、彼らを抑えきれなくなった帝は僅かな在位期間をもって退位し、薫に帝位を譲った。
そんな一連の動きを結月と月影は静かに目で追い、口出しすることなく時流に任せていた。
透夜は蓮花が亡くなってから姿を見せなくなったが、薫が即位して一年近く経った頃、市中を見渡せる高台から町を見下ろす白頭巾の姿があった。
時を同じくしてその白頭巾を遠く離れた木の上から見つめる少女の存在を透夜はもちろん月二人もこの時は知る由もない。
少女はこの時代の人間らしくない仕草で「へー、あの薫大将が即位ねぇ……」と足をプラプラさせながら呟く。
巫女装束に似てはいるがスカート部分が短く、まるでミニスカ巫女のような格好だがそれが不思議と下品でなく似合っており、腰まである長い髪をポニーテールにしている。
髪は黒く顔立ちも日本人のようだがその肌は抜けるように白く、瞳は一見黒に見えるが明るい場所でよくよく見ると濃い紫色をしている。
「ほいほい帝が変わるのもどうかと思うけど、皇后を立てないって宣言を即位と同時にしちゃうとはねぇ」
薫の帝は「我が妃は蓮花さまのみ」と新たな妃を迎えることなく、東宮にはそのまま蓮花と薫の第二子・咲夜が立った。
後宮に妃としているのは浮舟のみだが、尚侍はじめ身分高い姫が次々と志願して女官として伺候したのと、「既に男御子がおられるのならば」と朝臣たちも不承不承ながら頷いたらしい。
「何とも慕われたものよねぇ……かつての光源氏は帝位に就くことはおろか冷泉院にも世継ぎは生まれなかったってのに息子があっさり東宮?源氏物語に続きがあったとしたらこんな展開もあったのかしら?」
そう嘯く少女の姿は蓮花に似ていたが、突っ込む口調はかつての織羽を連想させた。
3
お気に入りに追加
357
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
愛するお義兄様のために、『悪役令嬢』にはなりません!
白藤結
恋愛
「ふん。とぼけても無駄よ。どうせあなたも『転生者』なんでしょ、シェーラ・アルハイム――いえ、『悪役令嬢』!」
「…………はい?」
伯爵令嬢のシェーラには愛する人がいた。それが義兄のイアン。だけど、遠縁だからと身寄りのないシェーラを引き取ってくれた伯爵家のために、この想いは密かに押し込めていた。
そんなとき、シェーラと王太子の婚約が決まる。憂鬱でいると、一人の少女がシェーラの前に現れた。彼女曰く、この世界は『乙女ゲーム』の世界で、シェーラはその中の『悪役令嬢』で。しかも少女はイアンと結婚したくて――!?
さらに王太子も何かを企んでいるようで……?
※小説家になろうでも公開中。
※恋愛小説大賞にエントリー中です。
※番外編始めました。その後、第二部を始める予定ですが、まだ確定ではありません、すみません。
たまごっ!!
きゃる
キャラ文芸
都内だし、駅にも近いのに家賃月額5万円。
リノベーション済みの木造の綺麗なアパート「星玲荘(せいれいそう)」。
だけどここは、ある理由から特別な人達が集まる場所のようで……!?
主人公、美羽(みう)と個性的な住人達との笑いあり涙あり、時々ラブあり? なほのぼのした物語。
大下 美羽……地方出身のヒロイン。顔は可愛いが性格は豪胆。
星 真希……オネェ。綺麗な顔立ちで柔和な物腰。
星 慎一……真希の弟。眼光鋭く背が高い。
鈴木 立夏……天才子役。
及川 龍……スーツアクター。
他、多数。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
宝石ランチを召し上がれ~子犬のマスターは、今日も素敵な時間を振る舞う~
櫛田こころ
キャラ文芸
久乃木柘榴(くのぎ ざくろ)の手元には、少し変わった形見がある。
小学六年のときに、病死した母の実家に伝わるおとぎ話。しゃべる犬と変わった人形が『宝石のご飯』を作って、お客さんのお悩みを解決していく喫茶店のお話。代々伝わるという、そのおとぎ話をもとに。柘榴は母と最後の自由研究で『絵本』を作成した。それが、少し変わった母の形見だ。
それを大切にしながら過ごし、高校生まで進級はしたが。母の喪失感をずっと抱えながら生きていくのがどこか辛かった。
父との関係も、交友も希薄になりがち。改善しようと思うと、母との思い出をきっかけに『終わる関係』へと行き着いてしまう。
それでも前を向こうと思ったのか、育った地元に赴き、母と過ごした病院に向かってみたのだが。
建物は病院どころかこじんまりとした喫茶店。中に居たのは、中年男性の声で話すトイプードルが柘榴を優しく出迎えてくれた。
さらに、柘榴がいつのまにか持っていた変わった形の石の正体のせいで。柘榴自身が『死人』であることが判明。
本の中の世界ではなく、現在とずれた空間にあるお悩み相談も兼ねた喫茶店の存在。
死人から生き返れるかを依頼した主人公・柘榴が人外と人間との絆を紡いでいくほっこりストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる