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新たな流れ

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この一件で内裏は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
本人たちさえその気なら内々にすますこともできた案件だが、薫本人が見過ごすつもりはなく公に裁こうとしたことと、まるで大捕物のように大騒ぎで馬や兵が市中を駆け巡ったため人の口の端に上ることも止められなかった。

ここまで大事になってしまえば誰も庇い立てできるはずがなく、匂宮は自ら地位を返還し、都から遠く離れた海にほど近い場所に住まいを構え蟄居した。
謀らずも光源氏と同じ道を辿る結果となったが、源氏の時のように「都に呼び戻そう」という気運は高まらなかった。
他でもない帝がこの一件で胸を患い、次いで匂宮の母中宮も病に伏したからだ。

引き換え薫東宮一族の者に病に倒れる者はなく、一層の華やぎを見せたので「神の御加護がある一族だ」と持て囃された。
夕霧の娘・六の君と匂宮はこの件で離婚していたが、薫が尚侍(ないしのかみ・宮中の女官の最高位)として引き立てたことで面目を潰さずに済んだ。
薫は匂宮に振り回された形である六の君を気の毒に思っただけであだめいた事は一切なかったが、感謝した夕霧は表立って薫の支持にまわった。
一番上の大臣でもある夕霧がそうしたことで他の朝臣たちもこぞって薫の支持者となり、彼らを抑えきれなくなった帝は僅かな在位期間をもって退位し、薫に帝位を譲った。

そんな一連の動きを結月と月影は静かに目で追い、口出しすることなく時流に任せていた。

透夜は蓮花が亡くなってから姿を見せなくなったが、薫が即位して一年近く経った頃、市中を見渡せる高台から町を見下ろす白頭巾の姿があった。
時を同じくしてその白頭巾を遠く離れた木の上から見つめる少女の存在を透夜はもちろん月二人もこの時は知る由もない。

少女はこの時代の人間らしくない仕草で「へー、あの薫大将が即位ねぇ……」と足をプラプラさせながら呟く。
巫女装束に似てはいるがスカート部分が短く、まるでミニスカ巫女のような格好だがそれが不思議と下品でなく似合っており、腰まである長い髪をポニーテールにしている。

髪は黒く顔立ちも日本人のようだがその肌は抜けるように白く、瞳は一見黒に見えるが明るい場所でよくよく見ると濃い紫色をしている。
「ほいほい帝が変わるのもどうかと思うけど、皇后を立てないって宣言を即位と同時にしちゃうとはねぇ」
薫の帝は「我が妃は蓮花さまのみ」と新たな妃を迎えることなく、東宮にはそのまま蓮花と薫の第二子・咲夜が立った。
後宮に妃としているのは浮舟のみだが、尚侍はじめ身分高い姫が次々と志願して女官として伺候したのと、「既に男御子がおられるのならば」と朝臣たちも不承不承ながら頷いたらしい。
「何とも慕われたものよねぇ……かつての光源氏は帝位に就くことはおろか冷泉院にも世継ぎは生まれなかったってのに息子があっさり東宮?源氏物語に続きがあったとしたらこんな展開もあったのかしら?」
そう嘯く少女の姿は蓮花に似ていたが、突っ込む口調はかつての織羽を連想させた。
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