42 / 47
経緯 2
しおりを挟む
蓮花と薫の間に生まれた子供は二人。
一人めの姫は咲薇、二年後に生まれた男の子は咲夜と名付けられた。
この一件でさらに暴走した匂宮はあろうことか、十二になった薫の姫・咲薇(以前自分の子供に添わせようとしたが断られた)を、攫ってしまったのだ。
育ての母である浮舟の姉にあたる中君に新年の挨拶に参った咲薇をいきなり抱き上げ、自分の局に連れて帰ってしまったのである。
本当に突然の訪れだった。
「やあ。姪ごどののご機嫌は如何かな」
先触れもなしにいきなりひょっこりと几帳から顔を出した匂宮は、
「おお……!其方が咲薇姫か!母君によく似ておられるではないか」
「宮……!」
中君が非難の声をあげるが、
「其方の母との思い出話なぞをとくと語りたいものだ……そうだ私の住んでいる局の花が今それは見事だぞ?かの紫の上も愛した花だ、お前にも見せてやろう」
などと言って抱き上げたまま自分の局に去って行ってしまったのだ。
「姫さま……!」
蓮花第一で現在は咲薇の乳母となっている晶がとるものもとりあえず付いていき、中君は急いで御所に使いを、浮舟は薫を急ぎ呼びに行かせた。
いくら今は重い身分になったとしても女たちばかりの場であり、ここは匂宮が主の邸。
夕霧の養女として薫の女御となっていても浮舟は傍流の姫、匂宮の妻である中君も宮家の姫とはいっても親はなく匂宮に及ばない。
ついでに中君も浮舟も、匂宮がここまで無粋な真似をするとは思わず咄嗟に反応しきれなかった。
元々匂宮の邸に向かう中には早馬を操る供も付けていたので事は直ぐに内裏に知れた。
急ぎ駆けつけた薫の東宮が止める二条院の者たちに「私より何故宮の暴走を止めなかったのだ……!東宮の姫を隠したとなれば其方たちとてただではすまぬぞ?!」と一喝し匂宮の局に案内させて部屋へと押し入った。
部屋の中は庭へ続く戸が開けられているにもかかわらず香の匂いが充満しており、庭の花にほど近い縁に咲薇を膝に乗せた匂宮が涼しい顔で座っていた。
とりあえず何もなさそうで息を吐いた薫だが、匂宮が次に発した言葉で激昂した。
「なんだ薫、お前もここの花を愛でにきたのか?」
「___ふざけないでいただきたい!」
一人めの姫は咲薇、二年後に生まれた男の子は咲夜と名付けられた。
この一件でさらに暴走した匂宮はあろうことか、十二になった薫の姫・咲薇(以前自分の子供に添わせようとしたが断られた)を、攫ってしまったのだ。
育ての母である浮舟の姉にあたる中君に新年の挨拶に参った咲薇をいきなり抱き上げ、自分の局に連れて帰ってしまったのである。
本当に突然の訪れだった。
「やあ。姪ごどののご機嫌は如何かな」
先触れもなしにいきなりひょっこりと几帳から顔を出した匂宮は、
「おお……!其方が咲薇姫か!母君によく似ておられるではないか」
「宮……!」
中君が非難の声をあげるが、
「其方の母との思い出話なぞをとくと語りたいものだ……そうだ私の住んでいる局の花が今それは見事だぞ?かの紫の上も愛した花だ、お前にも見せてやろう」
などと言って抱き上げたまま自分の局に去って行ってしまったのだ。
「姫さま……!」
蓮花第一で現在は咲薇の乳母となっている晶がとるものもとりあえず付いていき、中君は急いで御所に使いを、浮舟は薫を急ぎ呼びに行かせた。
いくら今は重い身分になったとしても女たちばかりの場であり、ここは匂宮が主の邸。
夕霧の養女として薫の女御となっていても浮舟は傍流の姫、匂宮の妻である中君も宮家の姫とはいっても親はなく匂宮に及ばない。
ついでに中君も浮舟も、匂宮がここまで無粋な真似をするとは思わず咄嗟に反応しきれなかった。
元々匂宮の邸に向かう中には早馬を操る供も付けていたので事は直ぐに内裏に知れた。
急ぎ駆けつけた薫の東宮が止める二条院の者たちに「私より何故宮の暴走を止めなかったのだ……!東宮の姫を隠したとなれば其方たちとてただではすまぬぞ?!」と一喝し匂宮の局に案内させて部屋へと押し入った。
部屋の中は庭へ続く戸が開けられているにもかかわらず香の匂いが充満しており、庭の花にほど近い縁に咲薇を膝に乗せた匂宮が涼しい顔で座っていた。
とりあえず何もなさそうで息を吐いた薫だが、匂宮が次に発した言葉で激昂した。
「なんだ薫、お前もここの花を愛でにきたのか?」
「___ふざけないでいただきたい!」
2
お気に入りに追加
357
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
愛するお義兄様のために、『悪役令嬢』にはなりません!
白藤結
恋愛
「ふん。とぼけても無駄よ。どうせあなたも『転生者』なんでしょ、シェーラ・アルハイム――いえ、『悪役令嬢』!」
「…………はい?」
伯爵令嬢のシェーラには愛する人がいた。それが義兄のイアン。だけど、遠縁だからと身寄りのないシェーラを引き取ってくれた伯爵家のために、この想いは密かに押し込めていた。
そんなとき、シェーラと王太子の婚約が決まる。憂鬱でいると、一人の少女がシェーラの前に現れた。彼女曰く、この世界は『乙女ゲーム』の世界で、シェーラはその中の『悪役令嬢』で。しかも少女はイアンと結婚したくて――!?
さらに王太子も何かを企んでいるようで……?
※小説家になろうでも公開中。
※恋愛小説大賞にエントリー中です。
※番外編始めました。その後、第二部を始める予定ですが、まだ確定ではありません、すみません。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる