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終わりと始まり

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季節が冬に差しかかる頃、女二の宮は無事女の子を出産した。
産養うぶやしない(現在で言う出産祝い)の品々が引きもきらない中、「生まれた子の顔が見たいので里帰りしてまいれ」と父帝からお達しがあり、子連れで参じた際冷泉院が訪れたり、同腹でない兄弟姉妹も変わるがわる訪れたりと、気を抜く間もなく織羽は目を白黒させた。

それに目敏く気付いた薫が、
「申し訳ありません皇子みこ様がた、女二の宮様は初の出産からまだ日も浅いことから体調が思わしくないご様子、ここからは夫である私が承りましょう」
と私を寝所に引っ込め、代わりに対応してくれた。
(ほんとに出来た夫だなー)
もっとも自分は女二の宮ではないのだが、(それもこれも“蓮花“の容姿と血筋が優れてるからよね~それを思うと複雑だけど……)__悪くない気分だった。

織羽はあくまでそう信じているが、薫からすれば気高くおっとりとしているだけで自分に全く興味を示さなかった女二の宮が思いがけず感情豊かで、尚且つ「もっと心安く接して欲しい」と言ってきたことで“罪の子“である自分の存在をまるっと受け入れられた気がしたのだ。
己を律するのは外だけでいい。
自分の前ではありのままで良い。

そう言われた気がして、織羽が現代人の感覚のまま行動し言葉にもして見せた結果、薫の心を開いたのだ。

織羽自身は気がついていないが、薫の頑なな心を解いたのは織羽のだった。
「蓮花様、人々のおとないも漸く落ち着きました。お加減はいかがですか?」
「ええ、休ませて頂いたお陰で楽になりましたわ。」
「何か召し上がりたいものはございますか?」
「では葛湯の甘くしたものをいただるかしら?」
「かしこまりました、すぐに申し付けましょう」
こんな薫の献身的な姿も内裏の人々に焼きつき、二人は源氏と紫の上もかくやの至上の夫婦と称され、語り継がれることになる。



二人の睦まじさはそのまま続き、蓮花は娘を産んだ二年後さらに男の子を産む。

先に産んだ娘が七つになる頃、蓮花は突如病死した。

浮舟と幼い娘が枕辺で看取ったという。

薫の邸は深い悲しみに包まれたが、浮舟が取り仕切り、姫と若君の良き母となったという。
以後、薫はどれだけ身分があがっても正室を定めることはなかった。

同じ頃、薫の同僚であった結月という公達が姿を消したが、不思議なことに誰も不審に思わず、いつの間にか見知った人々の記憶から彼のことは消えていた。

それから更に数年が経過した頃、京には暫く姿を現さなかった白装束が現れるようになる。
相変わらず顔を隠していて正体はわからないが、身軽に家々の屋根を飛び回り、時には野盗や辻切りと立ち回りを演じているという。



<第一部・完>





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