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動きだす物語

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「そういえば、またお礼、言いそびれちゃったな……」
賊に出会くわした時、助けてもらったお礼。
本当なら、あそこで死んでもおかしくなかった__死んだら元に戻れてたんだろうか?
織羽は一人になった部屋で呟く。
「トウヤ、か。」
どんな字書くんだろ?
金髪だし白頭巾から覗く瞳は青かったから漢字ではないのかも。
あの二人も何か、隠してるみたいだし……」
月影の言い方からして“蓮花“も身上みのうえに限らず意外とお転婆だったってことだろうか?

__そんなワケないか、深層の姫君が。

そうもの想いに耽る織羽をよそに、薫は兄である夕霧の大臣邸を訪れていた。
「久しぶりだな、薫。良く来てくれた」
「すっかりご無沙汰してしまい申し訳ありません兄う、左大臣様」
「良い良い、ここは宮中ではないのだ。気楽に兄上と呼んでおくれ昔のように」
「はい、兄上」
「しかし……」
「兄上、何か?」
「いいや、我が弟ながら男ぶりに磨きがかかったものだと感慨に耽っていたのだよ、私も年をとるはずだ」
「そのような。私などまだまだ若輩の身です」
「相変わらずの慎ましさだな。最近は降嫁された女二の宮様とも仲睦まじい様子だと主上おかみも喜んでおられたよ」
「そのことなのですが……」
「何かあったのか?」
「それが……」

「成る程?其方は今以上に女二の宮様と親わしくなりたいと思っているがどうにも女二の宮様がその気になられぬと?」
「浮舟のことを気になさっているわけではないようです。それどころか妹のように可愛がっておられるご様子。やはり私が色々と至らないせいなのかと」
「ほう?堅物だと評判の薫にここまで言わせるとは、女二の宮様は噂に違わず素晴らしい女人らしいな」
「噂とは?」
「知らないのか?何とも君らしいが、君が引き取られた浮舟と女二の宮様の睦まじいさまは世間でも評判だよ。どちらもこころ映え優れた女人らしいね。流石あの薫大将が心に留める女性だけあると専らの噂だよ」
「はっ……?いえ、女二の宮様はともかく浮舟は、あ いえ浮舟の至らなささえ可愛らしいと許してしまえる女二の宮様の優しさあってのことでしょう、私の手柄ではありません、それに__」
「成る程?ライバルは他ならぬ浮舟どのであったか、これは愉快な」
「兄上!笑いごとではありません、蓮花様はふた言目には浮舟、浮舟と……」
「やはりそうではないか。しかもその慌てよう、女二の宮様は余程の手練れと見える」
「わ私は、兄上のように、ましてやち、光源氏の君のようにはいかないのです!」
「!」
夕霧の顔からすっと笑みが引き、思案げに眉根が寄せられる。
「誰かに何か言われたのかね?君が父、光源氏に似てないとでも?」













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