〈第一部完・第二部開始〉目覚めたら、源氏物語(の中の人)。

詩海猫

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だって私は知っている

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「今年の夏は蓮花様の為に蛍を愛でる宴でも催しましょう」
今日も今日とてご機嫌伺いにやって来た薫がそんなことをのたまう。
今季節は春だが、夏の催しとか言っている。
「私もそれに合わせて蓮花様に涼やかな衣装などお贈りいたしましょう。それを身に着けた蓮花様は夏の宴にさぞ映えることでしょう、蛍の光がか弱く見えてしまうほどに」
そして黙ったままの私に美辞麗句を紡いで来る。
ほんとに何なんだ、コイツは。

「その夏の宴とやらには、どなたを招かれるおつもりなのでしょう?」
「もちろん匂宮様はじめ付き合いのある方々を、と考えておりますが何か不都合でも?」
「浮舟さまも招んで下さるのでしょう?」
「浮舟は……どうでしょう、宮中行事に慣れた蓮花様と違いこういった催しには気後れしてしまうのでは」
それはそうかもしれないが、
「その為に大将さまが手解きなさっておられるのでしょう?」
確か宇治に通ってた頃はしていたはずだ、こちらに引き取ってからは知らないが。

「蓮花様のご希望とあれば吝かではありませんが……そうですね、浮舟を恥ずかしくない程度に仕上げる為には暫くあちらに集中して通わなければ、」
「まあ。では是非そうして差し上げて下さいまし。けれど、浮舟さまはか弱いお方、あまり厳しくはなさらないで下さいませね?」
「……蓮花さまは、私が暫くこちらに来られなくても……」
「?申し訳ありません、聞き取れませんでしたわ。もう一度仰って__」
織羽からしてみれば、急にモゴモゴ喋り始めた薫の声が聞き取れなかったというだけなのだが、
「いえ!それが蓮花様のお望みとあらば私は暫くあちらにい続けることに致しましょう、失礼します!」
と退出していった。

「急にどうされたのかしら?」
「姫様……」
「どうしたの晶?」
「今のはさすがに……、というかここ最近のご様子はこの私から見ても大将の君がお気の毒で」
「気の毒?何故?」
「っ!ここ最近の大将の君は以前と違いあの手この手で姫様の気を引こうと奔走しておられるではないですかっ!それなのに姫様は軽く流してしまわれて__「そんなの当たり前じゃない」は?」
「昔も今も薫の大将は宇治の君に夢中なのよ、お相手は違えど、ね。」
「姫様……」
「ああ卑下しているわけではないのよ?私は今の生活をそれなりに楽しんでいるし、大将の君のお相手の女性に想うところなどないわ。それに手元に引き取っておきながら放っておくというのも感心しないし、これで良かったと思っているのよ?」
「姫様……」
晶は痛ましそうに蓮花を見るが、中の織羽からすればこれが当然なのだ。

物語の中で女二の宮と結婚したばかりの薫は匂宮と中君の間に産まれた子に会いに行き、「私もこんな可愛らしい子が欲しかった」と洩らす。
周囲にいた者たちはその呟きに、「まぁ大将の君は奥方も迎えたばかり」「お子様などこれからいくらでも」と微笑むが、「そうではない。私が欲しかったのはあのまま大君と結ばれていれば生まれたはずの子だ」と心中で呟くのだ。

薫は源氏の子ではない。
当時光源氏の正室だった女三の宮と柏木という青年の不義密通の子である。
光源氏も、息子である夕霧も当時そのことを察していたが口にすることはなかった。
幼い頃の女房たちのひそひそ話から薄々そのことを察していた薫は宇治で初めて当時(以前柏木に仕えていた老女が宇治の姉妹に仕えていた)を知る者と出会い、父のことを知らされ、「恐ろしい事実だが漸く地に足がついた気がする。この想いを誰かと分かち合いたい。できれば先ほど垣間見たあの宇治の姫と……」としみじみと自身を憐れむ。

それがあったからこそ薫には宇治という地が特別なのかもしれない。

そういった吊り橋効果があったにせよ、薫の心の中に女二の宮への思慕など欠片もない。
今も昔も。
あ 女一の宮にはあるんだっけ?
「夏の薄絹、ね……」
夏の薄絹で誰を思い描いているのやら。
「世間には固い方だと思われている様だけど、それは間違いよ。匂宮様のように表に出さないだけで、殿は多情なお方よ?」
「え」
「今日はもう休むわ、退がってよくてよ晶」
__さて、私は気晴らしに向かおうか。




















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