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月夜のもと、フラグは立たない
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__何だったんだ、あれは。
あの時妙に感じた視線は気のせいではなかったらしく、あれから薫は毎日のようにご機嫌伺いにやってきては距離を詰め、晶含め女房たちまで下がらせては二人きりになりたがった。
__???
なんで?
頭の中を?マークが飛び交うが答えてくれる人はいない。
肝心の月二人が、
「知らん」
「夫婦ごとは、密やかに成るものです故」
と不可侵宣言をかましたからである。
このままでは私のお忍びタイムが失われる。
何とかしなくては。
あれ、そういえば浮舟ちゃんは?
薫といちゃいちゃしてくれてないんだろうか、まさか(薫が)愛想尽かされたとか??
私は先触れを出し、浮舟ちゃんの部屋を訪れた。
「お方さま!」
浮舟ちゃんが大歓迎してくれた、やっぱ可愛い。
こんなに可愛い浮舟ちゃんを迎えといて何やってんだ薫は。
菓子などを出されて、ひとしきりおしゃべりに興じる。
「最近、大将の君とはどう?不遇な扱いなど受けてないかしら?」
「そのようなこと……!大将の君は良くして下さいます!確かに滅多にこちらには来られませんけど、大将の君にはお方さまがいらっしゃるのですから……」
最後小さく口籠もったひと言は織羽に届かない。
(滅多に来ない、か。確かにこの世界の男って遠くに通っている間には想いを募らせても、側に迎えた途端冷めるようなとこあるのよね……だからって、何で蓮花の元に集中してくるのかはわからないけど)
織羽は知らない、最近やけに女二の宮のことを訊いて来る匂宮に不信と対抗心を燃やした薫が自分の元を訪れ、織羽のいきいきとした表情に惹かれまめに訪れ始めたことも、日に日に自分を見る薫の目が常にない情熱を宿していることも。
ついでに元々が夫婦なので逃げようもないことも、当の織羽は気が付いていなかった。
「蓮花様、本日はたいそう月が美しいですよ。こちらの縁側に出てらっしゃいませ……共に月を眺めましょう」
「はぁ……?」
実に源氏の血筋くさい台詞だがこの男が言うと良く似合う。
だが、
(__言う相手間違えてない?)
そう言えば月夜に楽器を演奏してる姉妹を出歯亀して見惚れたのが始まりだっけ、大君への懸想って。
でもって蓮花が降嫁してきた時この人が少しでも大君に似ていたら自分の心も慰められるのにって嘆いたんだよなコイツ。
どんだけ失礼だよ。
織羽でいた時に読んだ内容を思い出してムカムカする私に、
「お加減がお悪いのですか?」
薫は気遣わしげに声を掛けてくる。
「いいえ?“月は宇治で見るもの“と決めてらした方がここにこうしていらしたことに驚いていましたの、月日が経つのは早いものですわね」
ちょっと直接的すぎたかもしれないが、“頭の上に戴いてるだけの家臣“な夫と“家来か何か“のように思ってる夫婦と描写されているくらいだから大丈夫だろう。
だが、“もののあはれ“こそが重要なこの時代の公達にそんな理屈は通じない。
「私の心痛にそのようなお気遣いを。__まこと、月日が経つのは早いものですが私はこうして貴女という得難い方とまたこうして月を見上げることが出来ますゆえ、」
言いかけた薫の声がこちらに視線を向けた途端に止まる。
「? どうかなさいましたか?」
「いえ、月光に照らされた蓮花様があまりにお美しいので」
(は?!)
ぶわっと織羽の全身が逆立つ。
(そう言えばコイツ最近私のこと蓮花って呼んでるよね?ずっと女二の宮だったのに)
などと心中で突っ込みまくっていることを知らない薫の方は、蓮花にまじまじと見つめられて少年のように頬を染めた。
あの時妙に感じた視線は気のせいではなかったらしく、あれから薫は毎日のようにご機嫌伺いにやってきては距離を詰め、晶含め女房たちまで下がらせては二人きりになりたがった。
__???
なんで?
頭の中を?マークが飛び交うが答えてくれる人はいない。
肝心の月二人が、
「知らん」
「夫婦ごとは、密やかに成るものです故」
と不可侵宣言をかましたからである。
このままでは私のお忍びタイムが失われる。
何とかしなくては。
あれ、そういえば浮舟ちゃんは?
薫といちゃいちゃしてくれてないんだろうか、まさか(薫が)愛想尽かされたとか??
私は先触れを出し、浮舟ちゃんの部屋を訪れた。
「お方さま!」
浮舟ちゃんが大歓迎してくれた、やっぱ可愛い。
こんなに可愛い浮舟ちゃんを迎えといて何やってんだ薫は。
菓子などを出されて、ひとしきりおしゃべりに興じる。
「最近、大将の君とはどう?不遇な扱いなど受けてないかしら?」
「そのようなこと……!大将の君は良くして下さいます!確かに滅多にこちらには来られませんけど、大将の君にはお方さまがいらっしゃるのですから……」
最後小さく口籠もったひと言は織羽に届かない。
(滅多に来ない、か。確かにこの世界の男って遠くに通っている間には想いを募らせても、側に迎えた途端冷めるようなとこあるのよね……だからって、何で蓮花の元に集中してくるのかはわからないけど)
織羽は知らない、最近やけに女二の宮のことを訊いて来る匂宮に不信と対抗心を燃やした薫が自分の元を訪れ、織羽のいきいきとした表情に惹かれまめに訪れ始めたことも、日に日に自分を見る薫の目が常にない情熱を宿していることも。
ついでに元々が夫婦なので逃げようもないことも、当の織羽は気が付いていなかった。
「蓮花様、本日はたいそう月が美しいですよ。こちらの縁側に出てらっしゃいませ……共に月を眺めましょう」
「はぁ……?」
実に源氏の血筋くさい台詞だがこの男が言うと良く似合う。
だが、
(__言う相手間違えてない?)
そう言えば月夜に楽器を演奏してる姉妹を出歯亀して見惚れたのが始まりだっけ、大君への懸想って。
でもって蓮花が降嫁してきた時この人が少しでも大君に似ていたら自分の心も慰められるのにって嘆いたんだよなコイツ。
どんだけ失礼だよ。
織羽でいた時に読んだ内容を思い出してムカムカする私に、
「お加減がお悪いのですか?」
薫は気遣わしげに声を掛けてくる。
「いいえ?“月は宇治で見るもの“と決めてらした方がここにこうしていらしたことに驚いていましたの、月日が経つのは早いものですわね」
ちょっと直接的すぎたかもしれないが、“頭の上に戴いてるだけの家臣“な夫と“家来か何か“のように思ってる夫婦と描写されているくらいだから大丈夫だろう。
だが、“もののあはれ“こそが重要なこの時代の公達にそんな理屈は通じない。
「私の心痛にそのようなお気遣いを。__まこと、月日が経つのは早いものですが私はこうして貴女という得難い方とまたこうして月を見上げることが出来ますゆえ、」
言いかけた薫の声がこちらに視線を向けた途端に止まる。
「? どうかなさいましたか?」
「いえ、月光に照らされた蓮花様があまりにお美しいので」
(は?!)
ぶわっと織羽の全身が逆立つ。
(そう言えばコイツ最近私のこと蓮花って呼んでるよね?ずっと女二の宮だったのに)
などと心中で突っ込みまくっていることを知らない薫の方は、蓮花にまじまじと見つめられて少年のように頬を染めた。
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