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織羽、京の市中を駆け抜ける
しおりを挟むとりあえずスカート丈に関する攻防(?)を終え、私は初のお忍び外出を勝ち取った。しかも、幻術を使えるお供付きである。
「目立つ行動は控えろよ、中身はともかく姿は深窓の姫君だからな?」
__お目付役とも言う、だから自分で来たんじゃないってば。
私は服装は理想通りミニ丈の巫女服だが、頭からすっぽりとフード付きのマントを被らされているので傍目にはあの白頭巾と変わらない。
「これじゃ動けない!」
と抗議してみたが、
「特別に軽い素材で出来ているから大丈夫だ、身を守る効果もあるから敵の初手だけはそれで防げる。相手の力が強ければ一度きりで切れてしまうかもしれんがな、その時は脱ぎ捨ててなりふり構わず逃げろよ?」
「なんでそんな攻撃受けること前提なのよ、蓮花って誰かに狙われてたの?」
「そういうわけじゃないんが__そうだな、常に最悪を想定して備える癖がついちまってるんだよ、俺たちは」
“俺たち“?
思わず訊き返しそうになったが、その言葉と同時にぽん、と頭に置かれた手がそうさせてくれなかった。
この日の外出は主に道を覚える事だった。
霊験あらたからしいこの身体は、鍛えたら“身体強化“なるものが使えるようになり、修行はこの“身体強化“状態を出来るだけ長く保つことに集中した為、最初数分しか保たなかった持続時間は二時間まで延びた。
基、
「外出が許可出来るラインは最低一刻(二時間)だ」
と言われてはいたのだが。
初めて自分の足で歩く夜の京は幻想的で、人目につかない速さで京を駆け抜けるのは快感だった。
身体強化のお陰で町中をパルクール移動も苦にならない、蓮花ちゃんの体のスペック凄い。
「半刻(一時間)以内で邸に戻るとしたらこの辺りか」
ひと通り町を駆け抜けた後、町外れの小高い場所で足を止めた結月が呟く。
現代と違って町は暗いが、高い建物がないので遥か遠くまで見渡せる。
身体強化は視力にも有効らしく、暗いながら街並みが見える。
「凄い……」
(わかっちゃいたけど、ほんとに平安時代なんだなぁ……)
現代にも京の街並みは残ってはいるが、一歩出れば高いビルが見えてしまうし、電線とかあるし、河原は整備されている。
こんな景色は現代では拝めないが、不思議と懐かしさを感じた。
私が動かないので訝ったのだろう、
「何か気になるものでもあったか?」
「__いえ。同じ国のはずなのに、随分違うものなんだなって」
「里心がついたか?」
「それは最初からです」
「そうか」
現代人なら当たり前だ、こんな不自由で不便な時代で生きていけるわけがない。
私の知る京都はあくまで旅行先であって、住みたいとは思ったことはない。
私は風情より利便性をとる派なのだ。
あの白頭巾の男が着ていたのはどう見ても洋服だ。
__会えば、何か手掛かりが掴めるかもしれない。
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