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謎の青年?現る
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薫を黙らせて内裏に里帰りした私は、帰り道蓮花の母の縁の寺に寄ることにした。
先日訪問してきた二人のことは気になるものの、現状面倒なのは薫である。
随従達は渋ったが、表立って逆らうことはしない。
私も暗くなっては困るので、母の菩提寺に手を合わせて寺人に挨拶するだけで帰路に着いた。
が、城下の道に出てすぐに牛車が止まり、鈍い音が響き、続いて人の呻き声のようなものが聞こえた気がした。
__何か、あった?
迂闊に顔を出すのはまずい気がしたが、声をあげていいものかもわからない。
共に中にいるのは晶だけだ。
その晶も青い顔をしているが、口を開きそうになったので仕草で「シッ」と示して耳をすます。
そこへ、
「ぎゃっ!」
という野太い悲鳴が響いた。
随従は十人(二十人くらい付くのが普通らしいが仰々しいので断った)のはずだが、あんな声の者がいたろうか__?
考えがまとまらないうちに、牛車の入り口に掛かる簾が跳ね上げられ、白頭巾で全身を覆った男が現れた。
「っ?!」
「何者っ?!」
空かさず私を庇いながら誰何した晶の忠誠心は素晴らしいが、相手はその手に剣を握っている。
しかも血が滴っているということはーー、
「__女、か……しかも身分のある……」
思いのほか若い声は少年とも青年ともつかないものだったが、小さく舌打ちしたのがわかった。
しかも、白頭巾から僅かに見える下に着た衣服は(洋服、というか制服に似てる……?)おまけに頭巾から僅かに覗く前髪は金。
ということは彼は__まさか。
「魂の迷い子……?」
私の呟きに、目の前の白頭巾が目を見張る。
「お前__」
す、と目を細めて、
「お前、名は?」
と訊いてきた。
一瞬どちらを答えたものか迷ったが、晶の前で自分の本名を言うわけにもいかないので、
「__蓮花」
「ひ、姫さま、このようなならず者に名乗っては、」
「どこのお姫様か知らないが、運が良かったな。俺が通りかからなきゃあんたも死んでたぜ?__外見てみな」
言われるまま、晶と抱き合いながら外に目をやると___随従していた者達の死体が山になっていた。
「ひいぃっ……!ひ、人殺し……!」
晶が叫ぶが、
「落ち着いて、晶」
今この男は“自分が通りかからなければ私達も死んでいた”と言った。
ならば、随従達を殺したのは___目を凝らすと、随従達の死体に混じってならず者らしき死体が目に入る。四人ほどいるようだ。
「随従達を殺したのは、あのならず者ね。そしてあのならず者達は、貴方が?」
「ああ。こんないかにも身分の高そうな獲物を見つけたんで、襲わずにいられなかったのかもな。牛を引くヤツだけは無事のようだから、早く行った方がいいぜ?」
「そうね。__貴方の名前は?」
「__ほう、それで?」
「教えてくれなかったのよ!こっちには名乗らせておいて!」
私は先日の一部始終を結月(面倒なので敬称略)と月影に語っていた。
例の術とやらでこの二人の存在や会話は周囲に認識されないから、私も蓮花でいる必要がない。
「だろうなぁ」
結月が柄悪く言った。
「知ってるの?!」
「あ~知ってる、つーか、不穏なんだよなぁアイツ」
「は?」
「ここらで物騒なことが起きると、必ず現場にはヤツがいる」
「__え、」
「アイツは俺達の対象リストには入ってねぇ。だが髪色ひとつとってもどう見てもこの世界の人間でもない__だろ?」
「うん。__あの白頭巾の下、私がいた未来の世界の服みたいだった。迷い子じゃないなら何なの?」
「「!」」
二人は目を見合わせた。
「そいつぁ……、」
「よくその現場で冷静にそこまで見られましたね、織羽どの」
「逆に現実感がなかったのよ、それより教えて。あの人は何なの?」
「アイツは俺達の監視対象の前にふらっと現れちゃあ、何も言わずに消えて行く。こっちが何聞いても答えねぇ」
「なのであの御仁については正直手詰まりなのですよ、剣の腕前も確かですし身のこなしも普通でないのに自分は監視者でも迷い子でもないと言う。」
「要するに何も知らないってこと?」
「まあ、それに近いです。」
___ダメじゃん。
結月は面白くない顔を、月影は申し訳なさそうにしているが、あの男については本当に何も知らないらしい。
だが、あの服装といい、“魂の迷い子”というワードに反応したことといい、彼は自分に近い存在かと思ったのだが違うのだろうか?
いや確かに現代人ならあんなに剣の扱いに慣れてるはずがないか。
「とにかく、何が目的なのかわからない以上、下手に近付くなよ?」
「__近づきようがないわよ」
織羽は大きく息を吐いた。
織羽が入っている体は降嫁したとはいえ帝の娘である。
それが随従を減らしていたとはいえ、襲撃され、当人とお付きの女房一人を除き皆殺しにされたのだ。
夫である薫はもちろん、帝も兄妹の皇子らも大騒ぎで衛士を送り込み、今蓮花の住まう邸は二十四時間厳戒態制である。
もちろん、犯人が見つかるまで外出禁止。
__て、犯人あそこで殺されてたじゃん!
見つけようがなくない?!
とも思ったが、その犯人たちを殺した人物は確かにいるわけで。
この世界の捜索で捕まるとも思えないが、ずっと外出禁止も困るのである。
だから結月達を呼んだのだ。
「__まぁ、犯人をでっち上げること自体は難しくないが、向こうの出方がわからん。暫く大人しくしとけ」
「えぇ~……」
「魂が入れかわっていると言っても、人の体であることは同じ。刃物で斬りつけられれば痛みも感じるし最悪の場合死に至ります。そのことをお忘れなきよう」
この体は他人のものだから、傷つけるな。
そう言われてしまえば言い返しようがないが、織羽は言い様のない焦燥を感じた。
助けられたのに、お礼も言えてない。
もう一度、彼と会ってみたい、話したい___何故だか、そう思った。
先日訪問してきた二人のことは気になるものの、現状面倒なのは薫である。
随従達は渋ったが、表立って逆らうことはしない。
私も暗くなっては困るので、母の菩提寺に手を合わせて寺人に挨拶するだけで帰路に着いた。
が、城下の道に出てすぐに牛車が止まり、鈍い音が響き、続いて人の呻き声のようなものが聞こえた気がした。
__何か、あった?
迂闊に顔を出すのはまずい気がしたが、声をあげていいものかもわからない。
共に中にいるのは晶だけだ。
その晶も青い顔をしているが、口を開きそうになったので仕草で「シッ」と示して耳をすます。
そこへ、
「ぎゃっ!」
という野太い悲鳴が響いた。
随従は十人(二十人くらい付くのが普通らしいが仰々しいので断った)のはずだが、あんな声の者がいたろうか__?
考えがまとまらないうちに、牛車の入り口に掛かる簾が跳ね上げられ、白頭巾で全身を覆った男が現れた。
「っ?!」
「何者っ?!」
空かさず私を庇いながら誰何した晶の忠誠心は素晴らしいが、相手はその手に剣を握っている。
しかも血が滴っているということはーー、
「__女、か……しかも身分のある……」
思いのほか若い声は少年とも青年ともつかないものだったが、小さく舌打ちしたのがわかった。
しかも、白頭巾から僅かに見える下に着た衣服は(洋服、というか制服に似てる……?)おまけに頭巾から僅かに覗く前髪は金。
ということは彼は__まさか。
「魂の迷い子……?」
私の呟きに、目の前の白頭巾が目を見張る。
「お前__」
す、と目を細めて、
「お前、名は?」
と訊いてきた。
一瞬どちらを答えたものか迷ったが、晶の前で自分の本名を言うわけにもいかないので、
「__蓮花」
「ひ、姫さま、このようなならず者に名乗っては、」
「どこのお姫様か知らないが、運が良かったな。俺が通りかからなきゃあんたも死んでたぜ?__外見てみな」
言われるまま、晶と抱き合いながら外に目をやると___随従していた者達の死体が山になっていた。
「ひいぃっ……!ひ、人殺し……!」
晶が叫ぶが、
「落ち着いて、晶」
今この男は“自分が通りかからなければ私達も死んでいた”と言った。
ならば、随従達を殺したのは___目を凝らすと、随従達の死体に混じってならず者らしき死体が目に入る。四人ほどいるようだ。
「随従達を殺したのは、あのならず者ね。そしてあのならず者達は、貴方が?」
「ああ。こんないかにも身分の高そうな獲物を見つけたんで、襲わずにいられなかったのかもな。牛を引くヤツだけは無事のようだから、早く行った方がいいぜ?」
「そうね。__貴方の名前は?」
「__ほう、それで?」
「教えてくれなかったのよ!こっちには名乗らせておいて!」
私は先日の一部始終を結月(面倒なので敬称略)と月影に語っていた。
例の術とやらでこの二人の存在や会話は周囲に認識されないから、私も蓮花でいる必要がない。
「だろうなぁ」
結月が柄悪く言った。
「知ってるの?!」
「あ~知ってる、つーか、不穏なんだよなぁアイツ」
「は?」
「ここらで物騒なことが起きると、必ず現場にはヤツがいる」
「__え、」
「アイツは俺達の対象リストには入ってねぇ。だが髪色ひとつとってもどう見てもこの世界の人間でもない__だろ?」
「うん。__あの白頭巾の下、私がいた未来の世界の服みたいだった。迷い子じゃないなら何なの?」
「「!」」
二人は目を見合わせた。
「そいつぁ……、」
「よくその現場で冷静にそこまで見られましたね、織羽どの」
「逆に現実感がなかったのよ、それより教えて。あの人は何なの?」
「アイツは俺達の監視対象の前にふらっと現れちゃあ、何も言わずに消えて行く。こっちが何聞いても答えねぇ」
「なのであの御仁については正直手詰まりなのですよ、剣の腕前も確かですし身のこなしも普通でないのに自分は監視者でも迷い子でもないと言う。」
「要するに何も知らないってこと?」
「まあ、それに近いです。」
___ダメじゃん。
結月は面白くない顔を、月影は申し訳なさそうにしているが、あの男については本当に何も知らないらしい。
だが、あの服装といい、“魂の迷い子”というワードに反応したことといい、彼は自分に近い存在かと思ったのだが違うのだろうか?
いや確かに現代人ならあんなに剣の扱いに慣れてるはずがないか。
「とにかく、何が目的なのかわからない以上、下手に近付くなよ?」
「__近づきようがないわよ」
織羽は大きく息を吐いた。
織羽が入っている体は降嫁したとはいえ帝の娘である。
それが随従を減らしていたとはいえ、襲撃され、当人とお付きの女房一人を除き皆殺しにされたのだ。
夫である薫はもちろん、帝も兄妹の皇子らも大騒ぎで衛士を送り込み、今蓮花の住まう邸は二十四時間厳戒態制である。
もちろん、犯人が見つかるまで外出禁止。
__て、犯人あそこで殺されてたじゃん!
見つけようがなくない?!
とも思ったが、その犯人たちを殺した人物は確かにいるわけで。
この世界の捜索で捕まるとも思えないが、ずっと外出禁止も困るのである。
だから結月達を呼んだのだ。
「__まぁ、犯人をでっち上げること自体は難しくないが、向こうの出方がわからん。暫く大人しくしとけ」
「えぇ~……」
「魂が入れかわっていると言っても、人の体であることは同じ。刃物で斬りつけられれば痛みも感じるし最悪の場合死に至ります。そのことをお忘れなきよう」
この体は他人のものだから、傷つけるな。
そう言われてしまえば言い返しようがないが、織羽は言い様のない焦燥を感じた。
助けられたのに、お礼も言えてない。
もう一度、彼と会ってみたい、話したい___何故だか、そう思った。
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