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謎の美形、現る。

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「何者……とは?」
出来るだけ平坦な声で問うと、
「何、“お前の中身は本物か”と訊いておるのよ」
「!」
こちらの驚愕をよそにがらりと口調を変えた結月の大将と名乗る男は、
「同僚である薫大将の君が“最近妻が人が変わったようだ”と漏らしていてな、もしやと思ったのだ。ご兄妹でおられる匂宮さまにおかれても“あそこまで気が強いとは思っていなかった”と仰せられるし、主上におかれてはただ“成長した”と思われておいでのようだったが」
流石究極の箱入り温室育ち蓮花パパ。
「内裏におられた時はただただおっとりとした女人だとしか人の口に上らなかった女二の宮さまがここ最近になって姉の女一の宮さま、二条院の中君さまはじめ大層親しくされているとか__本来なら、なさぬ仲であるはずの浮舟さまとさえ。あまつさえ匂宮が困ったお心ざしを向けてらっしゃるのに勘付き自ら止めに入られたとか?」
__こいつ、どこまで知ってるの?
しかも、この口調。
言葉遣い自体は間違っていないが、明らかに場にそぐわない。
先程と変わらず座しているが目が入ってきた時とまるで違う。
心の中、魂の底まで見透かすかのようだ。
「貴方は陰陽師か何かなの?」
「いいや、先程も言ったが役職は左大将だ」
「この世界では、でしょう?」
ただの左大将がこんな詰問をしに来るはずがない。
「……やはりか。お前、名は?」
「人に名を尋ねる時はまず自分が名乗ってから、と教わりませんでした?」
「なっ……」
自称結月の大将が絶句すると、クク、と小さな笑い声が響いた。
「月影、笑うな」
自称(略)が不愉快そうに言うと、隣にまた違った美形の青年が立っていた。
……だから美形しk……うん、もう突っ込むのやめよう。
「名を呼ぶから術が解けてしまったではありませんか、よろしいのですか?」
こっちは薫よりも美形でしかも纏う雰囲気が華やかだ、結月の大将よりやや長い髪に金の飾りが無理なく似合ってる。言っちゃなんだが匂宮より皇族っぽい。
「構わん。コイツは月影、俺の部下だ。俺は結月でいい、お前は?」
「織羽。葉宮織羽」
私はそう名乗って、これまでのことを話した。
自分はこことは違う未来の日本とも言うべき場所で生きていたが目が覚めたら女二の宮になっていたこと、彼等の色恋沙汰は後々の世では有名で浮舟ちゃんが匂宮に寝取られた後気鬱の病で入水してしまうことを知っていたので止めようとしたこと、等々だ。
「100%フィクションのはずだけど」
とは言えない、言わない。だって私もここで生きてるわけだし。
「魂の迷い子か……」
私の話をひと通り聞き終わった結月はそう呟いた。
聞けばこの世界に別世界の体ごと迷い込んでしまったり、この世界の人の中に別の人格が入りこんでしまい周囲に物の怪憑き呼ばわりされたり という事象はそれなりにあるらしい。
尤も、この世界では“物の怪”の存在は普通に認識されているためそこまで騒ぎにはならず、主上はもちろん当事者以外は知らずに処理出来ているという。
処理、という言葉に引っかかったが「別に殺して処理しているわけではない、知れず元に戻った例もあるが基本ある程度元の人格のフリができれば特に問題ないからな、助言程度で済んでいる」
「問題は、異世界人の体のままこちらに来てしまった人です。見た目あまり変わらなければこちらで生きていくことも可能でしょう。ですが、」
「もしかして、鬼扱いされて退治されちゃう、とか……?」
昔話で流れついた外国人が金髪だったり赤い髪だったりしたせいで鬼、または妖怪として石を投げられ追い払われて、退治をさし向けられた話を思い出し口にすると、
「おっしゃる通り、織羽どのは博識でいらっしゃるな」
月影に褒められ、くすぐったい気持ちになる。
つーか、月影さんに比べるとどう見ても結月の方が野蛮人なのだが。
なんで月影さんが部下なんだろ??
まじまじと二人を見比べていると、
「お前、なんか失礼なこと考えてたろ?」
「いえ、(多分)世間一般の見解です。それで、結月、さんの役割って?」
「そういった迷子の監視と保護だ。大抵の迷い子は大人しいが中にはこの世界の人間の無知な部分につけ込んで犯罪を企むやつもいるからな」
「あぁ……」
そういえば現代でも手を変え品を変え横行してたっけ__世知辛いな、どこの世も。
「まぁ、とりあえず問題はなさそうだな。何か企んでる様子もなし__だが未来を知ってること、俺達以外には聡られるなよ?」
す、と結月が立ち上がり月影もそれに続く。
「何かあれば月影を通して俺に知らせろ。一人でヤバい橋渡ろうとするなよ?」
そんなつもりは微塵もないが、ヤバい橋かどうかの区別をどうやってしろと?いや、それ以前に__
「あの、私が帰れる可能性は?」
「現時点では未知数、としか言えん。何がきっかけで迷い子がここに飛ばされてくるのかもわかってないからな」
「えぇー……」
「ま アテにせず待ってろ、お前は上手くやってる」
ポン、と頭に手を乗せて撫でられても……そういえば、お付きの女房の姿が全く見えない。
彼等を取り次いだ女房さえ。さっきの月影さんの術で姿を隠していたことといい……
「貴方達、何者?」
「監視者及び保護監察官だよ、さっき言ったろ?俺が結月の大将だってのも本当だ、俺の中身は迷子じゃないからな。月影」
「はい、こちらをどうぞ、織羽さま」
言うなり月影さんは金の耳飾りの片方を外し私の手の平に乗せた。
「それに呼びかければ私に聞こえます。普段は組紐などに通して首に掛けておくとよろしいでしょう、女房たちなどには“大切なお守りで肌身離さず身に付けるよう言われてる、また自分以外の人間に触れられると効力が落ちるとも”と広めておかれるとよろしいかと。では、これで」
「あぁそうだ女房たちは俺をお前の所に通したなんて記憶はないからな、うっかり口にするなよ」
そう言い置いて、二人の姿はかき消えた。
「それ、一番先に言っとくことなんじゃ……?」
織羽は耳飾りを手に、一人ごちた。






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