〈完結・12/5補完あとがき追加〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫

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アンサー編 彼女が死んだ後 5(原作 アベル)

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本日二話目の投稿です、ご注意下さい。
また、感想欄は最終話投稿時まで閉じさせていただいておりますm(_ _)m



*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*


__こんなはずではなかった。

国王は玉座でひとり、頭を抱えていた。
王家は今、国中から非難を浴びていた。

どんな理由があるにせよ、何の咎もないマリーローズ嬢への仕打ちが酷すぎると。
そこまでして王女の側に侍らせたいのなら、ただ降嫁させればよかったのに何故令嬢を巻き込んだのかと。

「アベルが、望んでいたのではないのか……?」
マリーローズ嬢を。
虐待?
放置?
あのアベルに限ってそんなことはあり得ない。

当時国王が軽く調べさせたところ、マリーローズ嬢もアベルに好意的な視線を向けていると報告を受けていたし、王女も二人の仲を心から応援していた。
だから婚姻させたのだ。

アベルも「夫婦仲はうまくいっている、彼女は理解してくれている」
と言っていたし___なのに、なぜこうなった?

騎士も兵士も辞めていき、王城の警備はどんどん手薄になり、騎士という職業が忌避されるようになるまでそう時間はかからなかった。






*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*



「王女が無事嫁いだ暁には、其方の家を一代貴族でなく、永代にしてやろう」

その言葉は、麻薬のようにアベルの中に染み込んだ。

一代限りの騎士伯から永代になれる。彼女と自分の子が騎士伯を受け継いでいける__そう思っていた。

この任が終われば彼女との幸せな生活が待っていると信じて、王女の側で守り続けた。
王女には水面下で他国への輿入れが進められていると聞いていたし、発作は徐々にその回数を減らしていた。
「もうすぐだ、もうすぐ……」
陛下との約定で、王女殿下の発作のことは話せない。
だが、無事殿下が嫁ぎ、約束が履行された暁には話して良いと言われていた。
その頃には子供も出来ているだろう、その時に話せば彼女の綻ぶような笑顔も見られるかもしれない。

そんな都合の良い夢想は、一瞬で打ち砕かれた。
自邸が襲撃されたのと同じくして王女宮も襲撃にあった。
漸く落ち着いて輿入れ先との話がまとまりそうな今、フラッシュバックで発作が起きるのだけは避けたいと、連日王女宮に泊まり込んで警備にあたった。

自邸の方は以前たまたま検挙した破落戸の一味の報復だったらしい。
怪我人が複数出て、妻も怪我をしたと聞いたが命に別状はないと聞いて安堵し、報告を聞くと再び警備に戻った。

家令や侍女頭から「一旦邸にお戻りを」「何故戻って来られないのか」と連日クレームが入ったが、今は王女殿下の発作を再発させないのが最優先だ。
それが俺の、いや俺たち家族の未来を守ることなのだと信じて疑わなかった。

やがて手紙だけでは埒が明かないとやって来たモンドに、
「今王女宮から離れるわけにはいかない。もうすぐケリがつくから、それまで待っているよう伝えてくれ」
と言って返したが、
「もう結構、その時は手遅れです」
と言い捨てて帰ったモンドの様子に不吉なものを覚え、数刻だけ場を離れると言い置いて帰ってみると、非難がましい使用人たちの目に迎えられた。

(なんだ、死人でも出たのか……?だが命に関わるような重症者はいないと_…)
「モンドは?先ほど帰って来たろう、それにマリーローズはどうしている?」
いつもなら出迎えてくれるのに__いや、怪我をしていたのだったか。
そう訊ねる私を気味の悪いものでもみるかのように見ていた使用人のうちのひとりが、
「……お部屋にいらっしゃいます」
とだけ小さく答えた。
そこへ、
「旦那様、遅いお帰りですな」
と冷たいモンドの声がかかり、マリーローズの現状を知らされた。
「奥様はご自分で伝えられると私どもに口止めされていましたが、もう無理でしょうから」
「馬鹿な……!」

懐妊していた?
襲撃のせいで流産した?
その後薬を飲まずに捨てていた?

「何故だ?!」
「何故とはおかしなことを申します、全てに絶望したからでございましょう」
「嘘だ!」
そう言って部屋に飛び込むと、やつれた姿でベッドに横たわる彼女と目が合った。
彼女は一瞬だけ微笑み、息を引き取った。

アナタト、ケッコンナンカ、シナケレバヨカッタ。

それが彼女の最後の言葉。
浮かべていたのは初めてみる笑み___冷笑だった。
心からの軽蔑を込めた、冷たい笑み。
彼女のあんな顔はみたことがなかった。

それからのことはあまりよく覚えていない。
「違うんだ!聞いてくれ!マリーローズ!王女殿下とはっ、」
そんな関係じゃない。
君のためだったんだ。
君との間に生まれてくる子に爵位を残したかったんだ。

「おやめください、旦那様っ!」
「せめて静かに眠らせて差し上げてください!仮にも奥方である女性にどうしてこんな仕打ちができるのですかっ!」
「お嬢さまの耳元でその単語を吐くのをやめてくださいっ!あなたと王女殿下の事情なんて誰も聞きたくないわ、穢らわしい……!」

皆に止められて、何も伝えられなかった。
セントレイ伯爵家の人々が来て、彼女との婚姻は無効にされた。
彼女は伯爵家の墓に入り、自分は立ち入りを許されない。
流れた子も、彼女の亡骸を目にすることすら叶わない。
懐妊していたと知っていたら、何が何でも戻っていた。
抱いていたのは愛の行為のつもりだった、決して欲望の捌け口にしたわけではない。
だって彼女は受け入れてくれていた__そうだろう?
俺たちはちゃんと夫婦、だったはずだ……本当に?





頭の中で声が聞こえる。

「彼女は必死に耐えていただけ。結婚式から笑った顔を見たことなどあったか?」
「哀しげに微笑むことはあっても幸せそうに微笑んでいたことが一度でもあったか?そうするための努力をお前はしたか?」
「約束を守ったこともない、正妻に相応しい扱いなどしたことがないお前が」
「彼女が社交界で酷い中傷を浴びても、何もしなかった貴様が」
「お前は何も伝えなかった。言葉にしなければ何も伝わらないのに。したのは言い訳だけ」
「アレが愛の行為などであるものか、彼女にとってはただの陵辱だ」
「お前のせいで、彼女は死んだ」
「腹の子も流れた」

「お前が、殺した」

おれが、殺した……

アベルはへたり込んで慟哭した。
文字通り、獣のように。




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