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アンサー編 彼女が死んだ後 2(原作 アベル/セントレイ伯爵家/王家)
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「こんな、はずでは……」
葬儀会場から叩き出されたあと、アベルはフラフラとあてもなく歩き続けた。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
あれは、エルローゼ王女を助け出すより少し前。
貴婦人や令嬢が騎士の訓練を見学に来るのは珍しいことではない。
大勢で行うのだから、騎士の娘や妻、友人らが差し入れを持って来ることもある。
アベルは騎士仲間なら大勢いたが、貴族の令嬢令息が通う学校を卒業することなく騎士に志願したので、侯爵家の三男でありながら、社交というものにとことん疎く、両親を通じての知り合いはいても、親しくしている貴族の友人などいなかった。
だが、まだ三級騎士でしかないにも関わらず、容姿端麗であるアベルの人気は高かった。
継ぐ家督はなくとも実家は侯爵家で、将来有望な騎士。
“婿入り案件“としては最有力だった。
本人はその辺りに疎い朴念仁だったが、十七を過ぎたあたりからあからさまな秋波を受けることが増え、流石に気がついた。
そう考えてみると差し入れを持ってやってくる令嬢たちの目はギラついて見え、きつい香水の匂いも相まってアベルは彼女らが苦手になった。
そんな中、決して近付いて来ないが時折少し離れた木々の影からこちらを見つめる令嬢が目に入った。
目の前の令嬢らと違ってギラギラしたものが一切なく、森に溶け込むように立っていた少女は目が合うとふい、と踵を返して去ってしまった。
(こちらを見ていた訳ではないのか……しかし、森に住む妖精のようだったな)
それからも図書館の窓からこちらを見ていた(やはり目が合うとすぐに去ってしまったが)り、令嬢たちの集まりの帰りらしい集団の中でもすれ違った時、香水でなく甘い果物や咲く花のような香りを纏う彼女は印象に残った。
深い緑の瞳と濃いめの金髪の少女の姿をいつの間にか探して、すれ違うのを心待ちにするようになったのはいつだったか。
そんな日々を過ごすうち、たまたま国境に出されていた時、王女殿下の誘拐に居合わせた。
偶々、不自然な動きをする外国人が目について注視していたところ、大きな荷物の中に隠されて運ばれそうになっていた王女殿下を見つけたのだ。
助け出した時の王女殿下は狭い場所に閉じ込められていたせいだろう、泣きながら酷いパニックを起こしていて俺の制服にしがみついて離れず、王宮に送り届けた後も暫く側から離れることを許されなかった。
泣き疲れた王女が漸く眠りにつくと、上司への状況報告と調書を作成し、帰宅しようとしたところで国王陛下から呼び出された。
⭐︎*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*⭐︎
「その場で王女殿下専任の護衛騎士に任命されたそうだ」
「その日のうちに、ですか……?」
そう発したのはハンナだ。
今はひとりのメイドではなく、マリーローズの遺族のひとりとしてセントレイ伯爵家のソファに座っている。
セントレイ伯爵たちが「お前には知る権利があるから」と話し始めたのは、なぜアベル・ロードとマリーローズが結婚することになったかの経緯。
「ですが、当時のアベル卿は三級騎士に過ぎなかったのでしょう?」
「ああ、もちろん王女殿下の護衛騎士はひとりではないからそのうちのひとりに臨時として加わったに過ぎない。あの誘拐騒ぎは多くの人間に目撃されていたから隠しようがなかったし、その立役者であるアベルを取り立てることに特段抗議の声はあがらなかった。だからその後すぐに昇級が言い渡され、晴れて筆頭護衛騎士となった。だが、それは表向き、というか理由のひとつではあったが真の目的はアベル卿を王女のそばにおいておくことだった」
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
この先も語り手の視点がころころ変わります!ご注意ください。
「待ってた」感想ありがとうございます!
シリアス苦手な方は本編で口直しお願いします!
葬儀会場から叩き出されたあと、アベルはフラフラとあてもなく歩き続けた。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
あれは、エルローゼ王女を助け出すより少し前。
貴婦人や令嬢が騎士の訓練を見学に来るのは珍しいことではない。
大勢で行うのだから、騎士の娘や妻、友人らが差し入れを持って来ることもある。
アベルは騎士仲間なら大勢いたが、貴族の令嬢令息が通う学校を卒業することなく騎士に志願したので、侯爵家の三男でありながら、社交というものにとことん疎く、両親を通じての知り合いはいても、親しくしている貴族の友人などいなかった。
だが、まだ三級騎士でしかないにも関わらず、容姿端麗であるアベルの人気は高かった。
継ぐ家督はなくとも実家は侯爵家で、将来有望な騎士。
“婿入り案件“としては最有力だった。
本人はその辺りに疎い朴念仁だったが、十七を過ぎたあたりからあからさまな秋波を受けることが増え、流石に気がついた。
そう考えてみると差し入れを持ってやってくる令嬢たちの目はギラついて見え、きつい香水の匂いも相まってアベルは彼女らが苦手になった。
そんな中、決して近付いて来ないが時折少し離れた木々の影からこちらを見つめる令嬢が目に入った。
目の前の令嬢らと違ってギラギラしたものが一切なく、森に溶け込むように立っていた少女は目が合うとふい、と踵を返して去ってしまった。
(こちらを見ていた訳ではないのか……しかし、森に住む妖精のようだったな)
それからも図書館の窓からこちらを見ていた(やはり目が合うとすぐに去ってしまったが)り、令嬢たちの集まりの帰りらしい集団の中でもすれ違った時、香水でなく甘い果物や咲く花のような香りを纏う彼女は印象に残った。
深い緑の瞳と濃いめの金髪の少女の姿をいつの間にか探して、すれ違うのを心待ちにするようになったのはいつだったか。
そんな日々を過ごすうち、たまたま国境に出されていた時、王女殿下の誘拐に居合わせた。
偶々、不自然な動きをする外国人が目について注視していたところ、大きな荷物の中に隠されて運ばれそうになっていた王女殿下を見つけたのだ。
助け出した時の王女殿下は狭い場所に閉じ込められていたせいだろう、泣きながら酷いパニックを起こしていて俺の制服にしがみついて離れず、王宮に送り届けた後も暫く側から離れることを許されなかった。
泣き疲れた王女が漸く眠りにつくと、上司への状況報告と調書を作成し、帰宅しようとしたところで国王陛下から呼び出された。
⭐︎*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*⭐︎
「その場で王女殿下専任の護衛騎士に任命されたそうだ」
「その日のうちに、ですか……?」
そう発したのはハンナだ。
今はひとりのメイドではなく、マリーローズの遺族のひとりとしてセントレイ伯爵家のソファに座っている。
セントレイ伯爵たちが「お前には知る権利があるから」と話し始めたのは、なぜアベル・ロードとマリーローズが結婚することになったかの経緯。
「ですが、当時のアベル卿は三級騎士に過ぎなかったのでしょう?」
「ああ、もちろん王女殿下の護衛騎士はひとりではないからそのうちのひとりに臨時として加わったに過ぎない。あの誘拐騒ぎは多くの人間に目撃されていたから隠しようがなかったし、その立役者であるアベルを取り立てることに特段抗議の声はあがらなかった。だからその後すぐに昇級が言い渡され、晴れて筆頭護衛騎士となった。だが、それは表向き、というか理由のひとつではあったが真の目的はアベル卿を王女のそばにおいておくことだった」
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
この先も語り手の視点がころころ変わります!ご注意ください。
「待ってた」感想ありがとうございます!
シリアス苦手な方は本編で口直しお願いします!
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