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アンサー編 プロローグ
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「殿下の薔薇の君がみつかって、本当によかったです」
「しみじみ人の顔を見て言うな」
「護衛騎士に扮してまで行った甲斐がありましたねー」
「カミユ、お前な……」
「護衛騎士ぶりも意外と板についてましたね、普段は護られる側なのに」
「何が言いたい?」
「いえ、よっぽどはじめから妃殿下のことが気になってたんだな~と」
「……うるさい」
「第三王子宮の使用人の間でも話題になってますよ、『あの王子殿下にそんな感情が』、あ いえ『ここの主である殿下にそんなお相手がみつかって良かった』と」
「全然誤魔化せてないぞ…_それより、あの濁った青はどうしている?」
「国を出た後、一見ふらふらあてもなく彷徨っているように見えますが、どうやら“果ての国“に向かっているようですね」
「また厄介なところへ……辿り着く前に止めろ。我が妃の目を汚すことのないようにな」
「御意に」
カミユは深く臣下の礼をとった。
__その頃、当の妃はというと。
「妃殿下、いえマリーローズ様!次はこちらを!今、西の国で流行っているそうですがこの国で流行るのもすぐですわ!一番先にマリーローズ様にお召しになっていただきたいと出入りの行商が売り込んできましたのよ!妃殿下の髪色にぴったりですわ!」
「それならばドレスはこちらを!ティリス様の色をあしらった_…」
「ちょっと!アンタは昨日もプレゼンしてたじゃない、今日は遠慮しなさいよ!」
別のドレスを手にしたメイドが目の前の侍女を押し退ける。
「いえ、どこかに出掛けるわけではないのだからそんなに毎日着替えなくても_…」
遠慮したいマリーローズに対しメイド達は、
「「「「それはいけませんわ!!」」」」
とここだけは一致団結して来る。
助けを求めてハンナに目をやるも、「諦めてください」と頭を横に振られた。
おまけに、
「王子殿下の妃という立場上、毎日着替えてファッションリーダーになるのもお役目のひとつですし何より、」
ちら、と部屋の一角に目をやる。
「あれは毎日着替えても足りません。一度も袖を通さず譲るのも不敬にあたりますし」
そこにはドレッサーに入りきらない衣装の箱が山積みになっており、現在進行形で増えていっている。
(“増えるミラー“じゃあるまいし)
と息を吐くが、筆頭侍女に就任してしまったハンナもお手上げ状態のこの現状はどうしようもない。
最初にこの山を見たマリーローズはあまりの量に、「手配ミス?」と確認した後、間違いないと知ると抗議したが、
「身ひとつで国から連れてきた妃にこれくらい贈るのは普通だ。だが済まなかったな」
「え?いえ、謝られることでは「部屋が狭すぎたな。ドレッサーもあれでは小さすぎる。まずドレスルームか……そこに中扉をつけて行き来できるように__部屋はこの倍くらいで良いか?」_は?」
マリーローズが与えられた部屋は陽当たりも良く、綺麗に整備された庭もバルコニーから眺められるうえ、前世でいう最高級のスイートルームよりさらに広い。
この部屋で既に落ち着かないのに、何を言い出すのか。
「これ以上広さは必要ありませんわ……ドレスルームは必要だとは思いますが」
そもそも贈る量を加減してくれれば良いのに、
「この年まで婚約者がいなかった分予算が余ってるんだ、他に使い道もないしな」
とルイは聞く耳を持たない。
「他に還元したら良いじゃないですか……」
「__ほう、例えば?」
「自然災害や人的災害で被害を被った地域の復興支援に充てるとか、後はありきたりになりますが、孤児院への寄付に充てるとか」
「ふむ。我が妃は実に謙虚だな」
いや、謙虚とかじゃなく。
「だがわかってるか?災害に遭って困るのは平民だけじゃないぞ?」
「っ、それは!領地を預かる貴族だって被害者なのは確かですが、「こういうドレスや宝飾品を作るデザイナー達もだ。不幸があればパーティーもなくなる。ドレスが売れなくなれば作り手の生活も困窮する。だから王族が進んで買って経済を回すのも着飾ってみせるのも義務のひとつだ」__!」
__言われてみれば。
前世知識と育った国の王族があんなんだったので偏った考えに陥っていたようだ。
「そう、ですわね……失礼いたしました」
と頭を下げるマリーローズに、
「いや、責めたわけではないから謝るな。要はもっと我が儘に振る舞えと言いたかっただけだ」
「我が儘……ですか」
「自分の妃の我が儘を叶えるのが夫の甲斐性だからな。妃の予算を他へまわすことは我が国では禁じられているし、そもそもそういった地域への支援は足りているし。__そしてそもそも、この国に孤児はあまりいない」
「え?!」
__そんな事があるのだろうか。
「いや、いないわけではないぞ?」
ルイの説明によれば、なんでも魔法使いだろうが化学に取り憑かれた変人だろうが獣人だろうが懐深く受け入れるこの国で就職の間口は広く、働き手は常に必要であること。
幼い頃から教育する方が当然理想的な働き手が確実に手に入る上、国からの補助金も出るということで身分を問わず養子を受け入れることに積極的で、よって孤児院にいるのは大抵が養子縁組待ちの期間だけなので、満員になることはないという。
「凄い、ですね……」
前世の日本では、口先だけ述べることはしても実現した政治家はいなかった__覚えてる限りでは。
「そう素直に感嘆してくれるのは嬉しいが、そういうわけだから。じゃ、後は頼んだ」
「「「「かしこまりました、ティリス殿下っ!!」」」」
元気よく返事したのは今目の前にいるメイド達。
要は、この現状は王子からのお墨付き。
遠い目をするマリーローズに、『頑張ってください、お嬢様!』と心の中でエールを送るハンナだったが、残念ながらマリーローズには届いていなかった。
__妃は妃で、(平和ではあるが)大変な目に遭っていた。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
主人公目線完結へのコメント沢山ありがとうございましたm(_ _)m!
お言葉に甘えてガチでお休みいただいてました。すみません!
平和なのはプロローグだけ、多分?
「しみじみ人の顔を見て言うな」
「護衛騎士に扮してまで行った甲斐がありましたねー」
「カミユ、お前な……」
「護衛騎士ぶりも意外と板についてましたね、普段は護られる側なのに」
「何が言いたい?」
「いえ、よっぽどはじめから妃殿下のことが気になってたんだな~と」
「……うるさい」
「第三王子宮の使用人の間でも話題になってますよ、『あの王子殿下にそんな感情が』、あ いえ『ここの主である殿下にそんなお相手がみつかって良かった』と」
「全然誤魔化せてないぞ…_それより、あの濁った青はどうしている?」
「国を出た後、一見ふらふらあてもなく彷徨っているように見えますが、どうやら“果ての国“に向かっているようですね」
「また厄介なところへ……辿り着く前に止めろ。我が妃の目を汚すことのないようにな」
「御意に」
カミユは深く臣下の礼をとった。
__その頃、当の妃はというと。
「妃殿下、いえマリーローズ様!次はこちらを!今、西の国で流行っているそうですがこの国で流行るのもすぐですわ!一番先にマリーローズ様にお召しになっていただきたいと出入りの行商が売り込んできましたのよ!妃殿下の髪色にぴったりですわ!」
「それならばドレスはこちらを!ティリス様の色をあしらった_…」
「ちょっと!アンタは昨日もプレゼンしてたじゃない、今日は遠慮しなさいよ!」
別のドレスを手にしたメイドが目の前の侍女を押し退ける。
「いえ、どこかに出掛けるわけではないのだからそんなに毎日着替えなくても_…」
遠慮したいマリーローズに対しメイド達は、
「「「「それはいけませんわ!!」」」」
とここだけは一致団結して来る。
助けを求めてハンナに目をやるも、「諦めてください」と頭を横に振られた。
おまけに、
「王子殿下の妃という立場上、毎日着替えてファッションリーダーになるのもお役目のひとつですし何より、」
ちら、と部屋の一角に目をやる。
「あれは毎日着替えても足りません。一度も袖を通さず譲るのも不敬にあたりますし」
そこにはドレッサーに入りきらない衣装の箱が山積みになっており、現在進行形で増えていっている。
(“増えるミラー“じゃあるまいし)
と息を吐くが、筆頭侍女に就任してしまったハンナもお手上げ状態のこの現状はどうしようもない。
最初にこの山を見たマリーローズはあまりの量に、「手配ミス?」と確認した後、間違いないと知ると抗議したが、
「身ひとつで国から連れてきた妃にこれくらい贈るのは普通だ。だが済まなかったな」
「え?いえ、謝られることでは「部屋が狭すぎたな。ドレッサーもあれでは小さすぎる。まずドレスルームか……そこに中扉をつけて行き来できるように__部屋はこの倍くらいで良いか?」_は?」
マリーローズが与えられた部屋は陽当たりも良く、綺麗に整備された庭もバルコニーから眺められるうえ、前世でいう最高級のスイートルームよりさらに広い。
この部屋で既に落ち着かないのに、何を言い出すのか。
「これ以上広さは必要ありませんわ……ドレスルームは必要だとは思いますが」
そもそも贈る量を加減してくれれば良いのに、
「この年まで婚約者がいなかった分予算が余ってるんだ、他に使い道もないしな」
とルイは聞く耳を持たない。
「他に還元したら良いじゃないですか……」
「__ほう、例えば?」
「自然災害や人的災害で被害を被った地域の復興支援に充てるとか、後はありきたりになりますが、孤児院への寄付に充てるとか」
「ふむ。我が妃は実に謙虚だな」
いや、謙虚とかじゃなく。
「だがわかってるか?災害に遭って困るのは平民だけじゃないぞ?」
「っ、それは!領地を預かる貴族だって被害者なのは確かですが、「こういうドレスや宝飾品を作るデザイナー達もだ。不幸があればパーティーもなくなる。ドレスが売れなくなれば作り手の生活も困窮する。だから王族が進んで買って経済を回すのも着飾ってみせるのも義務のひとつだ」__!」
__言われてみれば。
前世知識と育った国の王族があんなんだったので偏った考えに陥っていたようだ。
「そう、ですわね……失礼いたしました」
と頭を下げるマリーローズに、
「いや、責めたわけではないから謝るな。要はもっと我が儘に振る舞えと言いたかっただけだ」
「我が儘……ですか」
「自分の妃の我が儘を叶えるのが夫の甲斐性だからな。妃の予算を他へまわすことは我が国では禁じられているし、そもそもそういった地域への支援は足りているし。__そしてそもそも、この国に孤児はあまりいない」
「え?!」
__そんな事があるのだろうか。
「いや、いないわけではないぞ?」
ルイの説明によれば、なんでも魔法使いだろうが化学に取り憑かれた変人だろうが獣人だろうが懐深く受け入れるこの国で就職の間口は広く、働き手は常に必要であること。
幼い頃から教育する方が当然理想的な働き手が確実に手に入る上、国からの補助金も出るということで身分を問わず養子を受け入れることに積極的で、よって孤児院にいるのは大抵が養子縁組待ちの期間だけなので、満員になることはないという。
「凄い、ですね……」
前世の日本では、口先だけ述べることはしても実現した政治家はいなかった__覚えてる限りでは。
「そう素直に感嘆してくれるのは嬉しいが、そういうわけだから。じゃ、後は頼んだ」
「「「「かしこまりました、ティリス殿下っ!!」」」」
元気よく返事したのは今目の前にいるメイド達。
要は、この現状は王子からのお墨付き。
遠い目をするマリーローズに、『頑張ってください、お嬢様!』と心の中でエールを送るハンナだったが、残念ながらマリーローズには届いていなかった。
__妃は妃で、(平和ではあるが)大変な目に遭っていた。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
主人公目線完結へのコメント沢山ありがとうございましたm(_ _)m!
お言葉に甘えてガチでお休みいただいてました。すみません!
平和なのはプロローグだけ、多分?
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