上 下
38 / 49

アンサー編 プロローグ

しおりを挟む
「殿下の薔薇の君がみつかって、本当によかったです」
「しみじみ人の顔を見て言うな」
「護衛騎士に扮してまで行った甲斐がありましたねー」
「カミユ、お前な……」
「護衛騎士ぶりも意外と板についてましたね、普段は護られる側なのに」
「何が言いたい?」
「いえ、よっぽどはじめから妃殿下のことが気になってたんだな~と」
「……うるさい」
第三王子宮ここの使用人の間でも話題になってますよ、『あの王子殿下にそんな感情が』、あ いえ『ここの主である殿下にそんなお相手がみつかって良かった』と」
「全然誤魔化せてないぞ…_それより、あの濁った青はどうしている?」
「国を出た後、一見ふらふらあてもなく彷徨っているように見えますが、どうやら“果ての国“に向かっているようですね」
「また厄介なところへ……辿り着く前に。我が妃の目を汚すことのないようにな」
「御意に」
カミユは深く臣下の礼をとった。



__その頃、当の妃はというと。

「妃殿下、いえマリーローズ様!次はこちらを!今、西の国で流行っているそうですがこの国で流行るのもすぐですわ!一番先にマリーローズ様にお召しになっていただきたいと出入りの行商が売り込んできましたのよ!妃殿下の髪色にぴったりですわ!」
「それならばドレスはこちらを!ティリス様の色をあしらった_…」
「ちょっと!アンタは昨日もプレゼンしてたじゃない、今日は遠慮しなさいよ!」
別のドレスを手にしたメイドが目の前の侍女を押し退ける。

「いえ、どこかに出掛けるわけではないのだからそんなに毎日着替えなくても_…」
遠慮したいマリーローズに対しメイド達は、
「「「「それはいけませんわ!!」」」」
とここだけは一致団結して来る。
助けを求めてハンナに目をやるも、「諦めてください」と頭を横に振られた。
おまけに、
「王子殿下の妃という立場上、毎日着替えてファッションリーダーになるのもお役目のひとつですし何より、」
ちら、と部屋の一角に目をやる。
は毎日着替えても足りません。一度も袖を通さず譲るのも不敬にあたりますし」
そこにはドレッサーに入りきらない衣装の箱が山積みになっており、現在進行形で増えていっている。
(“増えるミラー“じゃあるまいし)
と息を吐くが、筆頭侍女に就任してしまったハンナもお手上げ状態のこの現状はどうしようもない。



最初にこの山を見たマリーローズはあまりの量に、「手配ミス?」と確認した後、間違いないと知ると抗議したが、
「身ひとつで国から連れてきた妃にこれくらい贈るのは普通だ。だが済まなかったな」
「え?いえ、謝られることでは「部屋が狭すぎたな。ドレッサーもあれでは小さすぎる。まずドレスルームか……そこに中扉をつけて行き来できるように__部屋はこの倍くらいで良いか?」_は?」

マリーローズが与えられた部屋は陽当たりも良く、綺麗に整備された庭もバルコニーから眺められるうえ、前世でいう最高級のスイートルームよりさらに広い。

この部屋で既に落ち着かないのに、何を言い出すのか。

「これ以上広さは必要ありませんわ……ドレスルームは必要だとは思いますが」
そもそも贈る量を加減してくれれば良いのに、
「この年まで婚約者がいなかった分予算が余ってるんだ、他に使い道もないしな」
とルイは聞く耳を持たない。
「他に還元したら良いじゃないですか……」
「__ほう、例えば?」
「自然災害や人的災害で被害を被った地域の復興支援に充てるとか、後はありきたりになりますが、孤児院への寄付に充てるとか」
「ふむ。我が妃は実に謙虚だな」

いや、謙虚とかじゃなく。

「だがわかってるか?災害に遭って困るのは平民だけじゃないぞ?」
「っ、それは!領地を預かる貴族だって被害者なのは確かですが、「こういうドレスや宝飾品を作るデザイナー達もだ。不幸があればパーティーもなくなる。ドレスが売れなくなれば作り手の生活も困窮する。だから王族が進んで買って経済を回すのも着飾ってみせるのも義務のひとつだ」__!」

__言われてみれば。

前世知識と育った国の王族があんなんだったので偏った考えに陥っていたようだ。

「そう、ですわね……失礼いたしました」
と頭を下げるマリーローズに、
「いや、責めたわけではないから謝るな。要はもっと我が儘に振る舞えと言いたかっただけだ」
「我が儘……ですか」
「自分の妃の我が儘を叶えるのが夫の甲斐性だからな。妃の予算を他へまわすことは我が国では禁じられているし、そもそもそういった地域への支援は足りているし。__そしてそもそも、この国に孤児はあまりいない」
「え?!」
__そんな事があるのだろうか。

「いや、いないわけではないぞ?」
ルイの説明によれば、なんでも魔法使いだろうが化学に取り憑かれた変人だろうが獣人だろうが懐深く受け入れるこの国で就職の間口は広く、働き手は常に必要であること。
幼い頃から教育する方が当然理想的な働き手が確実に手に入る上、国からの補助金も出るということで身分を問わず養子を受け入れることに積極的で、よって孤児院にいるのは大抵が養子縁組待ちの期間だけなので、満員になることはないという。

「凄い、ですね……」
前世の日本では、口先だけ述べることはしても実現した政治家はいなかった__覚えてる限りでは。
「そう素直に感嘆してくれるのは嬉しいが、そういうわけだから。じゃ、後は頼んだ」
「「「「かしこまりました、ティリス殿下っ!!」」」」
元気よく返事したのは今目の前にいるメイド達。

要は、この現状は王子からのお墨付き。

遠い目をするマリーローズに、『頑張ってください、お嬢様!』と心の中でエールを送るハンナだったが、残念ながらマリーローズには届いていなかった。



__妃は妃で、(平和ではあるが)大変な目に遭っていた。




*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*





主人公目線完結へのコメント沢山ありがとうございましたm(_ _)m!
お言葉に甘えてガチでお休みいただいてました。すみません!

平和なのはプロローグだけ、多分?




















しおりを挟む
感想 783

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

処理中です...