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36 エピローグ(本編完結)
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こうしてペンタスの城に婚約者として迎えいれられた私は、手厚い歓迎ともてなしとルイによるトンデモな量のプレゼント攻撃と甘やかしに加え、隙あらば愛の言葉を耳元で囁く王子とそれにやたら協力的なペンタス城の人々の手によって、そのままルイの妃となった。
その前にこの城にお兄さまを呼びつけてもらってお仕置きはしたけど(因みにこの時はルイも共犯)。
この時のお兄さまには、意外な人が同行していた。
騎士団長夫人、ナディア様だ。
「夫も後からこちらに参ります。今回のことで国を見限って移住しようと思っていた矢先、こちらの小伯爵さまから私はマリーローズ様の護衛として、夫は第三王子殿下の下で働くのならば護衛として同行を許可すると言っていただきまして」
と笑うナディア様に悲壮感はない。
国を見限る…_はまあわかるが、
「よろしいのですか?その、」
騎士団長とは、その名の通り騎士団の頂点だ。
その座をあっさり捨ててしまえるものだろうか。
「部下のひとりも矯正できない自分は団長失格だと申しておりましたわ。ご心配なさらず」
正確には夫人の鞭に打たれてから言った言葉だが、マリーローズはあずかり知らぬところだ。
「えぇと、それに夫人が護衛って、」
「あぁ、俺もつい先日知ったんだが、夫人は鞭の名手というか_…護身術として嗜んでおられてかなりの腕前なんだそうだ。お前も扇術を身につけてる最中だが、鞭の方が距離のある敵にもある程度対応できるし丁度いいかと思ってな」
「鞭__って、どんなのですの?」
ついつい、乗馬用の鞭でなくSとかMとかがつく女王様を想像してしまったマリーローズだった。
「あゝ、表向きは乗馬用のものですの」
と夫人が見せてくれたのは乗馬の際、馬に振るうのと同じものだった。
「うふふ。内緒ですけれど私、大抵の長さの鞭は扱えますのよ?武器にしているのはこの三倍の長さですの」
と悪戯っぽくウインクしてくれたが、
(これの三倍って、サーカスの猛獣用みたいな?え やっぱり女王様?)
と混乱するマリーローズに夫人は顔を寄せて扇子で口元を隠すと、
「本物は、ドレスの中__ガーターベルトに括りつけてありますの。ドレスは淑女の戦闘服でしょう?」
と言ってきた言葉に一瞬息を呑んだ後、深く納得した。
(騎士団長は、夫人に調教、、じゃない矯正され済みなのね……)
「はい、その通りですね、ナディア様。よろしくお願いします」
モンドとマリアをはじめとしたロード邸の使用人たちの大半はカイゼル侯爵家が引き取り、一部は侯爵家で再雇用されたり、或いは紹介状を用意され、散り散りになったそうだ。
アベル・ロードはあの後、爵位及び騎士位を返還のうえ辞表を提出して以降、行方がわからないそうだ。
あの一件以降、貴族たちから総スカンを食らった王家は、国王がかろうじてその座にしがみついてはいるが民の流出は止まらず、ネイトも職を辞してこちらに来てしまったので統率の取れない騎士たちを上手く扱えるはずもなく、また旗頭であったアベルもいない今、国王は引き摺りおろされ、緩やかに共和制に移行していくだろうということだ。
お父さま達セントレイ伯爵家は、領地を放ってくるわけにいかないのでまだ踏みとどまっているが、ペンタスの兵が流出した領民の代わりにあちらに行っているので見た目に数は変わらず、全て片付いてこちらに移住してくるまで心配いらないだろうということだ。
そして、元凶のひとつである王女は、死亡が発表された。
死因など詳細は発表されず、ただ、“王女死亡“とだけ。
本当はどこかで生きているのかも知れないが、もうどうでも良かった。
どちらにしろ、あそこまで幼い頭のままでは生き残れない。
(あれが計算のうえだったなら、いっそ天晴れなんだけど……)
「我が愛しの妃は、何の憂いだ?」
「何でもありませんわ、ルイ」
「そのそっけない物言いも好きだけど、たまには“愛しの“とか付けてみない?」
「……いつか、気が向いたら」
「即答で“しません“じゃなくなっただけいいか。それに、ベッドの中では饒舌だもんね?君。言葉じゃなくって、主に表情が」
と後半声を細めて言ったルイに猛烈に羞恥と殺意が込み上げてくる。
「ハンナ!」
「はいお嬢様」
“スパーン!“と小気味良い音が響き、その音を聞いた使用人たちは“ああ またか“と近くにいる仲間と笑い合う。
この第三王子宮でこの音が響くのはもう恒例行事だ(時々鞭の音も響くが)。
当の室内でルイは赤くなった手をさすることもなく苦笑して、
「体調が悪くなさそうで安心したよ」
と言うだけでマリーローズを見る瞳は蕩けるように甘い。
そういえばアベルはどういう目で自分を見ていたか、マリーローズはもう思い出せない。
それで良いと思う。
ルイもきっと同じように答えるだろう。
「そうだね。君の夫は、私だけだから」
__Fin
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
読了ありがとうございます。
沢山の感想もありがとうございますm(_ _)m
はい、ここまで読んだものの「全然アレコレ回収されてないじゃん」と思ったそこのあなた、その通りです!
この後、原作や他者視点にて回収していく予定です。
ただ、これ、ひと通り書いてみないとどんな順番で公開すれば良いかわからないところがありまして。
ある程度書き上がってからアンサー編公開を始めることになりますので、また少し投稿のお休みをいただきますが、引き続きよろしくお願いします!
その前にこの城にお兄さまを呼びつけてもらってお仕置きはしたけど(因みにこの時はルイも共犯)。
この時のお兄さまには、意外な人が同行していた。
騎士団長夫人、ナディア様だ。
「夫も後からこちらに参ります。今回のことで国を見限って移住しようと思っていた矢先、こちらの小伯爵さまから私はマリーローズ様の護衛として、夫は第三王子殿下の下で働くのならば護衛として同行を許可すると言っていただきまして」
と笑うナディア様に悲壮感はない。
国を見限る…_はまあわかるが、
「よろしいのですか?その、」
騎士団長とは、その名の通り騎士団の頂点だ。
その座をあっさり捨ててしまえるものだろうか。
「部下のひとりも矯正できない自分は団長失格だと申しておりましたわ。ご心配なさらず」
正確には夫人の鞭に打たれてから言った言葉だが、マリーローズはあずかり知らぬところだ。
「えぇと、それに夫人が護衛って、」
「あぁ、俺もつい先日知ったんだが、夫人は鞭の名手というか_…護身術として嗜んでおられてかなりの腕前なんだそうだ。お前も扇術を身につけてる最中だが、鞭の方が距離のある敵にもある程度対応できるし丁度いいかと思ってな」
「鞭__って、どんなのですの?」
ついつい、乗馬用の鞭でなくSとかMとかがつく女王様を想像してしまったマリーローズだった。
「あゝ、表向きは乗馬用のものですの」
と夫人が見せてくれたのは乗馬の際、馬に振るうのと同じものだった。
「うふふ。内緒ですけれど私、大抵の長さの鞭は扱えますのよ?武器にしているのはこの三倍の長さですの」
と悪戯っぽくウインクしてくれたが、
(これの三倍って、サーカスの猛獣用みたいな?え やっぱり女王様?)
と混乱するマリーローズに夫人は顔を寄せて扇子で口元を隠すと、
「本物は、ドレスの中__ガーターベルトに括りつけてありますの。ドレスは淑女の戦闘服でしょう?」
と言ってきた言葉に一瞬息を呑んだ後、深く納得した。
(騎士団長は、夫人に調教、、じゃない矯正され済みなのね……)
「はい、その通りですね、ナディア様。よろしくお願いします」
モンドとマリアをはじめとしたロード邸の使用人たちの大半はカイゼル侯爵家が引き取り、一部は侯爵家で再雇用されたり、或いは紹介状を用意され、散り散りになったそうだ。
アベル・ロードはあの後、爵位及び騎士位を返還のうえ辞表を提出して以降、行方がわからないそうだ。
あの一件以降、貴族たちから総スカンを食らった王家は、国王がかろうじてその座にしがみついてはいるが民の流出は止まらず、ネイトも職を辞してこちらに来てしまったので統率の取れない騎士たちを上手く扱えるはずもなく、また旗頭であったアベルもいない今、国王は引き摺りおろされ、緩やかに共和制に移行していくだろうということだ。
お父さま達セントレイ伯爵家は、領地を放ってくるわけにいかないのでまだ踏みとどまっているが、ペンタスの兵が流出した領民の代わりにあちらに行っているので見た目に数は変わらず、全て片付いてこちらに移住してくるまで心配いらないだろうということだ。
そして、元凶のひとつである王女は、死亡が発表された。
死因など詳細は発表されず、ただ、“王女死亡“とだけ。
本当はどこかで生きているのかも知れないが、もうどうでも良かった。
どちらにしろ、あそこまで幼い頭のままでは生き残れない。
(あれが計算のうえだったなら、いっそ天晴れなんだけど……)
「我が愛しの妃は、何の憂いだ?」
「何でもありませんわ、ルイ」
「そのそっけない物言いも好きだけど、たまには“愛しの“とか付けてみない?」
「……いつか、気が向いたら」
「即答で“しません“じゃなくなっただけいいか。それに、ベッドの中では饒舌だもんね?君。言葉じゃなくって、主に表情が」
と後半声を細めて言ったルイに猛烈に羞恥と殺意が込み上げてくる。
「ハンナ!」
「はいお嬢様」
“スパーン!“と小気味良い音が響き、その音を聞いた使用人たちは“ああ またか“と近くにいる仲間と笑い合う。
この第三王子宮でこの音が響くのはもう恒例行事だ(時々鞭の音も響くが)。
当の室内でルイは赤くなった手をさすることもなく苦笑して、
「体調が悪くなさそうで安心したよ」
と言うだけでマリーローズを見る瞳は蕩けるように甘い。
そういえばアベルはどういう目で自分を見ていたか、マリーローズはもう思い出せない。
それで良いと思う。
ルイもきっと同じように答えるだろう。
「そうだね。君の夫は、私だけだから」
__Fin
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
読了ありがとうございます。
沢山の感想もありがとうございますm(_ _)m
はい、ここまで読んだものの「全然アレコレ回収されてないじゃん」と思ったそこのあなた、その通りです!
この後、原作や他者視点にて回収していく予定です。
ただ、これ、ひと通り書いてみないとどんな順番で公開すれば良いかわからないところがありまして。
ある程度書き上がってからアンサー編公開を始めることになりますので、また少し投稿のお休みをいただきますが、引き続きよろしくお願いします!
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