33 / 49
32 最後の一閃
しおりを挟む
「う、嘘だ……」
と顔を青くさせる似非騎士に、
「馬鹿な、この短期間にこんなタイミングで婚約が整うなど……!」
と使者も不満を露わにする。
「何がおかしい?婚姻無効になった時点で妹は未婚の十七歳の令嬢だ、求婚者が現れても不思議ではない」
いや、初めて知りましたけど?
「我が国の王子が婚約を申し込んだことに何か不満でも?」
……不満以前に……うん、理由は後で訊こう。
「い、いえ、そんなつもりでは……!」
カザムの使者に先程までの勢いはない。
無理もない、“帝国“を名乗るだけあってペンタスは大国だ。
カザムは属国ではなく同盟国だが、戦争になったら勝ち目はない。
何しろ世界一魔法使いや技術者が多く住まう国であり、国も整備され、人口も多い。
兵力は民を守るのに使い、無駄に戦争を起こすのを好まない国だが、弱いわけではない。
教会の魔方陣然り、その他の生活技術ひとつとってもペンタスが各国に良心的に提供しているものは探してみると意外と多い。
戦いなどしなくともペンタスはそれらの供給を断てば相手の国にとっては大打撃なのでどこの国も喧嘩をふっかけるような真似はしない。
“ペンタスにそっぽを向かれたら、国が滅びる“
そんな格言じみた言葉まであるということは最近知った。
花嫁修行を兼ねて自分が受けていた淑女教育は、偏っていたと気付いたから。
「し、し、しかし、こちらの令嬢はつい一週間前までロード伯の奥方だったのです、」
「そんなことは承知のうえだ。魔方陣が使用されたことはこちらでも把握しているからな。この国の、というか世界中にある教会の魔方陣は全て我がペンタスから魔力供給を受けていることを忘れたのか?」
「ま、まさか……!」
「そうだ。こちらの令嬢が乙女であると証明されたことを我が国はいち早く察知し、急ぎ私が参ったのだ。私がさっき名乗った名を忘れたか?」
「……あ……」
遅まきながら使者は漸く気付いたようだ。
“カミユ・ロースタス・ペンタス“
この青年の名には“ペンタス“が入っていたということに。
使者はがっくりと膝をついた。
そこへ、
「早く飼い主の元へ報告した方がいいんじゃないか?『国王の馬鹿な勅命のせいでペンタスの怒りを買ったようです』とな?」
とお兄さまが言った言葉に真っ青になった使者はひと言も発することなく脱兎の如く走り去った。
そのことに気付いていないのか、花束を持った手をだらんと力なくぶら下げたアベルは、
「マリーローズ……」
とうわ言のように呟いた。
「お嬢さま」
とすかさずハンナが渡してくれたものを手に、私は進み出た。
「マリーローズ、前に出るな」
「大丈夫ですお兄さま、何かあったら守ってくださるでしょう?」
「はぁ……」
仕方ないな、という風情で体をずらしたロシエルだったが、そのままマリーローズの横にぴたりと張りついた。
それを受けてルイスはアベルの背後に立った。
自分の正面に立ったマリーローズに、アベルは憂いげな眼差しを向け、手を伸ばそうとし、合わせて“スパーン!!“と小気味良い音が響いた。
マリーローズのハリセンで渾身の一発が決まり、アベルは打たれた方の手を庇いながらへたり込み、手にしていた花束が落ちた。
落ちた花束へ目をやり、
「綺麗な薔薇ですね。これも王女殿下のお庭から頂いて来たんですか?」
「あ、ああ……」
「だからダメなんですよあなたは」
「……馬車も花も、王城で急ぎ手配してもらったものだから、」
「そういう所、本当に嫌です」
通じるかどうかわからない。でも言っときたいと思う。
きっとこれが最後だから。
「貴方は一度でも私のことを一番に考えたことがありますか?王女殿下を介さずに、権力に頼らずに自分の力だけで私を喜ばせようとしたことは?最優先に行動したことは?一度でも私を笑わせようと努力したことはありますか?」
思えば結婚式の日から、私はこの男の前で心から笑ったことはない(冷笑なら浮かべたが)。
「っ、」
「一度もないでしょう?あなたの頭の中身を割って証明ができない以上、行動で示すしか相手にわかってもらう方法なんてないのに貴方はやらなかった。王女殿下を介してしか私という人間を認識していなかった。だからダメなんです」
“……割って証明は、魔法使いでも無理だがな……“
「……違う、俺は……」
「貴方の行動原理なんて今更どうでもいい__私の人生に、貴方はいらないんです」
“わー凄ぇトドメ“
マリーローズの言葉を受けたアベルはふらふらと立ち上がり、マリーローズの姿を見ようとしたが既に護衛や兄にその姿を隠されて見ることは叶わず、アベルは踵を返し、その場を去った。
“自業自得とはいえ、容赦ないな……“
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
⭐︎補足⭐︎
コメいただきましたペンタスの呼び方ですが、皇国ではないし、帝国だけど皇帝を名乗っているわけでもないので、帝国の王だから帝国王、皇子でなくて王子、にしてました。
最初王国にしようと思ったけど両方王国だとややこしいかな~じゃあ帝国にするか、みたいなノリでしたし、ファンタジーの架空名称だとこう、くらいに思っていただければm(_ _)m
怒涛の感想祭りありがとうございます❣️
やっぱり終わらなかった( ̄▽ ̄;)!!
回収する伏線が意外と多いな~終わるかな~🤔?
明日エピローグ(閑話含まず)まで行きたかったけど無理そう…。
ざまぁというか自業自得は閑話/各者視点になります。
今の職場は土日の方が忙しいので、週末が一番疲労蓄積して突貫工事の更新になりがちですが、随時直していきます。
と顔を青くさせる似非騎士に、
「馬鹿な、この短期間にこんなタイミングで婚約が整うなど……!」
と使者も不満を露わにする。
「何がおかしい?婚姻無効になった時点で妹は未婚の十七歳の令嬢だ、求婚者が現れても不思議ではない」
いや、初めて知りましたけど?
「我が国の王子が婚約を申し込んだことに何か不満でも?」
……不満以前に……うん、理由は後で訊こう。
「い、いえ、そんなつもりでは……!」
カザムの使者に先程までの勢いはない。
無理もない、“帝国“を名乗るだけあってペンタスは大国だ。
カザムは属国ではなく同盟国だが、戦争になったら勝ち目はない。
何しろ世界一魔法使いや技術者が多く住まう国であり、国も整備され、人口も多い。
兵力は民を守るのに使い、無駄に戦争を起こすのを好まない国だが、弱いわけではない。
教会の魔方陣然り、その他の生活技術ひとつとってもペンタスが各国に良心的に提供しているものは探してみると意外と多い。
戦いなどしなくともペンタスはそれらの供給を断てば相手の国にとっては大打撃なのでどこの国も喧嘩をふっかけるような真似はしない。
“ペンタスにそっぽを向かれたら、国が滅びる“
そんな格言じみた言葉まであるということは最近知った。
花嫁修行を兼ねて自分が受けていた淑女教育は、偏っていたと気付いたから。
「し、し、しかし、こちらの令嬢はつい一週間前までロード伯の奥方だったのです、」
「そんなことは承知のうえだ。魔方陣が使用されたことはこちらでも把握しているからな。この国の、というか世界中にある教会の魔方陣は全て我がペンタスから魔力供給を受けていることを忘れたのか?」
「ま、まさか……!」
「そうだ。こちらの令嬢が乙女であると証明されたことを我が国はいち早く察知し、急ぎ私が参ったのだ。私がさっき名乗った名を忘れたか?」
「……あ……」
遅まきながら使者は漸く気付いたようだ。
“カミユ・ロースタス・ペンタス“
この青年の名には“ペンタス“が入っていたということに。
使者はがっくりと膝をついた。
そこへ、
「早く飼い主の元へ報告した方がいいんじゃないか?『国王の馬鹿な勅命のせいでペンタスの怒りを買ったようです』とな?」
とお兄さまが言った言葉に真っ青になった使者はひと言も発することなく脱兎の如く走り去った。
そのことに気付いていないのか、花束を持った手をだらんと力なくぶら下げたアベルは、
「マリーローズ……」
とうわ言のように呟いた。
「お嬢さま」
とすかさずハンナが渡してくれたものを手に、私は進み出た。
「マリーローズ、前に出るな」
「大丈夫ですお兄さま、何かあったら守ってくださるでしょう?」
「はぁ……」
仕方ないな、という風情で体をずらしたロシエルだったが、そのままマリーローズの横にぴたりと張りついた。
それを受けてルイスはアベルの背後に立った。
自分の正面に立ったマリーローズに、アベルは憂いげな眼差しを向け、手を伸ばそうとし、合わせて“スパーン!!“と小気味良い音が響いた。
マリーローズのハリセンで渾身の一発が決まり、アベルは打たれた方の手を庇いながらへたり込み、手にしていた花束が落ちた。
落ちた花束へ目をやり、
「綺麗な薔薇ですね。これも王女殿下のお庭から頂いて来たんですか?」
「あ、ああ……」
「だからダメなんですよあなたは」
「……馬車も花も、王城で急ぎ手配してもらったものだから、」
「そういう所、本当に嫌です」
通じるかどうかわからない。でも言っときたいと思う。
きっとこれが最後だから。
「貴方は一度でも私のことを一番に考えたことがありますか?王女殿下を介さずに、権力に頼らずに自分の力だけで私を喜ばせようとしたことは?最優先に行動したことは?一度でも私を笑わせようと努力したことはありますか?」
思えば結婚式の日から、私はこの男の前で心から笑ったことはない(冷笑なら浮かべたが)。
「っ、」
「一度もないでしょう?あなたの頭の中身を割って証明ができない以上、行動で示すしか相手にわかってもらう方法なんてないのに貴方はやらなかった。王女殿下を介してしか私という人間を認識していなかった。だからダメなんです」
“……割って証明は、魔法使いでも無理だがな……“
「……違う、俺は……」
「貴方の行動原理なんて今更どうでもいい__私の人生に、貴方はいらないんです」
“わー凄ぇトドメ“
マリーローズの言葉を受けたアベルはふらふらと立ち上がり、マリーローズの姿を見ようとしたが既に護衛や兄にその姿を隠されて見ることは叶わず、アベルは踵を返し、その場を去った。
“自業自得とはいえ、容赦ないな……“
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
⭐︎補足⭐︎
コメいただきましたペンタスの呼び方ですが、皇国ではないし、帝国だけど皇帝を名乗っているわけでもないので、帝国の王だから帝国王、皇子でなくて王子、にしてました。
最初王国にしようと思ったけど両方王国だとややこしいかな~じゃあ帝国にするか、みたいなノリでしたし、ファンタジーの架空名称だとこう、くらいに思っていただければm(_ _)m
怒涛の感想祭りありがとうございます❣️
やっぱり終わらなかった( ̄▽ ̄;)!!
回収する伏線が意外と多いな~終わるかな~🤔?
明日エピローグ(閑話含まず)まで行きたかったけど無理そう…。
ざまぁというか自業自得は閑話/各者視点になります。
今の職場は土日の方が忙しいので、週末が一番疲労蓄積して突貫工事の更新になりがちですが、随時直していきます。
4,714
お気に入りに追加
6,078
あなたにおすすめの小説
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる