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28 修羅場の後

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到着した教会でもマリーローズとロード伯の仲が異常なのは周知の事実な(というか神官の目の前で新婦を置き去りにした新郎など歴史上いない)ので、手続きはさくさく進んだ。
私はいくつか神官の質問に答えるだけで、書類等の確認や手続きはお母さまたちがやってくれたので、私はふかふかの椅子に腰掛けてサインをするだけだった。
(こんな優雅な離婚手続き、あっていいのかしら……)と思いつつ、
「では、夫人はこちらにもサインを」
と神官の出してきた書類に座ったままサインをすると、
「はい、結構です。それではロード伯夫人、あちらのサークルの中心に立ってください」
と示されたのは(どう見ても魔法陣、なんだけど……この世界の結婚って魔法誓約とかあったっけ?)とマリーローズを困惑させるものだった。

「ああ驚かれましたか?こちらは普段は人の目に触れないようにしてるので」
と困惑を感じ取った神官が微笑む。
「魔法陣……なのですか?」
「よくおわかりになりましたね。もちろんこの国のものでなく、ペンタス帝国から教会に提供されたものです。心身に影響の出るものではないのでご心配なさらず」
さぁ、と促される私に、
「大丈夫よ、マリーローズ。すぐ終わるわ」
「心配しなくていいのよ。結果がどうでも離婚には影響しないわ」
とお母さまたちも声をかける。

(この国に魔法はないけど、外国にはあるってこと……?まあいいや)
とサークルの中心に躊躇いなく足を踏み入れて立つと、サークルを真っ白な光が覆った。
「おぉ……!」
と神官が目を見開き、
「まぁ!」
「よかった!!」
とお母さま達が手を取り合って喜んだ。
「今のって、」
「はい、お二人の結婚は白い結婚であると証明されました」
__なるほど。それを調べる装置だったのか。

何でも数十年前、昔も今も白い結婚を証明するには女性の体が処女おとめであると証明せねばならず、それがまだ無垢な女性の体に大変な苦痛や屈辱をもたらすことが問題となり、教会がこの陣の設置に踏み切ったのだそう。
他国の技術ではあるが、ペンタスでは百年の昔から当たり前にある方法だと知った当時の教皇と国王が自国が大いに遅れをとっていることに気づき、ペンタスに打診して設置したのだそうだ。
全ての教会にあるわけでなく、一部の大きな教会に限られるが確かにこれなら女性側に負担はない。

「良かったわ。あなた達の様子からそうだろうと思ってはいたけど、証明があるのに越したことはないもの」
「教会の証明に優るものはないわ。これでこの婚姻は無効に出来るわよ、マリーローズ。義娘でなくなってしまうのは寂しいけれど」
「本当に……?」
まさか離婚でなく婚姻無効に出来るとは。

「後はロード伯のサインと交換した魔力石を互いに返還すれば離婚手続きは完了です。ロード伯はいつ来られる予定ですか?」
あの魔力石は単なるお守りだ。
前世の指輪交換と意味は同じで、互いの瞳の色の魔力石のついた指輪を互いの指に嵌めるのが儀式の慣例なのだ。
魔力石自体にも僅かながら持ち主の機運を高める魔力が込められている(もちろん輸入ものだ)そうだが、魔法使いという職業がないこの国では婚姻の証にすぎないと思っていたが離婚の際にも必要なんだ?

「この後主人たちが引っ立ててくる予定ですわ」
カイゼル侯爵夫人が言い、
「左様ですか。ではご夫人がたも掛けてお待ちください。今お茶を運ばせましょう」
壮年の神官もにこやかに答える。そっか、連れてくるんじゃなくて引っ立ててくるんだ……心なしか、神官も嬉しそうに見えるのは何故だろう?
ほんとに茶菓子付きの紅茶まで出てくるし。
「国王肝入りの結婚式だからって、あれだけ入念な準備をさせておいていざ当日になったらああですものねぇ…」
「ええ。本当に後世まで語り継がれる悲惨な式でしたこと」
隣と向かいに座ったお母さまたちの言葉で合点がいった。

この教会は王都一の規模を誇り、王族の式まで任されてきた場所だ。
その神聖な場所で、あんなどっちらけな終わりを迎えた式は後にも先にもあれだけだったろう。
だがその主犯も王家である以上、表立って文句も言えず、不満を溜めこんでいたというところか。
(式をあげた教会に祝福される離婚って……いや無効だそうだけど)
と呆れながらお茶をいただいているうちに、教会の入り口が騒々しくなった。
「どうやら、来たようね」
侯爵夫人の声に、ピシリと背筋が伸びる気がした。



呼びに来た神官について別室に行くと、両脇を両家の父親に抱えられた(というかむしろ捕獲された宇宙人みたく引きずられて来た)アベルがいた。
私をひと目みるなり、
「マリーローズ!どうして……っ、」
と父親たちの腕を振り切ろうとしたが、
「ルイス、カール!」
とお父さまの声に応えた護衛騎士たちに無事引き渡されて改めて拘束された。
身分と立場上、他の騎士に連行させるわけにいかなかったのだろう。
お疲れ様です、お父さま方。

「神聖な教会で暴れないでください。結婚式でのことと言い、神への冒涜がすぎますよ」
「あれは任務で已む無くだっただけだ!俺は離婚などしないぞ!」
「結構。離婚ではなく婚姻無効です」
神官は冷たくあしらった。
「なっ……」
絶句するアベルに構わず、
「無効ということは_…」
とお父さまがお母さまに視線を移す。
「ええ。無事白い結婚の証明がされました!」
「そうか。良かった、あの手紙を読んだ時はもしや手遅れかもと_…」
(そういえば、あの時は恨みを込めてつい“所構わず致したがる“とか書いたっけ……)
それで証明が為されるまで口頭で訊ねるのは控えられていたのだろう。
(申し訳ないことをしてしまったわ……)
と反省するマリーローズの前ではまだ似非騎士が何か喚いているが、
「埒があきませんね。護衛騎士の方、魔力石の指輪を彼の指から抜き取ってください」
頷いたルイスが暴れるアベルの指から指輪を抜き取って神官に渡す。

私の分は既に神官様にハンナから渡してもらっていた。
元々自分の指に嵌めておくのが嫌で、必要最低限の時以外はハンナに預けっぱなしにしていたからだ。
「後はサインですが…_素直にしそうにありませんね」
「当たり前だ!離婚届など粉々に「婚姻無効だと言っているでしょうが、全く」し」
「仕方ありません、本人が署名困難な場合に限り母印でも可とされています。用意を」
神官が指示すると、すぐに指につける用のインクが準備され、護衛騎士の協力の下、無事婚姻無効の書類にアベルの母印が押された。
「これをもってお二人の婚姻は神が無効とお認めになりました。では、お二人に幸あらんことを」
と口上を述べて神官が書類を持って部屋を出ていくと、漸くアベルの拘束が解かれた。

「これであなたは独身に戻ったわ。良かったわね、晴れて王女殿下の公妾でもなんでも好きになさい」
「母上、嘘でしょう!?こんな_…」
「嘘でもなんでもなくってよ、その目で見たでしょう。あなたとマリーローズは他人になったの」
「こ、こんな暴力による署名へのサインは無効です!私は正式に抗議します!」
「好きになさいな」

「っ、マリーローズ!」
何だよ?
「私、いや俺は婚姻無効など認めないからな!」
あーそうですか。
私の立ち位置から似非騎士の顔は見えない。
目の前にハンナとファナ、そのさらに前にお母さま方、お父さま方、さらにアベルの目の前には拘束は解いたが「寄らば斬る」体勢のルイスとカールが立って遮ってくれているので向こうも見えてないはずだ。

だが、
「聞いているのか?!マリーローズ!!」
と脳筋は諦めが悪い。
「ロード伯、私が今日、どんなドレスを着ていたか覚えていますか?」
「何を_、」
「答えてください」
「……君のドレスはいつもブルーだろう?」
「今日は違います。ブルーを着ていたのは王女殿下でしょう?ほら、夜会服姿が見たいとか言って全然見てないじゃないですか。王女殿下の望みを叶えるのに必死だったのでしょう?」
「違う!他の男にエスコートされる君の姿なんて見「他の女性の望みを最優先する男性の妻の役なんて私も真っ平です」っ……」
「私はもうブルーは、いえ二度とあなたの瞳の色は着ません。さようなら」

「そんな、馬鹿な_…」
がっくりと膝をつくアベルに、
「去り際くらい潔くなさい。それでも騎士なの?」
侯爵夫人が声をかけると、凄い勢いで立ち上がり、
「このままでは済まさないからなっ!」
と叫んで去って行った。

(__去り際、小物っぽいなぁ。顔は良いんだから、もうちょっと格好つけて去ってくれたら少しはマシな思い出になったかもしれないのに)
という感想を心中で呟く私の前で、
「はぁ……これで大人しく諦めれば良いものを」
とカイゼル侯爵がため息を吐く。
「なまじ国王に直訴できる立場というのが厄介ですわね、あなた」
「ああ。このままでは恥の上塗りだぞ」

__まだ何かあるの?



*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*


はい、どんどん更新時間が遅くなってるのに皆さんお気付きですね( ̄▽ ̄;)
すみません、明日は更新できないかもですm(_ _)m  推敲ギリです。
キリが悪いとこで二話に分けるとか、したくなかったし。



昨夜も感想祭りというかもう体調の心配やアドバイスありがとうございます!
めっちゃ励みになりました……✨✨

↓ここから先は飛ばしてOKです!

あと、考えてみたら今の現場責任者ってエアコン故障の件なんてちゃんと言ってないんですよ、同僚さんが教えてくれただけで。
今回もボードに体調管理ちゃんとしろって書いただけ。
そもそも経費削減とかいってマメに止めたがるタイプで「自分が耐えられるんだから周りも耐えられるだろ」的な……万事そんなんだから転職されて人員減って、一人あたりの負担が増えてるのが確実に疲労蓄積に繋がってるのに気付きました🙀

言ったって認めるわけなーい&話すより私も転職しよ😃という結論に達しました。
枕元の水分は切らさないようにしてますが、急に夜冷え込むようになりましたね。
皆様もご自愛なさってくださいm(_ _)m
本編完結後も続きますからね!他者視点とか原作の結末とか!
書く体力残す為にも転職先探します( ̄^ ̄)ゞ!


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