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25 修羅場の中

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「マリーローズ様、あ、いえロード伯夫人!」
パッとソファから立ち上がってこちらに駆け寄って来た人物はマリーローズよりも明るく陽の色を受ける金の髪、瞳の色はアベルよりも薄い青_…小説の知識と一致する容姿の彼女はやはりエルローゼ王女だ。

「ごめんなさい、お呼び立てして……どうしてもあなたと会ってお話がしたかったのだけど私はまだ夜会に出られないから、ロード伯に無理を言ってしまったの」
と私の手を取って言う様はいかにも純真な王女だが、
(いや、ロード伯コイツに無茶言うのは王族アナタの通常運転では?)
「あ!いけない私ったら、どうぞお座りになって?」
という王女の言葉を流して、
「ロード伯?」
「何だ?」
「ここは休憩室ではありませんよね?また私を騙したのですか?」
「だ、騙してなどいない!確かにここは会場の広間から一番離れた貴賓用の休憩室だ!ここが一番人目につかないから王女殿下にはここでお待ちいただいたんだ」
「何のために?」
「さっき王女殿下も仰ったろう!君と話をするために「私に何も言わず?王女殿下が望むなら私の意思や体調は関係なしですか、よくそれで夫面ができますね?夫以前に人としてもあり得ない気がしますけど」
「そんなつもりは……!」
「広間では休憩室へ連れていくと言ったではないですか、立派な拉致監禁罪ですよ?何なら今から広間にとって返してこのことを会場にいる方全員に報告しましょうか」
「!すまなかった、つい焦って」
「焦って体調の悪い(嘘だけど)私をここまで歩かせたんですか、やはり加虐趣味がおありで「違う!」、__おまけに嘘つきです」
「__……」
「まあ良いですあなたの“違う““すまない“は通りすがりの挨拶と一緒ですものね、とっとと済ませましょう。何故黙って連れてきたんです?」
色々な元凶の元へ、私を。
「王女殿下の御名を使って呼び出すわけには行かないしそれに_…」
(御名、ねぇ?)
「それに?」
「王女殿下の名前を出すと君は不機嫌になるから、」
そりゃなるでしょうよ、普通。
「私が不機嫌になるとわかってて連れて来たのですね?まあ驚いた__色々考えの足りない人だとは思ってましたが「マリーローズ!」、」
「大声を出さないでください、無礼ですよ?これ以降の会話にも口を出さないでくださいね、ややこしくなりますから」

ぐっと押し黙ったのは(主に私に無礼よね。あなたも王女も)と思った私にでなく、この目の前の王女に気を使ったのだとわかってはいたが、“主従ともども非常識“と言う私の考えは間違っていなかったようだ。
何故なら、先にソファにちょこんと腰掛けた王女が言い放った言葉は、
「マリーローズ夫人、なぜあのドレスを着てないの?私、夫人があのドレスで夜会に参加してる姿が見たかったのに」
というひと言だった。

私が王女自分が選んだドレスを着る姿を見たかった?
(何を言ってんだ?)
と突っ込みつつ、
「私の好みではなかったからです。これから先も着ることはないと思いますのでお返しにあがった次第です__受け取っていただけますよね?あゝついでにあの金色の薔薇も一緒に。侍女に持たせてありますの、呼んでよろしいですよね?」
「気に入らなかった?夫人はああいうドレスがお好みだと、ウエディングドレスを作ったデザイナーにやアベルに依頼して作らせたのだけど」
「はい、気に入りませんでした」
「そうなの……」
しょぼんとなる王女にアベルがオロオロするが、「口を挟むな」と言ったのを守る気はあるらしい。

まあ、破ったらすぐ出てくけど。

「わたし、私はアベルと貴女の結婚を祝福してるって、伝えたかっただけなの」
「その祝福の形がなぜあのドレスになりますの?」
むしろ嫌がらせだろう。

あのドレスはブルーグラデーションになっていて、今着ているドレスと色は違うがデザインは似ていた。
ブルーはアベルの色だが、混じっている青の中に明らかに異質というか妙に薄い色が混じっていた。
あれはアベルの色というより、
「あの、色がやっぱり、駄目だった?」
「やはりあれは、王女殿下の瞳の色でしたのね?」
(やっぱり。あのドレスに混じってた青は王女の瞳の色だったのね)
マリーローズは王女に会った事はないが、侯爵夫人もお母様もひと目みて気付いていたから、あれを着ていたら今頃私は広間で良い笑い者だったろう。

(なのに、嫌がらせじゃなくて祝福?どういう頭の構造をしてるのかしら?)

「あの、悪気はなかったの。ただ私にはまだ自由になることが少なくて。夫人に贈るドレスを作りたいなんて言えなかったから、私がもう少し大きくなったら着られるように作りたいってお願いしたの。そしたら、私の瞳の色を取り入れられてしまって、」
だったらそこで送るのやめとけよ。と言いたいが、この王女は想像以上に精神が幼いらしい。
(そりゃ王女が“大きくなった時に着たいの“と誤魔化して作ったなんてデザイナー側も知るよしもないわね……)
「アベルも“これなら妻も絶対喜ぶ“って太鼓判を押してくれたし」
「私の好みなんてロード伯は知らないと思いますよ?私好みのドレスを選ぶなんて不可能です」
「え」
「その!色々選ぶのは見ていたから、その情報から、好きそうなデザインを推測した」

「諜報員みたいですね」
ていうか、犯罪者ストーカーみたいですね?

「事情はわかりました、ですが祝福していただくには及びません。私はロード伯とは離婚しますので」
「何故っ?!貴女はアベルを愛しているのでしょう?」
「いいえ?」
「えっ……」
「全然、全く、欠片も」
「う、嘘よ。結婚式の事は私が悪かったわ、だから意地を張らないで!」
「意地など張っていません、本心です」
ここで私が心から微笑んで見せたので、王女は絶句した。
「ではそういう事ですので。お人形遊びは他でなさってください」
「お人形遊び?」
「人はあなた方の思い通りに動いたり、着せたい服を着て歩いてくれる人形ではないということですよ。人形遊びは本物の人形でなさいませ」

くるりと踵を返しながら「開けなさい」と扉の前に控えていた王女付きかこの部屋付きか知らないが侍女に命令する。
「で、ですが、」
と狼狽える侍女に、
「良いから開けなさい!!私は貴賓なのでしょう?!」
と続けると、
「は、はい、ただ今!!」
と素直に開けてくれた。

良かった、(どっかの馬鹿みたいに)王女命の人じゃなくて。

開いた扉の向こうにはルイスとハンナがいて、
「お嬢様っ!」
「ご無事でっ!?」
と声をかけてくれる。
「何ともないけど疲れたわ、帰りましょう」
「はい」
「かしこまりました」
と使用人も護衛も全く引き留めないことに焦ったのか、
「待っ……痛っ!」
引き留めようと手を伸ばしたアベルが痛みに顔を歪めて手を引っ込めて、まじまじとこちらをみた。
「な、何故ここにそれが?!」
と訊かれた私の手にはハリセン。たった今ハンナに渡してもらったもの。
「どうやってここに?!」
当然、王宮内に武器の持ち込み(これを武器というかは不明だが)は禁止されている。
「私が習っている扇術の練習用だと言ったら通してくれました、紙ですし」
ハンナが無表情こともなげに言うと、
「許可なく触れない約束でしたよね?」
とハリセンを構えた私に、
「お、王宮の警備はどうなってるんだ?!」
と似非騎士は吠えた。

__それを言えばアンタもね。頭の中、どうなってんの?



*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*


ざまぁ(というか自業自得)はまだ先です。
どれが一番堪えるかは、人それぞれ。色々な形があります。


昨日も感想祭り、ありがとうございました!
ご心配頂いたり、続きを代わりに書けそうな考察も混じってたり、そういう解釈もあるのかと色々楽しませていただいておりますヽ(´▽`)
暑ささえ和らげば、多分きっと大丈夫……(と自己暗示)。
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