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18 手紙 その3
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実家から護衛騎士が派遣されて来て一番驚いたのはマリーローズだ。
(原作にはこんな展開なかったじゃない!ていうかマリーローズの家って普通にお抱えの騎士がいるような家なの?!)
騎士が派遣されてきたのはマリーローズの手紙のせいだが、
「ご無事で良かったです」
「お体は大丈夫ですか?」
との“お嬢様“扱いに大いに戸惑った。
(いや、待てよ?これが騎士の普通ならやっぱあの似非騎士おかしいよね?それとも王女の前だけ人が変わるとか??いや、あれで一般的には人気高いんだから私にだけおかしいのか。つくづくどうなってんだ、カイゼル侯爵家の情操教育)
「いつか、ロード伯の職場を見学してみたいわね……」
「「__は?」」
「お嬢様、何か悪い物でも食べられましたか?」
「違うわよ。ほら、私ロード伯にこんな扱いされたことないじゃない?職場ではどうなのかって気にならない?」
「確かに。気にはなりますがわざわざお嬢様が足を運ぶ必要はないかと。アレがお手本とされているのならば、ろくなもんじゃありません」
「まあそうね。どうせ離婚するんだし……」
「離婚?!」
「もうそこまで話が進んでらっしゃるのですか?!」
カールとファナが口々に言うのに、
「ええ。なのにロード伯は離婚はしないと言うのよ、正妻に相応しい扱いなんてこの先も期待できないのに」
「そうでしたか……あの結婚式だけでは飽き足らず、お嬢様をここまで!もし近づいてきたらきっちり絞めます!」
「そこは“殺る“でも良くねぇ?」
「口を慎め。お嬢様の前だぞ」
「あー…すまん」
いや、別にいいけど。
(マリーローズって、ほんと箱入りのお嬢様だったんだなぁ……)
としみじみ思った翌日には、
「セントレイ伯爵家より派遣されました、ルイスと申します」
と追加の騎士がやって来た。
「確かに伯爵家の家紋入りだが_…お前、見ない顔だな?」
不審げに尋ねるカールに、
「紹介状を通して採用されたばかりですから。私は外国人ですが伯爵家とは付き合いのある家系の者です。お二人とハンナ嬢にも休みが必要だろうと、交代要員として派遣されました。伯爵様の差配です」
黒髪黒目の騎士は柔和に微笑んだ。しかもかなりの美形だ。
カールとファナもそれなりに造作は整っているが、このルイスという騎士はさらに凄い。
パーツの整い方が半端ない。
派手さでいったらアベルの勝ちだろうが、美形度では負けていないかも。
(騎士に顔採用はないだろうけど、顔面偏差値やたら高くない?乙女ゲーとか小説のセオリーを踏んでるせいかしら?)
「_…言われてみればそうか。特にハンナはここにお供してから休む暇もなかったろう」
「そういえばそうね。ごめんなさい、ハンナ」
「とんでもございません!気の休まる暇がなかったのは私よりお嬢様ではありませんか!あの獣がいつ襲ってくるか_…」
「ホントにロード伯って獣だったんすね……あの顔で」
「皆あの顔に騙されているのです」
「騎士より結婚詐欺師の方が向いてる気がするわ」
「アレがまともに結婚できるかは別として、詐欺師なのは確かですね」
同じ騎士として複雑なものがあるカール達と違い、辛辣な会話を繰り広げている二人のもとに、
「奥様、ご実家であるセントレイ伯爵家よりお手紙が届いております」
とロード家のメイドが一通の手紙を運んできた。
「今行きます」
と返事をして受け取りに行くのはハンナだ。
アベルはあの日以降毎日帰って来てはいたが、私は出迎えることも見送ることもしなかった。もちろん、食事も一緒にしない。
ここの使用人との手紙の受け取りや伝言すら、ハンナを通してしかしない。
今はモンドとマリアにおとなしく抑えられてはいるが、ここの最高権力者はあの男だ。
そして考えたくないが、戦闘能力が一番高いのもあの男だ。
用心しすぎということはない。
「お嬢様、お父君のセントレイ伯爵さまからお手紙です」
とペーパーナイフと共にハンナから受け取った手紙を開封して一読すると、
「えっ……?」
とつい声をあげてしまった。
「「お嬢様!!」」
「何か悪い知らせですか?」
「いえ、ごめんなさい、そうじゃないの。セントレイ伯爵夫妻とカイゼル侯爵夫妻がこちらにいらっしゃるそうよ。色々確認したいからって」
「まあ!ではおもてなしの準備をしなければ!いついらっしゃる予定なのですか?」
「この手紙を出してすぐに出発するから、手紙を受け取った翌日には着くだろうって」
「「「__は?」」」
出来れば私もそっちに混ざりたい__行動が早すぎないか?セントレイ伯爵。
「“急遽押しかける形になるからもてなしは不要“ですって。あと私はロード伯と話をする間は同席してもしなくても構わないそうよ」
「セントレイ伯爵さまが動いてくださったんですね!」
喜色を浮かべて言うハンナに、
「そうらしいわね。良かったわ」
と私も胸を撫で下ろす。
「良かったです、お嬢様」
「これで離婚話もスムーズに進むでしょう」
ファナとカールも微笑む中、僅かに眉根を寄せたルイスだったが、
「__ということは明日のお嬢様の護衛はどうしましょうか?我々も、無事こちらに着任したことをお伝えして挨拶するべきですし」
と疑問を質問に変えた。
「ああ、確かにそうね」
「じゃあ俺が先にハンナ嬢と出迎えがてらして来るよ。その間お嬢様には部屋にいてもらって、応接間に案内して挨拶だけしたら戻ってくるから、したらファナとルイスが行けばいい」
「セントレイ伯爵は気にされないとしても、カイゼル侯爵家には失礼に当たらないか?」
「やらかしてるのは自分の息子なんだから問題ない」
「それに両家の当主夫妻が来ている以上、メイドとしてハンナ嬢は席をはずせないのではないか?」
「私はお嬢様付きのメイドであってロード家に仕えているわけではありませんから問題ありません」
「そ、そうか……」
あまりに強気な発言にルイスは面食らったようだが、カールとファナは慣れているのか苦笑しただけだった。
(そういえばハンナって、原作でもマリーローズにだけ忠実だったけどここまで武闘派ではなかったような)
その変化の元凶は自分であることに、当の本人は無自覚だった。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
次回、両家の親を交えたアベルとガチンコバトル!じゃない、裁きの時間__もとい、和やかではないお茶会。
そこまで書きたかったけど本日はここでダウンm(_ _)m
ちなみにアベルの特訓が行われているのは(マリーローズに声のひとつも届かないように)別棟で行われているので、そこまで心配いらなかったりする。
沢山の感想やイイね❣️ありがとうございます。
うん、何か皆さんのコメント読む方が何なら楽しかったりするので、誰か代わりに続き書いてくんないかな?思ってしまう瞬間があったりします( ̄▽ ̄;)
(原作にはこんな展開なかったじゃない!ていうかマリーローズの家って普通にお抱えの騎士がいるような家なの?!)
騎士が派遣されてきたのはマリーローズの手紙のせいだが、
「ご無事で良かったです」
「お体は大丈夫ですか?」
との“お嬢様“扱いに大いに戸惑った。
(いや、待てよ?これが騎士の普通ならやっぱあの似非騎士おかしいよね?それとも王女の前だけ人が変わるとか??いや、あれで一般的には人気高いんだから私にだけおかしいのか。つくづくどうなってんだ、カイゼル侯爵家の情操教育)
「いつか、ロード伯の職場を見学してみたいわね……」
「「__は?」」
「お嬢様、何か悪い物でも食べられましたか?」
「違うわよ。ほら、私ロード伯にこんな扱いされたことないじゃない?職場ではどうなのかって気にならない?」
「確かに。気にはなりますがわざわざお嬢様が足を運ぶ必要はないかと。アレがお手本とされているのならば、ろくなもんじゃありません」
「まあそうね。どうせ離婚するんだし……」
「離婚?!」
「もうそこまで話が進んでらっしゃるのですか?!」
カールとファナが口々に言うのに、
「ええ。なのにロード伯は離婚はしないと言うのよ、正妻に相応しい扱いなんてこの先も期待できないのに」
「そうでしたか……あの結婚式だけでは飽き足らず、お嬢様をここまで!もし近づいてきたらきっちり絞めます!」
「そこは“殺る“でも良くねぇ?」
「口を慎め。お嬢様の前だぞ」
「あー…すまん」
いや、別にいいけど。
(マリーローズって、ほんと箱入りのお嬢様だったんだなぁ……)
としみじみ思った翌日には、
「セントレイ伯爵家より派遣されました、ルイスと申します」
と追加の騎士がやって来た。
「確かに伯爵家の家紋入りだが_…お前、見ない顔だな?」
不審げに尋ねるカールに、
「紹介状を通して採用されたばかりですから。私は外国人ですが伯爵家とは付き合いのある家系の者です。お二人とハンナ嬢にも休みが必要だろうと、交代要員として派遣されました。伯爵様の差配です」
黒髪黒目の騎士は柔和に微笑んだ。しかもかなりの美形だ。
カールとファナもそれなりに造作は整っているが、このルイスという騎士はさらに凄い。
パーツの整い方が半端ない。
派手さでいったらアベルの勝ちだろうが、美形度では負けていないかも。
(騎士に顔採用はないだろうけど、顔面偏差値やたら高くない?乙女ゲーとか小説のセオリーを踏んでるせいかしら?)
「_…言われてみればそうか。特にハンナはここにお供してから休む暇もなかったろう」
「そういえばそうね。ごめんなさい、ハンナ」
「とんでもございません!気の休まる暇がなかったのは私よりお嬢様ではありませんか!あの獣がいつ襲ってくるか_…」
「ホントにロード伯って獣だったんすね……あの顔で」
「皆あの顔に騙されているのです」
「騎士より結婚詐欺師の方が向いてる気がするわ」
「アレがまともに結婚できるかは別として、詐欺師なのは確かですね」
同じ騎士として複雑なものがあるカール達と違い、辛辣な会話を繰り広げている二人のもとに、
「奥様、ご実家であるセントレイ伯爵家よりお手紙が届いております」
とロード家のメイドが一通の手紙を運んできた。
「今行きます」
と返事をして受け取りに行くのはハンナだ。
アベルはあの日以降毎日帰って来てはいたが、私は出迎えることも見送ることもしなかった。もちろん、食事も一緒にしない。
ここの使用人との手紙の受け取りや伝言すら、ハンナを通してしかしない。
今はモンドとマリアにおとなしく抑えられてはいるが、ここの最高権力者はあの男だ。
そして考えたくないが、戦闘能力が一番高いのもあの男だ。
用心しすぎということはない。
「お嬢様、お父君のセントレイ伯爵さまからお手紙です」
とペーパーナイフと共にハンナから受け取った手紙を開封して一読すると、
「えっ……?」
とつい声をあげてしまった。
「「お嬢様!!」」
「何か悪い知らせですか?」
「いえ、ごめんなさい、そうじゃないの。セントレイ伯爵夫妻とカイゼル侯爵夫妻がこちらにいらっしゃるそうよ。色々確認したいからって」
「まあ!ではおもてなしの準備をしなければ!いついらっしゃる予定なのですか?」
「この手紙を出してすぐに出発するから、手紙を受け取った翌日には着くだろうって」
「「「__は?」」」
出来れば私もそっちに混ざりたい__行動が早すぎないか?セントレイ伯爵。
「“急遽押しかける形になるからもてなしは不要“ですって。あと私はロード伯と話をする間は同席してもしなくても構わないそうよ」
「セントレイ伯爵さまが動いてくださったんですね!」
喜色を浮かべて言うハンナに、
「そうらしいわね。良かったわ」
と私も胸を撫で下ろす。
「良かったです、お嬢様」
「これで離婚話もスムーズに進むでしょう」
ファナとカールも微笑む中、僅かに眉根を寄せたルイスだったが、
「__ということは明日のお嬢様の護衛はどうしましょうか?我々も、無事こちらに着任したことをお伝えして挨拶するべきですし」
と疑問を質問に変えた。
「ああ、確かにそうね」
「じゃあ俺が先にハンナ嬢と出迎えがてらして来るよ。その間お嬢様には部屋にいてもらって、応接間に案内して挨拶だけしたら戻ってくるから、したらファナとルイスが行けばいい」
「セントレイ伯爵は気にされないとしても、カイゼル侯爵家には失礼に当たらないか?」
「やらかしてるのは自分の息子なんだから問題ない」
「それに両家の当主夫妻が来ている以上、メイドとしてハンナ嬢は席をはずせないのではないか?」
「私はお嬢様付きのメイドであってロード家に仕えているわけではありませんから問題ありません」
「そ、そうか……」
あまりに強気な発言にルイスは面食らったようだが、カールとファナは慣れているのか苦笑しただけだった。
(そういえばハンナって、原作でもマリーローズにだけ忠実だったけどここまで武闘派ではなかったような)
その変化の元凶は自分であることに、当の本人は無自覚だった。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
次回、両家の親を交えたアベルとガチンコバトル!じゃない、裁きの時間__もとい、和やかではないお茶会。
そこまで書きたかったけど本日はここでダウンm(_ _)m
ちなみにアベルの特訓が行われているのは(マリーローズに声のひとつも届かないように)別棟で行われているので、そこまで心配いらなかったりする。
沢山の感想やイイね❣️ありがとうございます。
うん、何か皆さんのコメント読む方が何なら楽しかったりするので、誰か代わりに続き書いてくんないかな?思ってしまう瞬間があったりします( ̄▽ ̄;)
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