16 / 49
15 手紙 その1
しおりを挟む
部屋に戻ってペンを手にしばらく唸った私は、セントレイ伯爵への手紙を認めた。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
セントレイ伯爵様
先日ご覧になった通り、結婚式より何より仕事が大事だというロード伯爵のおかげでひとりでとても静かに過ごしております。
___と言いたい所ですが、ロード伯は些かその辺りの常識が欠落されているらしく、結婚式での一件を気にも留めていないどころか泥酔して帰ってきた途端ところ構わず閨事を要求してくるのでとても恥ずかしく、また恐ろしくてたまりません。
ロード伯とこちらの家令の許可は取りました故、どうか腕の立つ、人となりの信用できる護衛を派遣していただけないでしょうか?このままでは私は留守がちなロード伯のいない間すら安心して眠ることができません。
それすら叶わぬのならば消えてしまいたい。
あの悪夢のような式会場から、私も逃げ出してしまえば良かったと悔やんでも悔やみ切れません。
王命で既に他所へやったものとお見捨てにならず、ご一助をお願いします。
マリーローズ
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
「こんな感じかな?」
名前に姓は付けない。
今の私はマリーローズ・セントレイではないがマリーローズ・ロードと名乗る気はない。一生ない。
奴は王家に婿入りでもしたらいい。
モンドが「私たちがレディーの扱い方をしっかり仕込みますので」と言ってはいたが、想像を超えてくるのがあの阿呆である。
確かに騎士団の試験に『女性の扱い方』なんて項目はない(娼婦のあしらい方ならあるかもしれない)だろうし、長男でも次男でもない彼にはその辺りを教える存在が身近にいなかったのかもしれない。
だが、そんなことは妻への虐待放置の言い訳にはならないので知ったことではない。
それでいて困ったことに地位も戦闘力も高いのだから、用心するに越したことはない。
「お嬢様、__これ、マジですか?」
書いた手紙を読んでもらっていたハンナが顔をあげながら言う。
「何か駄目だったかしら?事実をちょっと悲劇的に書いてみたんだけど」
「事実といえば事実ですけど……」
正確には一杯引っ掛けてきただけで泥酔はしていない。酒臭かったけど足取りはしっかりしていた。
帰ってくるなりベッドに連れ込まれはしたが、所構わず致そうとしてはいない。
護衛の件は許可を出したのは家令とメイド頭で、当の主人は出してはいない。
けど、それが何?
結婚式で置き去りにしたうえ初夜をすっぽかしたのは事実、そのことの詫びもなしに酔っ払ってベッドインに雪崩れ込もうとしたのも事実だ。
どう取るかは読み手や聞き手次第。
「それで、どう?セントレイ伯爵はその内容で力を貸してくれそうかしら」
「はい!この内容ならば間違いなく怒り狂って手配してくださるかと__良かったです」
「ハンナ?」
「いえ、この家でどんな扱いをされてもお嬢様は黙って耐えてしまうと思っておりました。その…、実際式の準備中のお嬢様は幸せそうでしたし、ロード伯に憧れていらしたので」
「ああ、そういえばそうだったわね」
(それが私が入る前のマリーローズだったものね)
「ですが、早々にあの屑、いえロード伯の性質を見抜かれて行動され、ご自分を大事にされる様子に安堵致しました」
「ハンナが一緒にいてくれたおかげよ」
実際ひとりでここまでは無理だったろう。
ハンナという絶対的な味方がいたからこそ無茶がきいたのだ。
「では、すぐにこの手紙を出してまいります」
「お願いね」
この邸とセントレイ伯爵領は結構な距離がある。
早馬で送ったとしても今日明日というわけには行かないだろう。
「では、他のお手紙の相手をしましょうかね」
私は山積みになった封筒の山に目をやった。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
毎日閲覧感想いいね❣️ありがとうございます!
一話をもう少し長く取りたいのですが、体力追いつかない&キリの良いところ、でこの文字数になってしまいますね……これから先は更新時間もバラつくと思いますがよろしく付いてきてください!
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
セントレイ伯爵様
先日ご覧になった通り、結婚式より何より仕事が大事だというロード伯爵のおかげでひとりでとても静かに過ごしております。
___と言いたい所ですが、ロード伯は些かその辺りの常識が欠落されているらしく、結婚式での一件を気にも留めていないどころか泥酔して帰ってきた途端ところ構わず閨事を要求してくるのでとても恥ずかしく、また恐ろしくてたまりません。
ロード伯とこちらの家令の許可は取りました故、どうか腕の立つ、人となりの信用できる護衛を派遣していただけないでしょうか?このままでは私は留守がちなロード伯のいない間すら安心して眠ることができません。
それすら叶わぬのならば消えてしまいたい。
あの悪夢のような式会場から、私も逃げ出してしまえば良かったと悔やんでも悔やみ切れません。
王命で既に他所へやったものとお見捨てにならず、ご一助をお願いします。
マリーローズ
*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*
「こんな感じかな?」
名前に姓は付けない。
今の私はマリーローズ・セントレイではないがマリーローズ・ロードと名乗る気はない。一生ない。
奴は王家に婿入りでもしたらいい。
モンドが「私たちがレディーの扱い方をしっかり仕込みますので」と言ってはいたが、想像を超えてくるのがあの阿呆である。
確かに騎士団の試験に『女性の扱い方』なんて項目はない(娼婦のあしらい方ならあるかもしれない)だろうし、長男でも次男でもない彼にはその辺りを教える存在が身近にいなかったのかもしれない。
だが、そんなことは妻への虐待放置の言い訳にはならないので知ったことではない。
それでいて困ったことに地位も戦闘力も高いのだから、用心するに越したことはない。
「お嬢様、__これ、マジですか?」
書いた手紙を読んでもらっていたハンナが顔をあげながら言う。
「何か駄目だったかしら?事実をちょっと悲劇的に書いてみたんだけど」
「事実といえば事実ですけど……」
正確には一杯引っ掛けてきただけで泥酔はしていない。酒臭かったけど足取りはしっかりしていた。
帰ってくるなりベッドに連れ込まれはしたが、所構わず致そうとしてはいない。
護衛の件は許可を出したのは家令とメイド頭で、当の主人は出してはいない。
けど、それが何?
結婚式で置き去りにしたうえ初夜をすっぽかしたのは事実、そのことの詫びもなしに酔っ払ってベッドインに雪崩れ込もうとしたのも事実だ。
どう取るかは読み手や聞き手次第。
「それで、どう?セントレイ伯爵はその内容で力を貸してくれそうかしら」
「はい!この内容ならば間違いなく怒り狂って手配してくださるかと__良かったです」
「ハンナ?」
「いえ、この家でどんな扱いをされてもお嬢様は黙って耐えてしまうと思っておりました。その…、実際式の準備中のお嬢様は幸せそうでしたし、ロード伯に憧れていらしたので」
「ああ、そういえばそうだったわね」
(それが私が入る前のマリーローズだったものね)
「ですが、早々にあの屑、いえロード伯の性質を見抜かれて行動され、ご自分を大事にされる様子に安堵致しました」
「ハンナが一緒にいてくれたおかげよ」
実際ひとりでここまでは無理だったろう。
ハンナという絶対的な味方がいたからこそ無茶がきいたのだ。
「では、すぐにこの手紙を出してまいります」
「お願いね」
この邸とセントレイ伯爵領は結構な距離がある。
早馬で送ったとしても今日明日というわけには行かないだろう。
「では、他のお手紙の相手をしましょうかね」
私は山積みになった封筒の山に目をやった。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
毎日閲覧感想いいね❣️ありがとうございます!
一話をもう少し長く取りたいのですが、体力追いつかない&キリの良いところ、でこの文字数になってしまいますね……これから先は更新時間もバラつくと思いますがよろしく付いてきてください!
4,910
お気に入りに追加
5,977
あなたにおすすめの小説

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる