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15 手紙 その1

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部屋に戻ってペンを手にしばらく唸った私は、セントレイ伯爵への手紙を認めた。


*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*
セントレイ伯爵様



先日ご覧になった通り、結婚式より何より仕事が大事だというロード伯爵のおかげでひとりでとても静かに過ごしております。
___と言いたい所ですが、ロード伯は些かその辺りの常識情緒が欠落されているらしく、結婚式での一件を気にも留めていないどころか泥酔して帰ってきた途端ところ構わず閨事を要求してくるのでとても恥ずかしく、また恐ろしくてたまりません。

ロード伯とこちらの家令の許可は取りました故、どうか腕の立つ、人となりの信用できる護衛を派遣していただけないでしょうか?このままでは私は留守がちなロード伯のいない間すら安心して眠ることができません。

それすら叶わぬのならば消えてしまいたい。

あの悪夢のような式会場から、私も逃げ出してしまえば良かったと悔やんでも悔やみ切れません。

王命で既に他所へやったものとお見捨てにならず、ご一助をお願いします。


                                              マリーローズ

                                             *・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*



「こんな感じかな?」
名前に姓は付けない。
今の私はマリーローズ・セントレイではないがマリーローズ・ロードと名乗る気はない。一生ない。
奴は王家に婿入りでもしたらいい。

モンドが「私たちがレディーの扱い方をしっかり仕込みますので」と言ってはいたが、想像を超えてくるのがあの阿呆である。

確かに騎士団の試験に『女性の扱い方』なんて項目はない(娼婦のあしらい方ならあるかもしれない)だろうし、長男でも次男スペアでもない彼にはその辺りを教える存在が身近にいなかったのかもしれない。

だが、そんなことは妻への虐待放置の言い訳にはならないので知ったことではない。
それでいて困ったことに地位も戦闘力も高いのだから、用心するに越したことはない。



「お嬢様、__これ、マジですか?」
書いた手紙を読んでもらっていたハンナが顔をあげながら言う。
「何か駄目だったかしら?事実をちょっと悲劇的に書いてみたんだけど」
「事実といえば事実ですけど……」

正確には一杯引っ掛けてきただけで泥酔はしていない。酒臭かったけど足取りはしっかりしていた。
帰ってくるなりベッドに連れ込まれはしたが、所構わず致そうとしてはいない。
護衛の件は許可を出したのは家令とメイド頭で、当の主人は出してはいない。

けど、それが何?
結婚式で置き去りにしたうえ初夜をすっぽかしたのは事実、そのことの詫びもなしに酔っ払ってベッドインに雪崩れ込もうとしたのも事実だ。
どう取るかは読み手や聞き手次第。

「それで、どう?セントレイ伯爵はその内容で力を貸してくれそうかしら」
「はい!この内容ならば間違いなく怒り狂って手配してくださるかと__良かったです」
「ハンナ?」
「いえ、この家でどんな扱いをされてもお嬢様は黙って耐えてしまうと思っておりました。その…、実際式の準備中のお嬢様は幸せそうでしたし、ロード伯に憧れていらしたので」
「ああ、そういえばそうだったわね」
(それが私が入る前のマリーローズだったものね)
「ですが、早々にあの屑、いえロード伯の性質を見抜かれて行動され、ご自分を大事にされる様子に安堵致しました」
「ハンナが一緒にいてくれたおかげよ」
実際ひとりでここまでは無理だったろう。
ハンナという絶対的な味方がいたからこそ無茶がきいたのだ。
「では、すぐにこの手紙を出してまいります」
「お願いね」

この邸とセントレイ伯爵領は結構な距離がある。
早馬で送ったとしても今日明日というわけには行かないだろう。
「では、他のお手紙の相手をしましょうかね」

私は山積みになった封筒の山に目をやった。


*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*



毎日閲覧感想いいね❣️ありがとうございます!
一話をもう少し長く取りたいのですが、体力追いつかない&キリの良いところ、でこの文字数になってしまいますね……これから先は更新時間もバラつくと思いますがよろしく付いてきてください!
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