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1 前世社畜、思い出す

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思い出した。

前世日本で私は社畜だった。

暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの「ロゼの幸福」。

主人公マリーローズは、伯爵令嬢だった。
内気で本を読むのが好きだった主人公が、ある日、王命で騎士伯との結婚を命じられる。
彼は王女の護衛騎士だったが、マリーローズが密かに憧れている人でもあった。

王命による政略結婚だとわかっていても、マリーローズは彼との結婚を喜んだ。
だが、結婚生活は悲惨の一言に尽きた。
夫であるアベルは、何をおいても王女のことを一番にし、家に帰っている時間も短く、会話らしい会話などなかった。
何しろ、結婚式ですら王女が襲撃にあったとの知らせを聞き、マリーローズを置いて駆けつけてしまったくらいだ。

そこで思い知った。
彼にとってこの結婚は、王女と自分のラブロマンスを合法化するためのスパイスに過ぎないことを。
王女より、いや一般的に見て、他の貴族令嬢夫人と比べてもマリーローズの扱いはとにかく軽いものだったといえよう。
任務優先の彼はパーティーでのエスコートすらまともにせず、そのくせ夫婦としての義務なのか夫婦の房事だけはあった。
自分の誕生日も、彼の誕生日も、祝ったことも祝われたこともない。
結婚式に意味を感じていなかった彼だから当たり前なのかもしれない。
だが、結婚式の準備期間だけは、なぜかまめに伯爵邸に通って来ていた。
そんな彼に望みはあると感じてしまったマリーローズは結婚後、事あるごとに彼を引き止めようとした。

彼はその時だけは「わかったよ。時間を取る」と答えるのだが、その約束が守られた事は無い。
そしていつものように後から「ごめん。仕事が入った」と朝の挨拶のついでのような詫びの一言ですます。
(彼にとって、私は朝の挨拶程度の存在なのね)
そう思い知って離婚を考え始めたマリーローズだが、その頃懐妊に気付いてしまう。
この男は妻としてのマリーローズの立場を守る事は全くしないくせに、閨事だけは要求してきた。
(子供ができたと知らせれば、少しは私のことも考えてくれるかしら?)
そう思って「大事な話があります」と切り出したマリーローズだったが、
「わかった。では、今夜」
と返したアベルは夜、帰ってはこなかった。
そしてその夜、邸が襲撃にあった。



アベルが王女殿下を救ったことで名を上げた事も、また見目が麗しいことも有名だった。
騎士としての有能さも確かで、多くの犯罪事件を摘発していた。
その摘発された組織の逆恨みでの襲撃だった。
騎士伯の家であるから、守りが全くなされていないと言う事はないが、王城には到底及ばない。
常に王城に詰めている彼には手を出せないと分かった犯罪集団は、この屋敷を狙ったのだ。
門兵や使用人の中には護衛もいたが、ならず者の集団には多勢に無勢。
すぐに巡回していた騎士たちが駆けつけたが、私は傷を負い、お腹の子が流れた。
夫に話す前に、夫のせいで傷を負って流産した。
そんな妻のもとに夫が駆けつけてくる事はなく、マリーローズは絶望する。

すでに心を病んでいた彼女は、医師の処方する薬を飲む事はなく、食事もとらずにいたので回復に向かう事はなかった。
(どうせ返事は無いのだから)とアベルに連絡することもなく、彼が駆けつけてきたのは、まさにマリーローズが息絶える瞬間。

「マリーローズ!」
珍しく焦った様子で駆け込んでくる夫にマリーローズが声をかける事はなかった。「……か……ばよかった……」
そうつぶやいて、マリーローズは息を引き取った。
「マリーローズ!待ってくれ、違うんだ!俺は…俺は君を__!」



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「ふっざけんなあぁ!!!」
ここで私は本を投げ出した。
「あほかーあー!!!」
とさらに叫んで。
結婚した妻をないがしろにして、王女とイチャコラして、挙句の果てにひどい目に合わせて死なせておいて、何が「違うんだ!」よ。
あの後続く言葉がただの懺悔だろうと「愛している」だろうとマリーローズには聞こえない。
寝言は寝てから言えよ、と読む気にもならなかった。

友人は切ないラブロマンスだと言っていたが、これがどこかラブロマンスだ?
そもそもこの話のタイトルにある「ロゼ」はマリーローズの事では無い。
王女の名前をエルローゼといい、これは王女と一騎士が身分を超えたラブロマンスなのだ、多分?
いや最後まで読んでないのでわからないけど。
この後こいつが、奥方の手を取って延々言い訳をしたところで、何になると言うのだ?

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