心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

詩海猫

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フィオナとダイアナ 2(回想)

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フローリアが亡くなって三日後、ネリーニの元に王家から使者がやってきた。
「フローリア・ホワイト嬢から貴女への手紙が彼女の遺品の中にありました。それから、こちらを一緒に渡して欲しいとも添えてありましたのでお持ちしました」
使者が持ってきたのは豪奢な宝石箱で、ずっしりと重い。
「こんな高価なもの……いただけません」
しかも明らかにフローリアの趣味ではない。きっと金にあかせて王子が贈ったものだろう。
「ホワイト嬢の遺言です。親しい後輩であるトルマリン嬢に受け取って欲しいと。受け取った後売るのも捨てるのも貴女の自由です。亡き人のためにお納めください」
そう言って使者は丁寧に頭を下げて帰って行った。

仕方なく受け取って部屋に戻ったネリーニがまず封筒を見ると“親愛なるネリーニ・トルマリン様へ“と流麗な文字で書いてある。
(フローリア様の字だわ……)
あの“結末を見届けにいらっしゃい“と書かれた招待状と同じ筆跡だ。
おそらくあの招待状を用意した時に一緒に書いたものだろう、彼女は招待状を用意した時点で決心していたはずだから。
封筒に開けられた形跡はなく、王家の封蝋がされている。
彼女はどんな思いでこの封蝋を使ったのだろう。
ネリーニは封を切って中身を取り出した。



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

ネリーニ・トルマリン様

僅かではありますが、学園で親しかった後輩である貴女に私の手持ちの宝石をお譲りします。
形見分けと思って受け取ってください。
貴女のこの先の生が、より良いものでありますように。

                    *・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。


簡潔な文章だった。
けれどそれだけで充分だった。
便箋の一番下の端に、小さな字で

“P.S  今世の業は私が全て持っていきます。だから貴女は、幸せに生きなさい。辛い記憶なんて未来で上書きしてしまえばいい、貴女はまだ間に合うのだから“

と書いてあった。
「フローリア様……!なんて____」(____バカなことを……!)

こんなことをするくらいなら、あのバカ王子に拳骨のひとつでもお見舞いしてやれば良かったのだ。

こんな根回しをするくらいなら、自分が逃げる算段でもつければ良かった。

他人の幸せを願うくらいなら、罵倒のひとつでもぶつけてくれたら良かったのに……!
どうして一人で全部背負い込んでしまったの、巻き込んでくれて良かったのに。
自分など一緒に破滅したって、構わなかったのに。
だってあの頃もう自分は限界だった。早く死んでしまいたかった。

なのに、

同じ業を背負っていたはずの彼女ひとは、一人で行ってしまった。
「詰ってくれて、良かったんですよ……?」
貴女がきちんと殿下を繋ぎ止めておかないからこんなことになったんだとか、貴女のせいで私はこんなことになったのだとか、
「貴女には、言う権利があったんですよ……?」
なのに、
「何たった数回会っただけの後輩の幸せ、願っちゃってるんですか……」

簡潔な文も端っこの小さな文字も、万が一誰かに先に開けられたとしてもネリーニが世話係だったことを疑われないように配慮したものだろう。
「私が、もっと強かったら……」
互いに手を取り合って逃げる勇気があったなら、今も生きて隣にいてくれたかもしれない。
「ありがとう、ございます……フローリア様」
(私、ちゃんと生きていきます。貴女の分まで)
手紙を胸に抱いて、ネリーニはそう決意した。
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