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第二章 フィオナとダイアナ 1

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「まず、貴女が亡くなった後の事をお話ししましょうか」
フェアルドとディオンを追い出した後、フィオナをソファに座らせてお茶を淹れると、ダイアナは話し始めた。



「フローリア様が亡くなられた直後ですが……」
フローリアが亡くなった直後、王太子が助けようと池に飛び込もうとした事、それを高官たちに止められ、引きあげられたフローリアの亡骸を温めようと抱きしめたところをホワイト伯爵夫人に「娘を返して」と叫ばれ伯爵夫人に取り返されたこと、「家に連れ帰る」というホワイト伯爵に国王が許可を出したところ「王家の墓に葬るのだ」と駄々っ子のように泣く王太子を無視して王妃が連れ帰る許可を出したこと__等々。

「それから」
「?」
「王妃様はご存知だったようですわ、フローリア様が後宮に連れてこられた時の顔を見た時から、あの因習の犠牲になった令嬢だと」
「王妃様が……?」
「この国に来てあの因習を知った王妃様は当時撤廃しようとしたそうです。けれど他国から嫁いできてこの国に味方の少ない王妃様にはその力がなかった。“こんな道を選ばせて申し訳なかった“と縋っておいででした。フローリア様の亡骸に“ごめんなさい、ごめんなさい“と何度も泣きながら」
「そう、なの……」
「そしてあの後最も精力的に動いたのは王妃様とホワイト夫人__フローリア様のお母様でした。この事を機に女性軽視の政情を一変させました。ごく一部の男性が抵抗はしたものの他国からも激しい非難を浴び、民の王室への信頼は失墜、貴族たちも上手く他国へ逃れたものは僅かで殆どがあのまま権威を失墜、没落していきました。国王はその座を追われ、一時は王妃様とその補佐をする夫人たちで執政政治をとりましたが女性の権利と自由と保護を保障する法案を通すと王冠を返還し、王家を去られました。その後民の投票で選ばれた執政官や隣国の王族などが一旦は引き継いだものの誰も長続きはせず、そのまま波打ち際の砂城が崩れるように国は静かに滅びました。フローリア様が亡くなられてから六年ほど後の事でしたわ。少なくともあの出来事から六年は国としての体を守っていたわけです、意外としぶといですわよね?まああんな腐った国、誰も欲しがらなかったからではありますが」

苦笑するダイアナの表情は意外にも穏やかで、フィオナは気になっていたことを訊ねた。
「貴女は__どうなったの?」
「私は身ぐるみ剥がされる前の王家から多額の慰謝料と、貴女からの遺産を秘密裏に受け取ったお陰で家族と早々に国を出て交易の盛んな国に移住して事業を始めました。貴族ではなくなりましたが裕福な商会頭取の娘としてなかなかやり手の現地の商人と結婚して__月並みですが幸せな一生を送りましたわ。その人との子供も五人産みましたのよ?」
「ご、五人っ?!」
「ふふ、凄いでしょう?でも、孫の数はもっと多かったのですよ。もういい年になって天に召される時は孫たち皆が枕辺で泣いてくれて__……幸せでしたわ。元祖国の滅びの報も特に何も感じないくらい、精一杯生きてやりました」
「そう……良かった」
(あの時の私の行動は、無駄じゃなかった)
「そして国の滅びから五年後、北の果ての塔が崩れたことを人伝に聞きました。あの塔はどうやら元王子の生命と連動していたとかで、塔が崩れたということは中の囚人の寿命が尽きたのだろうと」
「そう……」
「あの屑のことはとうに昔のことと綺麗に忘れて生きていたので何も感じませんでしたけれど、」
「けれど?」
「何故か無性に腹が立ちましたわ」
「__え」
(どうして?)
「この報を聞いたのが貴女でないことに、貴女がこの世にいないことに」
ここでネリーニは言葉を切って、フィオナを見つめた。
強い眼差しだった。

「っ、あの」
「貴女が悪いわけではありません。けれどあのアホ王子に先に手を付けられたのは私で、あのケダモノ二人が勝手に交換しようが行きつく結末はきっと同じで__一歩間違えばああなっていたのは私で。なのに貴女はあんな風に死を選ぶしかなかったのに私は生きて、私だけが幸せになって!」
「ネ、ダイアナ、貴女が悪いわけじゃ」
「わかってます!私も貴女も悪くない、悪いのはあの男どもで私たちに罪はない__だからこそ考えてしまう、他に道はなかったのか、あれが最善だったのか、二人で共にあの地獄から逃げ出す道はなかったのかって!」
「ダイアナ、」
「私たちは互いの状態を知っていた。知っていて何もしなかった、できなかった……!もし私が、貴女の強さの一部でも持っていれば、あの時少しでも行動していれば貴女は」
「ダイアナ、落ち着いて」
「私たちが手を取り合うことが出来ていたら、違う結末を迎えられたんじゃないかって……ひっく、」
気付けばダイアナは泣きじゃくっていた。

フィオナは幼い子供にするようにダイアナの背中をポンポンと叩いて宥める。
今世ではダイアナの方が年上のはずなのだが。
「ごめんなさいね。貴女の先の人生の少しでも足しになるかと思ったのだけれど」
「___どうちて謝るんですかっ!」
目だけでなく鼻柱を赤くしたダイアナはもう語彙も怪しかった。

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