上 下
38 / 55

ダイアナ視点 1

しおりを挟む

「王女様、これは如何致しましょうか」
「それは置いてくわ、青ってあまり好きじゃないのよ。私にあまり似合わないし。金色のは全部持って行くから忘れないでね?」
「かしこまりました」
トーリアの王女セレーネは現在二十歳。
嫁ぐはずだったランタナ皇帝が崩御し、急遽その皇弟であり次期皇帝となるフェアルドに嫁ぐことになった。
比較的ゆっくりと進めていた準備だったが、皇帝が急逝したことで俄に慌ただしくなった。
「皇妃のいる皇帝と違い、新皇帝は未だ独身、早く嫁いだ方に分がある」
とトーリアの王が急がせたせいだ。

結婚準備に今ひとつ乗り気でなかったセレーネも「絵姿ではバルド皇帝陛下も中々美形だったけど、もう三十七でいらしたのでしょう?引き換えフェアルド殿下は御年二十六で傾国とも噂される美男だとか__歳まわりもちょうど良いし、前陛下とでは所詮縁がなかったのよ、私には新しく陛下になられるフェアルド様の方が似合いよね」と一気に乗り気になった。

長く黒い髪を自慢としてる王女は嬉々として結婚準備を始めた。
尤も、王女は座って指示するだけで実際にやるのは侍女たちだが。
黒い髪に映えると金色ばかりを詰めさせるセレーネに、
「あの、王女殿下。少しは陛下の色も持っていかれた方がよろしいのでは……?」と侍女の一人が言うと、
「陛下は金髪碧眼なんでしょう?金で合ってるじゃない」
「い、いえ……金だけでなく陛下の瞳の色も持っていかれた方がよろしいかと」
「必要ないわ。瞳の色を身につけて欲しかったら陛下が贈ってくださるでしょう、あちらから来て欲しいと言ってきたのだから」



言ってきたのは前陛下であって現陛下ではない。
現陛下からは白紙にして欲しいと言ってきたのを強行に通したことを知らないのだろうか?
そもそも、あちらには長年の婚約者もいる。歓迎されるとは思えない。



「そう、ですね……」
と黙ってしまった侍女に代わり、
「ですがあちらは現在国をあげての喪中とのこと。金色は喪に服すには相応しくありませんし、控えめな装いもお持ちした方が良いかと」
侍女長がやんわり言うと、
「それもそうね……じゃあ白と、銀ならどうかしら?」
「よろしいかと。流石王女殿下、ご聡明な判断です。直ぐにご用意いたします」
年嵩の侍女長はこの王女の扱いを良く心得ている。気分を良くしたセレーネは、
「そうね。清楚で控えめな衣装もひと通りあった方が良いわよね、水色も一式持っていこうかしら?」
と言ったものの、
「そういえばフェアルド様には婚約者がいたわよね?何色の髪と瞳だったかしら」
「確か、銀の髪に水色の瞳の方だとか」
私が答えると、途端に目を剥いて「白だけにして頂戴!」と叫び、侍女たちを右往左往させた。



やれやれ。
望まれて嫁ぐわけではないし、皇妃になるのはあちらの銀の姫の方に違いないのだから持って行っても良いだろうに。
皇妃と対立するよりは仲良くしていた方が将来安泰だと思う。
二十過ぎに嫁いですぐに帰されてきたりしたら目も当てられないし、セレーネは確かに美人だが王女らしい我儘が身についているので、国内ではちょうど良い降嫁先が見つからなかった。
そこへ大国ランタナ皇国からの側妃の打診は渡りに船だったのだ。



広大な領土を治める大国で、国政も安定している。
何より皇帝には皇妃はいるが世継ぎに恵まれていない。
皇帝はまだ壮年の三十代。上手くすれば世継ぎの母に、世継ぎが産めなくとも相手は自国よりずっと豊かな大国、王女の生活の質が落ちることはない。
擁する城の規模からして違うのだからこれほどの良縁はないとトーリアの王はほくそ笑んでいた。
だからこそ皇帝の急逝により白紙の提案があった時に手酷くはねつけ、王女を迎え入れさせた。
これでセレーネの行く末も安泰だろう。

この目論見の先が国の危機になろうとは、この時の国王は想像だにしなかったろう。



















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

あなたの子ではありません。

沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。 セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。 「子は要らない」 そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。 それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。 そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。 離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。 しかし翌日、離縁は成立された。 アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。 セドリックと過ごした、あの夜の子だった。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...