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ナスタチアム侯爵邸 2
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「陛下も、懺悔しておられた」
「フィオナはそれに反応を返したのですか?」
「いや、それは、」
わからない。
「フィオナお嬢様は、許しておられませんでした。お見送りにいらした陛下が泣きながら縋って謝っておいででしたが……」
「そうか」
やはり許せないか。
「本当に、あの子がおかしくなったのはそのせいだけ?報告書にあったことが全て?他にも何か書いてないことがあったのではなくて?」
「い、いえ、私どもが知る限りでは__」
「エリス、やめなさい」
「だっておかしいではないですか!確かに私達は間違えた。けれど私たちからの手紙すら手に取らないなんて__他の側妃たちに何かされたのではなくて?」
「馬鹿なことを言うんじゃない、他の側妃と会わせないように陛下は手を回してくださっていた」
「本当かしら?」
「エリス」
「貴方はおかしいと思わなかったの?後宮に入って四ヶ月、たった四ヶ月ですわよ?!何故あの子はあんなにやつれて、帰ってきたらこの家で育ったことさえなかったことになっているの!ここを出発した時はあんなに元気に笑っていたのに!」
「エリスそれは__、」
「陛下は本当にあの子を大事にしていたの?本当にあの子を想っていたの?あの子は後宮に入って陛下の正体に気付いてしまったのではなくて?」
「奥様!」
「エリス!」
周りも流石に不敬だと宥めにかかるが、エリス夫人は止まらない。
「でもなければおかしいではないですか、何故初めてこの邸に来たみたいな挨拶を?あの子はここで育ったのに__何故私を侯爵夫人と呼ぶの?私はあの子の母親なのに!」
「すまなかった。私が陛下を止めきれなかった」
「こんな風になるまで何もしてあげられなかったなんて、あそこまで傷付くのに気付いてあげられなかったなんて……!」
エリスの泣き叫ぶ声が玄関ホールに響き渡っていた。
その夜もそれ以降も、フィオナが両親と夕食を共にすることはなく、邸全体が暗く沈んでいた。
フィオナの頑なな態度が解けることはなく、母親のエリスがお茶に誘っても応じることはなかった。
そんなある日、更に邸を暗くする出来事があった。
業をにやしたエリス夫人がフィオナの部屋に直にやって来た。
初日の到着以来、一切顔を見せない娘が気になって仕方なかったのだ。
取り乱すことなく迎えたフィオナに「まあ。侯爵夫人、何か?」と言われ、冷静に話そうと構えて来たエリスの心は早々に折られた。
「フィオナ、」
「何でしょうか侯爵夫人」
「お母様、でしょう?」
「…………」
「貴女は私の娘!私は貴女のお母様でしょう?!悪かったわ、こんなことになると考えもしないで貴女を後宮に送り出して__許して頂戴フィオナ!私が悪かったわ!お願いよフィオナ、」
泣いて縋るエリスに仮面を付けたままのフィオナは、
「どうして泣いていらっしゃるのですか?何か悲しいことでもあったのですか?__侯爵夫人」
と至って冷静に返した。
目を見張ったエリスは、
「あっ、あっ、あぁっ……、ごめんなさい、ごめんなさいフィオナ!貴女がこんなに傷ついてるなんて、後宮に入れたことがここまで貴女を壊してしまうなんて!そんな所にむざむざ送り出してしまったことを赦して__フィオナ!」
「奥様、落ち着いてください」と宥めるメイドたちの声も無視して我もなく泣き叫んだ。
興奮して手がつけられなくなった夫人は駆けつけた執事が「奥様を寝室までお連れしろ」と指示し男の使用人たちに引き剥がされるように連れていかれるまで叫び続けたが、フィオナの心には届かなかった。
「フィオナはそれに反応を返したのですか?」
「いや、それは、」
わからない。
「フィオナお嬢様は、許しておられませんでした。お見送りにいらした陛下が泣きながら縋って謝っておいででしたが……」
「そうか」
やはり許せないか。
「本当に、あの子がおかしくなったのはそのせいだけ?報告書にあったことが全て?他にも何か書いてないことがあったのではなくて?」
「い、いえ、私どもが知る限りでは__」
「エリス、やめなさい」
「だっておかしいではないですか!確かに私達は間違えた。けれど私たちからの手紙すら手に取らないなんて__他の側妃たちに何かされたのではなくて?」
「馬鹿なことを言うんじゃない、他の側妃と会わせないように陛下は手を回してくださっていた」
「本当かしら?」
「エリス」
「貴方はおかしいと思わなかったの?後宮に入って四ヶ月、たった四ヶ月ですわよ?!何故あの子はあんなにやつれて、帰ってきたらこの家で育ったことさえなかったことになっているの!ここを出発した時はあんなに元気に笑っていたのに!」
「エリスそれは__、」
「陛下は本当にあの子を大事にしていたの?本当にあの子を想っていたの?あの子は後宮に入って陛下の正体に気付いてしまったのではなくて?」
「奥様!」
「エリス!」
周りも流石に不敬だと宥めにかかるが、エリス夫人は止まらない。
「でもなければおかしいではないですか、何故初めてこの邸に来たみたいな挨拶を?あの子はここで育ったのに__何故私を侯爵夫人と呼ぶの?私はあの子の母親なのに!」
「すまなかった。私が陛下を止めきれなかった」
「こんな風になるまで何もしてあげられなかったなんて、あそこまで傷付くのに気付いてあげられなかったなんて……!」
エリスの泣き叫ぶ声が玄関ホールに響き渡っていた。
その夜もそれ以降も、フィオナが両親と夕食を共にすることはなく、邸全体が暗く沈んでいた。
フィオナの頑なな態度が解けることはなく、母親のエリスがお茶に誘っても応じることはなかった。
そんなある日、更に邸を暗くする出来事があった。
業をにやしたエリス夫人がフィオナの部屋に直にやって来た。
初日の到着以来、一切顔を見せない娘が気になって仕方なかったのだ。
取り乱すことなく迎えたフィオナに「まあ。侯爵夫人、何か?」と言われ、冷静に話そうと構えて来たエリスの心は早々に折られた。
「フィオナ、」
「何でしょうか侯爵夫人」
「お母様、でしょう?」
「…………」
「貴女は私の娘!私は貴女のお母様でしょう?!悪かったわ、こんなことになると考えもしないで貴女を後宮に送り出して__許して頂戴フィオナ!私が悪かったわ!お願いよフィオナ、」
泣いて縋るエリスに仮面を付けたままのフィオナは、
「どうして泣いていらっしゃるのですか?何か悲しいことでもあったのですか?__侯爵夫人」
と至って冷静に返した。
目を見張ったエリスは、
「あっ、あっ、あぁっ……、ごめんなさい、ごめんなさいフィオナ!貴女がこんなに傷ついてるなんて、後宮に入れたことがここまで貴女を壊してしまうなんて!そんな所にむざむざ送り出してしまったことを赦して__フィオナ!」
「奥様、落ち着いてください」と宥めるメイドたちの声も無視して我もなく泣き叫んだ。
興奮して手がつけられなくなった夫人は駆けつけた執事が「奥様を寝室までお連れしろ」と指示し男の使用人たちに引き剥がされるように連れていかれるまで叫び続けたが、フィオナの心には届かなかった。
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