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フィオナの怒り(3)
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「フィー!違うっ、なんでそんな」
「違いませんわ。陛下は私の持ち主であるナスタチアム侯爵夫妻に許可を取って私には何も話さずにここに連れてきた。つまり、私の心の内はどうでもよかったのですわ」
「違う!怖かったんだっ、君にここに来るのが嫌だと言われるのが怖くて」
「だから既に妃は二人いることを黙っていたと?まあ確かに皇帝陛下がたかが三番目の側女の気分など気にする必要はありませんものね?」
「違う!妃だ!側女なんかじゃない、君は俺の__」
「他国から二人の姫君を既に娶った方が何を仰っているのですか?」
「形だけと言ったろう!彼女たちとは定期的に顔だけは合わせるが二~三言話すだけだ、何も疚しいことはない!」
「では何故黙っていらしたのです?」
「それは___、すまない。確かに、君は幼い頃からきちんとした教育を受けてくれていたんだな……他ならぬ、俺に嫁ぐために。先に話すべきだったのに黙っていた俺が悪い。いくらでも謝るし、君の望みだったらでき得る限り叶えるから」
「では直ぐに私を家に帰してください。こんな所にいたくありません」
「っ、それは出来ない。すまない」
「ならすぐに離婚してください」
「!……出来ない」
「まあ。はなから叶えるつもりがないならそんなことおっしゃらなければ良いのに」
「違っ、君をここから帰すことだけはできないんだ、フィー。君も知っているだろう?ここは」
「ならば“私に妃の資格なし“と医師の判断が下ったとか無礼打ちになったとか、適当にでっち上げれば良いではないですか」
「馬鹿なことを言わないでくれ!そんなことできるわけがない」
「あら?私をここに連れてくるのに同じことをなさったではありませんか」
この男は自分が三人目になる事をわかってて言ったのだ。
(嘘吐き)
「それは__」
(妃は生涯私だけ?絶対裏切らない?)
「どんなでっち上げも、皇帝陛下の御力ならば可能でございましょう?」
今のこの状態が、裏切りでなくてなんなのか。
「……フェアルドと、名前を呼んではくれないのか?」
どの面を下げて言っているのか。
「たかだか三番手の側女が皇帝陛下を御名で呼ぶなど出来るはずがございません」
(嘘つき)
「側女じゃない!フィー、君は俺の唯一の妃だ。悪かった、こんな__、こんなつもりではなかった!出来るだけ早く君の地位を確かなものにして見せるから、約束するから」
フェアルドが涙声になってもフィオナの絶対零度の視線は揺るがず、縋るフェアルドの手を避けて、
「よくもそこまで白々しい嘘を___この大嘘つき!」
(嘘つき!大嘘つき!大嫌い!)
「フィー!本当だ嘘じゃない___ほら、邸に入れる家具を二人で選んだろう?ここに運ばせたんだ。全部は無理だったけど。ドレスも沢山用意してあるから後で見てみるといい」
フェアルドが示す方向へ目をやると確かに見覚えのある家具たちが目に入った。
ラナンキュラス公邸に入れるつもりでフェアルドと一緒に時間をかけて選んだものだった。
だがそれを見たフィオナは怪訝な顔になる。
「何故?」
「えっ?」
「皇帝陛下はここにお住まいになるわけではないのに。家具など不要でございましょう?」
フィオナの言葉にフェアルドは青褪めた。
事実、フィオナのいる西の宮と皇帝の住まう本宮はそれなりの距離がある。
「育った家を離れてここにくることになってしまった君が少しでもリラックスできるようにと思ったんだ……余計なことだったか?」
「ただ私を家に送り返してくだされば良いではないですか?お妃様は既にいらっしゃるのですから」
「フ、」
「ああ失礼致しましたナスタチアム侯爵は全てを承知でこちらに引き渡したのですから私に帰る場所などありませんわね」
「違うよフィー、ナスタチアム侯爵も夫人も反対していた。喪が明けるまでは待つべきだ、そんな所へ娘を引っ張りだすつもりかと御立腹だったが、俺が権力をちらつかせて説き伏せたんだ。必ず君を幸せにするから預けてくれと。彼らは君を裏切ったわけじゃない」
「この状況が陛下の思う私の幸せですか?」
「違う事はわかってる。けど、君を手放したくなかった。君を迎えないうちに側妃を迎えたことが知れたら、君は俺から逃げてしまうと思った。だから君にはここに到着してから説明するつもりで君の側付きたちにも協力を頼んだんだ。彼女たちを責めないでやってくれ、俺、いや私が無理矢理頼みこんだんだ」
なら、私は誰を責めれば良いの?
「暫くは窮屈かもしれないけど必要な物は全て取り寄せるし、不自由ない暮らしを保証するよ。欲しい物があったらすぐに言って。庭園も護衛は付くが好きに散策するといい。他の側妃には君に近付くなと釘を刺してあるが何かあったら直ぐに言って欲しい」
“何か“とはなんだろう。
その先に嫁いだ二人が自分に何かするというのだろうか?
__だったら尚更私を入れなければよかったのに、後宮にいたくないのに、どうして?
自分は幼い頃から言っていたはずだ、「後宮は嫌だ」と。
心配ないと、私が嫌がる事はしないと、言っていたくせに。
「私が嫌がる事はしないって、」
約束したはずだ。
「もちろん君が嫌がる事はしない。妃として迎えたけど、君の心が私を受け入れてくれるまでは何もしないよ、約束する」
「__ではすぐに出て行ってくださいませ」
嘘吐き。
嫌い。
なんて横暴な権力者、顔も見たくない!
驚くほど冷たい言葉ばかりがフィオナの頭の中を駆け巡り、フィオナは口を噤むことで叫ぶのを抑えた。
周囲は息を呑むが、フェアルドは握っていたフィオナの手をそっとおろし、
「ゆっくり休んでくれ。……出来るだけ様子を見に来る」
「結構です。皇帝陛下たるお方に気にかけていただくような身ではありません」
憔悴したフェアルドが出ていくまで、フィオナはそっぽを向いたままだった。
「違いませんわ。陛下は私の持ち主であるナスタチアム侯爵夫妻に許可を取って私には何も話さずにここに連れてきた。つまり、私の心の内はどうでもよかったのですわ」
「違う!怖かったんだっ、君にここに来るのが嫌だと言われるのが怖くて」
「だから既に妃は二人いることを黙っていたと?まあ確かに皇帝陛下がたかが三番目の側女の気分など気にする必要はありませんものね?」
「違う!妃だ!側女なんかじゃない、君は俺の__」
「他国から二人の姫君を既に娶った方が何を仰っているのですか?」
「形だけと言ったろう!彼女たちとは定期的に顔だけは合わせるが二~三言話すだけだ、何も疚しいことはない!」
「では何故黙っていらしたのです?」
「それは___、すまない。確かに、君は幼い頃からきちんとした教育を受けてくれていたんだな……他ならぬ、俺に嫁ぐために。先に話すべきだったのに黙っていた俺が悪い。いくらでも謝るし、君の望みだったらでき得る限り叶えるから」
「では直ぐに私を家に帰してください。こんな所にいたくありません」
「っ、それは出来ない。すまない」
「ならすぐに離婚してください」
「!……出来ない」
「まあ。はなから叶えるつもりがないならそんなことおっしゃらなければ良いのに」
「違っ、君をここから帰すことだけはできないんだ、フィー。君も知っているだろう?ここは」
「ならば“私に妃の資格なし“と医師の判断が下ったとか無礼打ちになったとか、適当にでっち上げれば良いではないですか」
「馬鹿なことを言わないでくれ!そんなことできるわけがない」
「あら?私をここに連れてくるのに同じことをなさったではありませんか」
この男は自分が三人目になる事をわかってて言ったのだ。
(嘘吐き)
「それは__」
(妃は生涯私だけ?絶対裏切らない?)
「どんなでっち上げも、皇帝陛下の御力ならば可能でございましょう?」
今のこの状態が、裏切りでなくてなんなのか。
「……フェアルドと、名前を呼んではくれないのか?」
どの面を下げて言っているのか。
「たかだか三番手の側女が皇帝陛下を御名で呼ぶなど出来るはずがございません」
(嘘つき)
「側女じゃない!フィー、君は俺の唯一の妃だ。悪かった、こんな__、こんなつもりではなかった!出来るだけ早く君の地位を確かなものにして見せるから、約束するから」
フェアルドが涙声になってもフィオナの絶対零度の視線は揺るがず、縋るフェアルドの手を避けて、
「よくもそこまで白々しい嘘を___この大嘘つき!」
(嘘つき!大嘘つき!大嫌い!)
「フィー!本当だ嘘じゃない___ほら、邸に入れる家具を二人で選んだろう?ここに運ばせたんだ。全部は無理だったけど。ドレスも沢山用意してあるから後で見てみるといい」
フェアルドが示す方向へ目をやると確かに見覚えのある家具たちが目に入った。
ラナンキュラス公邸に入れるつもりでフェアルドと一緒に時間をかけて選んだものだった。
だがそれを見たフィオナは怪訝な顔になる。
「何故?」
「えっ?」
「皇帝陛下はここにお住まいになるわけではないのに。家具など不要でございましょう?」
フィオナの言葉にフェアルドは青褪めた。
事実、フィオナのいる西の宮と皇帝の住まう本宮はそれなりの距離がある。
「育った家を離れてここにくることになってしまった君が少しでもリラックスできるようにと思ったんだ……余計なことだったか?」
「ただ私を家に送り返してくだされば良いではないですか?お妃様は既にいらっしゃるのですから」
「フ、」
「ああ失礼致しましたナスタチアム侯爵は全てを承知でこちらに引き渡したのですから私に帰る場所などありませんわね」
「違うよフィー、ナスタチアム侯爵も夫人も反対していた。喪が明けるまでは待つべきだ、そんな所へ娘を引っ張りだすつもりかと御立腹だったが、俺が権力をちらつかせて説き伏せたんだ。必ず君を幸せにするから預けてくれと。彼らは君を裏切ったわけじゃない」
「この状況が陛下の思う私の幸せですか?」
「違う事はわかってる。けど、君を手放したくなかった。君を迎えないうちに側妃を迎えたことが知れたら、君は俺から逃げてしまうと思った。だから君にはここに到着してから説明するつもりで君の側付きたちにも協力を頼んだんだ。彼女たちを責めないでやってくれ、俺、いや私が無理矢理頼みこんだんだ」
なら、私は誰を責めれば良いの?
「暫くは窮屈かもしれないけど必要な物は全て取り寄せるし、不自由ない暮らしを保証するよ。欲しい物があったらすぐに言って。庭園も護衛は付くが好きに散策するといい。他の側妃には君に近付くなと釘を刺してあるが何かあったら直ぐに言って欲しい」
“何か“とはなんだろう。
その先に嫁いだ二人が自分に何かするというのだろうか?
__だったら尚更私を入れなければよかったのに、後宮にいたくないのに、どうして?
自分は幼い頃から言っていたはずだ、「後宮は嫌だ」と。
心配ないと、私が嫌がる事はしないと、言っていたくせに。
「私が嫌がる事はしないって、」
約束したはずだ。
「もちろん君が嫌がる事はしない。妃として迎えたけど、君の心が私を受け入れてくれるまでは何もしないよ、約束する」
「__ではすぐに出て行ってくださいませ」
嘘吐き。
嫌い。
なんて横暴な権力者、顔も見たくない!
驚くほど冷たい言葉ばかりがフィオナの頭の中を駆け巡り、フィオナは口を噤むことで叫ぶのを抑えた。
周囲は息を呑むが、フェアルドは握っていたフィオナの手をそっとおろし、
「ゆっくり休んでくれ。……出来るだけ様子を見に来る」
「結構です。皇帝陛下たるお方に気にかけていただくような身ではありません」
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