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デビュタント 2
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「フィオナおめでとう!」
「そのドレス素敵ね!貴女に凄くよく似合ってる。それも殿下のお見立て?」
「ドレスはお母様よ」
「ネックレスも凄いわね。さすがフィオナだわ……」
「ネックレスも凄いけど、そのティアラって……」
挨拶に来るなり褒め倒してくれた友人たちだが、フィオナの頭上に目をやると、皆絶句に近い状態になった。
「やっぱり派手かしら………」
やはり分不相応だったかとしょげるフィオナに、友人たちは慌てて言う。
「う、ううん?!派手なわけじゃないわ、品があって淑やかなデザインで貴女によく似合ってる」
「そうそう、“貴女のために誂えた“って言葉がまさにぴったりの」
「そうよそんなティアラをデビューで冠れるのは生まれながらの王侯貴族くらいよ__て、あれ?!」
「ち、違うのよ!それが普通に似合ってるって意味で言っただけで__、」
「そうよ!まるで生まれながらのお姫様ね!……あれ?」
友人たちは決して皮肉を言っているわけではないのだが、何故だかフィオナを前にして口に出てくるのはこんな言葉ばかりだ。
事実を言ってるだけなのだが。
本人は自覚していないが、侯爵家の溺愛に皇弟からの溺愛が幼い頃からプラスされて育ったフィオナは、皇女のいないこの国で既に皇妃に次ぐ女性として認識されつつある。
皇妃はなかなか世継ぎに恵まれないことを気に病んで慎ましく装いがちだったので、尚更人々の関心はフィオナに行きがちだった。
そしてフェアルドがフィオナのデビューのために特注したティアラは大きさこそデビュタントに相応しく小ぶりのものだったが扱われている素材が本来のデビュタントのものとは違った。
台座がそもそも純金でコーティングされている。
重くならないよう一番外側だけにとどめているのだろうが、そもそもデビュタントのティアラはプラチナか銀がせいぜいなのでこれは目立つ。
おまけに使われている宝石はどれも小さいが、数が多い。
中央に嵌め込まれた碧い石から両側に翼を広げるように小さな宝石がグラデーションに連なっていて、一体幾つの宝石が使われているのか数えるのは諦めた方が良さげなレベルだ。
__ていうか、重そう。
一体いくらするのだろう?
これをデビュタントに贈る婚約者、怖い。
ていうか全力で殿下の瞳の色を主張しているのも怖い。
デビュタントのティアラは特定の色に特化したものは滅多にない。
繰り返し使えるものがよしとされているからだ。
特に婚約者の色を着けたい場合、中央の石を交換(といってもそれほど大きな物ではない)出来るタイプの物も僅かだが貸し出されているし、裕福な貴族ならデビュタント用に作らせた後、貸し出し用に売却してしまうこともある。
そんな時勢に、この「一生肌身離さず持っていろ」と言わんばかりのオリジナルな国宝級を見せつけられて令嬢たちは若干引いていた。
訊いてはいけない、或いは言ってはいけない質問を悶々と抱え込む友人たちは必死にフェアルドの執着を見ないようにフィオナを褒める方向にシフトしたのだが、何故だか本当の事を言ってるだけなのに皮肉になってしまうという悪循環に陥っていた。
だが、周囲が勝手に飾り立てているのでなくこれらは無理なくフィオナに似合っていた。
贈る側もフィオナの希望を聞き、また他の二人にも確認して互いにバランスよく仕上がる様に仕立てたのだから当然ではあるが、フィオナがそれらの高価な品に負けない立ち居振る舞いを身につけていたことも大きかった。
十四歳になったフィオナは百五十九センチと同じ年頃の令嬢の中では小柄な方で身体つき自体華奢だが淑女教育をサボらなかったおかげでとても洗練された所作を身に付けていた。
フェアルドが臣下に降っている以上、お妃教育こそされなかったがそれでもマナーに関しては王妃に次ぐレベルを求められたからだ。
普通の我が儘な令嬢だったらすぐに泣いて逃げそうなレッスンを、フィオナは「フェアルド様に恥をかかせないように頑張ります!」と受けて立ち、「フェアルド様にエスコートしていただくデビューまでに百六十センチは欲しいところですわ!」とトレーニングをしたりもしていた。
目標には一センチ届かなかったと落ち込んでいたが、女性は踵の高い靴を履くので問題ない。
むしろ百八十センチの自分と並び立つ為にそこまでしてくれるフィオナが愛おしくてたまらない。
先ほどからフィオナの友人たちが失言を繰り返しているがそれが悪意からのものではないとわかっているフェアルドは、
「当然だよ。私にとってはフィオナはたったひとりのお姫様だからね」
とフォローし、
「そのティアラ、重いかい?王城の魔術師長に頼んで、出来るだけ軽くしてもらったんだけど……」
気遣わしげにフィオナの肩を抱く。
「い、いえ重くはないですわ!」
その仕草に初々しく頬を染めるフィオナに「(色々)重くないんだ……」「あれ軽くするために魔法まで付与しているのか……しかも魔術師長って(付けてる宝石の方減らしゃよかったんでは?)」と周囲はため息を吐いた__一部の人間以外は。
「そのドレス素敵ね!貴女に凄くよく似合ってる。それも殿下のお見立て?」
「ドレスはお母様よ」
「ネックレスも凄いわね。さすがフィオナだわ……」
「ネックレスも凄いけど、そのティアラって……」
挨拶に来るなり褒め倒してくれた友人たちだが、フィオナの頭上に目をやると、皆絶句に近い状態になった。
「やっぱり派手かしら………」
やはり分不相応だったかとしょげるフィオナに、友人たちは慌てて言う。
「う、ううん?!派手なわけじゃないわ、品があって淑やかなデザインで貴女によく似合ってる」
「そうそう、“貴女のために誂えた“って言葉がまさにぴったりの」
「そうよそんなティアラをデビューで冠れるのは生まれながらの王侯貴族くらいよ__て、あれ?!」
「ち、違うのよ!それが普通に似合ってるって意味で言っただけで__、」
「そうよ!まるで生まれながらのお姫様ね!……あれ?」
友人たちは決して皮肉を言っているわけではないのだが、何故だかフィオナを前にして口に出てくるのはこんな言葉ばかりだ。
事実を言ってるだけなのだが。
本人は自覚していないが、侯爵家の溺愛に皇弟からの溺愛が幼い頃からプラスされて育ったフィオナは、皇女のいないこの国で既に皇妃に次ぐ女性として認識されつつある。
皇妃はなかなか世継ぎに恵まれないことを気に病んで慎ましく装いがちだったので、尚更人々の関心はフィオナに行きがちだった。
そしてフェアルドがフィオナのデビューのために特注したティアラは大きさこそデビュタントに相応しく小ぶりのものだったが扱われている素材が本来のデビュタントのものとは違った。
台座がそもそも純金でコーティングされている。
重くならないよう一番外側だけにとどめているのだろうが、そもそもデビュタントのティアラはプラチナか銀がせいぜいなのでこれは目立つ。
おまけに使われている宝石はどれも小さいが、数が多い。
中央に嵌め込まれた碧い石から両側に翼を広げるように小さな宝石がグラデーションに連なっていて、一体幾つの宝石が使われているのか数えるのは諦めた方が良さげなレベルだ。
__ていうか、重そう。
一体いくらするのだろう?
これをデビュタントに贈る婚約者、怖い。
ていうか全力で殿下の瞳の色を主張しているのも怖い。
デビュタントのティアラは特定の色に特化したものは滅多にない。
繰り返し使えるものがよしとされているからだ。
特に婚約者の色を着けたい場合、中央の石を交換(といってもそれほど大きな物ではない)出来るタイプの物も僅かだが貸し出されているし、裕福な貴族ならデビュタント用に作らせた後、貸し出し用に売却してしまうこともある。
そんな時勢に、この「一生肌身離さず持っていろ」と言わんばかりのオリジナルな国宝級を見せつけられて令嬢たちは若干引いていた。
訊いてはいけない、或いは言ってはいけない質問を悶々と抱え込む友人たちは必死にフェアルドの執着を見ないようにフィオナを褒める方向にシフトしたのだが、何故だか本当の事を言ってるだけなのに皮肉になってしまうという悪循環に陥っていた。
だが、周囲が勝手に飾り立てているのでなくこれらは無理なくフィオナに似合っていた。
贈る側もフィオナの希望を聞き、また他の二人にも確認して互いにバランスよく仕上がる様に仕立てたのだから当然ではあるが、フィオナがそれらの高価な品に負けない立ち居振る舞いを身につけていたことも大きかった。
十四歳になったフィオナは百五十九センチと同じ年頃の令嬢の中では小柄な方で身体つき自体華奢だが淑女教育をサボらなかったおかげでとても洗練された所作を身に付けていた。
フェアルドが臣下に降っている以上、お妃教育こそされなかったがそれでもマナーに関しては王妃に次ぐレベルを求められたからだ。
普通の我が儘な令嬢だったらすぐに泣いて逃げそうなレッスンを、フィオナは「フェアルド様に恥をかかせないように頑張ります!」と受けて立ち、「フェアルド様にエスコートしていただくデビューまでに百六十センチは欲しいところですわ!」とトレーニングをしたりもしていた。
目標には一センチ届かなかったと落ち込んでいたが、女性は踵の高い靴を履くので問題ない。
むしろ百八十センチの自分と並び立つ為にそこまでしてくれるフィオナが愛おしくてたまらない。
先ほどからフィオナの友人たちが失言を繰り返しているがそれが悪意からのものではないとわかっているフェアルドは、
「当然だよ。私にとってはフィオナはたったひとりのお姫様だからね」
とフォローし、
「そのティアラ、重いかい?王城の魔術師長に頼んで、出来るだけ軽くしてもらったんだけど……」
気遣わしげにフィオナの肩を抱く。
「い、いえ重くはないですわ!」
その仕草に初々しく頬を染めるフィオナに「(色々)重くないんだ……」「あれ軽くするために魔法まで付与しているのか……しかも魔術師長って(付けてる宝石の方減らしゃよかったんでは?)」と周囲はため息を吐いた__一部の人間以外は。
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