上 下
8 / 55

デビュタント 1

しおりを挟む
フィオナが十四歳の誕生日を迎え、成人となる日が近付くと、誰がドレスを贈るかナスタチアム侯爵と夫人、フェアルドとで散々揉めた。
揉めに揉めた末、頭に載せるティアラをフェアルド、ネックレスをナスタチアム侯爵、ドレスは侯爵夫人が用意することになった。
「私の娘ですのよ?」という夫人の台詞に押し負けた男二人はまだごちゃごちゃ言っていたが、「そんなにしょげずともウエディングドレスは殿下、ブーケはあなたが贈れば良いではありませんか。その時は私はアドバイザーに徹しますわ?」オホホ、と優雅に微笑まれて俯いてしまった。

そもそもデビュタントや結婚の準備全般は母親かそれに近い同性が付ききりでアドバイスするのが普通なので、張り合う男二人がおかしいのだが。
もっとも、ナスタチアム侯爵夫妻が夫と夫人とで別れて争うのはもっと変だが、既に周囲は慣れていて止めに入る者もいない。
ナスタチアム侯爵家の子供はフィオナひとりであるから仕方ないといえば仕方ない。
侯爵夫妻はもちろん、執事もメイド長も、庭師も時々納品に来る出入り商人にさえフィオナは愛され、見守られていた。
フィオナのデビューを飾る誕生日パーティーは盛大なものになるだろう、これだけ周りが張り切っているのだから。

本来なら婿を取り、家名を受け継ぐはずのフィオナだがこの件については「性別を問わずフィオナとフェアルドの間に生まれた第二子をナスタチアム侯爵家へ養子に出す」という話がついている。

「まあ!なんて素晴らしいドレスでしょう!水色に金糸の刺繍がこんなに……」
「ネックレスも素晴らしいですわ。お嬢様の瞳の色と同じでこんな大きな石は初めて見ます」
「ティアラはまぁ_…、戴冠式もかくやといったところですわね」
貴族の令嬢はデビューの際、小さなティアラを載せる習慣がある。
その一方で、結婚式の時は着けない。
着けるのは結婚する王族のみだ。
フェアルドは現在皇族だが臣籍降下しており、結婚時は継承権も放棄しているはずなのでフィオナもこれから着けることはない。

一回きりのものなので、こちらは借りもので済ますことも多い。
代々デビュタントに受け継がれている家宝でもあれば別だが、大抵は娘のデビューに作った家であっても本人が嫁ぐ際、嫁入り道具の一部として持っていくことが多い。
無理して作るよりは宝石商が貸し出しているものの方が立派だし、その分をドレスにまわせるので馬鹿にされたりはしない。
宝石商から借りるのもタダではないし、借りる側に信用も必要なのだから。
ただし、皇女や皇子の婚約者またはその候補にあたる令嬢などは、「どんなティアラを作ったのだろう」と周囲から期待と好奇の目を向けられてしまうことがある。

現皇帝に子はおらず、前皇帝夫妻も既にこの世になく、兄弟姉妹は皇弟フェアルドただ一人。
他国から留学に来ている王族もおらず、何人か公爵令嬢や侯爵令嬢がいるくらいだったので、皇弟の婚約者であるフィオナがオーダーするのはある意味当然と言えた。
宝石商の方も、年に何人かはオーダーして欲しいところだろう。
桁が違うし何より話題に登った令嬢のティアラをデザインした職人からすれば箔がつき、前途も開けるというもの。
その辺りがよくわかっているフェアルドは元々フィオナのデビューに関する物は全て自分の個人資産で賄うつもりだったが、ナスタチアム侯爵から「婚姻前からそれはなりません」と止められてしまったのだ。
「どうせ使い道などないのに……」
と拗ねるフェアルドに、ディオンは苦笑した。

「微笑ましいな」と瞳を細めて。










しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

AK
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」 私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。 ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。 でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。 私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。 だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

処理中です...