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婚約
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おおっぴらに吹聴はしないが書類上は整えられたフェアルドとフィオナの婚約は、フィオナの七歳の誕生パーティーで公にされた。
七歳の幼女を十八歳の皇弟が正式にエスコートするさまは人々の目に異様に映っても仕方ないはずだが、フェアルドは現在帝国で三番目に高い身分の持ち主であり、かつその発言力と影響力においても皇妃を凌ぐ勢いである。
ついでにここ一年の間に充分な根回しを行っていたためフィオナの誕生パーティーは至って和やかに開催された。
まだ七歳の幼子であるから、ふわふわひらひらしたドレスなのは当然として、そのドレスの色が金色でかつ身につけているのが七歳児にはちょっと大きい碧色の宝石だとしても、そこはご愛嬌である。
今日ここに招待された面子はフェアルドがこの七歳の令嬢に夢中なことをよく知っていた。
逆に、フィオナがまだ幼いからと自分の娘を押し出してくるような貴族はいかに身分が高かろうと弾かれた。
ゆえに、フィオナが挨拶してまわる間にこにこと微笑みながらぴったりとくっついて離れないフェアルドの圧に打ち勝ってフィオナに近付く勇者はいなかった。
例えフィオナと同じ七歳児であろうと、だ。
「ちょっとやり過ぎではないのか?」
ナスタチアム侯爵が流石に苦言を呈すも、
「今日が婚約者としての初お披露目ですからね、気は抜けません」
「これでは同じ年頃の友人が出来ぬではないか」
今日は同じ年周りの令嬢令息たちも何人か招待している。
「本日以降の同じ年頃の子供同士の交流は止めるつもりはありませんよ。今日はご令息たちには私の存在を周知徹底だけしてもらえれば」
本来、交流のきっかけ作りのための今日なのだが……改めて茶会を開くほかないか。
マティアス・ナスタチアム侯爵は小さく嘆息した。
実際ナスタチアム侯爵はこの後改めて茶会を開き、フィオナにも何人か友人(ただし女性に限る)が出来た。
この時はフェアルドは宣言通り最初の挨拶だけして早々に立ち去り、フィオナの友達作りの邪魔はしなかった。
「友人まで限定するとは」
とナスタチアム侯爵は咎めたが、
「婚約者である私以外の男性と交流する必要はないでしょう」
と一刀両断された。
間違ってないけど、どーなんだろう。
という言葉は皆喉元まで出かかっていたが呑み込んだ。
フェアルドが自分に言い寄る令嬢やその親たちを、一見スマートだがその実割とえげつない方法で蹴散らして遠ざけて、だがフィオナ本人には悟らせまいと必死だったことを知っていたからだ。
実際、フィオナ・ナスタチアム侯爵令嬢と皇弟フェアルド・ラナンキュラスの婚約関係は至って健全に継続した。
十一歳という年齢差にも関わらず、フェアルドはいつでもフィオナを婚約者として最優先し、他の年の近い令嬢との交流さえ持とうとせず、軽い火遊びに手を出すこともなかったからだ。
フィオナも幼い頃から「大きくなったらフェアルド様と結婚する」という前提で育てられたためか“皇弟妃“や“公爵夫人“としての立ち居振る舞いを含めた淑女教育を疑問に思うことなく、だが「フィーらしさを失ってほしくない」というフェアルドの願いとフィオナの優秀さも手伝ってデビュー前にはひと通りの淑女教育を終えてはいるが、家族や婚約者の前では無邪気に声をあげて笑う美少女が出来上がった。
幼い頃から愛らしさは際立っていたが、成長すると共に美しさは増し、腰まで伸びた銀の髪は妖艶な光を放っているのに水色の瞳は好奇心に輝き__結果、悪戯な妖精を連想させ、ちょっとした我儘も周囲がこぞって叶えたくなってしまう美少女に成長してしまい、フェアルドをやきもきさせた。
「まだ結婚できないのに」と。
口約束の婚約から七年、既にフェアルドがフィオナにとって誠実な婚約者であることは疑いようがなかったので、周囲もそんな様子を生暖かく見守った。
誰も、疑っていなかった。
「フィオナはフェアルドと結婚して幸せになるに違いない」と。
七歳の幼女を十八歳の皇弟が正式にエスコートするさまは人々の目に異様に映っても仕方ないはずだが、フェアルドは現在帝国で三番目に高い身分の持ち主であり、かつその発言力と影響力においても皇妃を凌ぐ勢いである。
ついでにここ一年の間に充分な根回しを行っていたためフィオナの誕生パーティーは至って和やかに開催された。
まだ七歳の幼子であるから、ふわふわひらひらしたドレスなのは当然として、そのドレスの色が金色でかつ身につけているのが七歳児にはちょっと大きい碧色の宝石だとしても、そこはご愛嬌である。
今日ここに招待された面子はフェアルドがこの七歳の令嬢に夢中なことをよく知っていた。
逆に、フィオナがまだ幼いからと自分の娘を押し出してくるような貴族はいかに身分が高かろうと弾かれた。
ゆえに、フィオナが挨拶してまわる間にこにこと微笑みながらぴったりとくっついて離れないフェアルドの圧に打ち勝ってフィオナに近付く勇者はいなかった。
例えフィオナと同じ七歳児であろうと、だ。
「ちょっとやり過ぎではないのか?」
ナスタチアム侯爵が流石に苦言を呈すも、
「今日が婚約者としての初お披露目ですからね、気は抜けません」
「これでは同じ年頃の友人が出来ぬではないか」
今日は同じ年周りの令嬢令息たちも何人か招待している。
「本日以降の同じ年頃の子供同士の交流は止めるつもりはありませんよ。今日はご令息たちには私の存在を周知徹底だけしてもらえれば」
本来、交流のきっかけ作りのための今日なのだが……改めて茶会を開くほかないか。
マティアス・ナスタチアム侯爵は小さく嘆息した。
実際ナスタチアム侯爵はこの後改めて茶会を開き、フィオナにも何人か友人(ただし女性に限る)が出来た。
この時はフェアルドは宣言通り最初の挨拶だけして早々に立ち去り、フィオナの友達作りの邪魔はしなかった。
「友人まで限定するとは」
とナスタチアム侯爵は咎めたが、
「婚約者である私以外の男性と交流する必要はないでしょう」
と一刀両断された。
間違ってないけど、どーなんだろう。
という言葉は皆喉元まで出かかっていたが呑み込んだ。
フェアルドが自分に言い寄る令嬢やその親たちを、一見スマートだがその実割とえげつない方法で蹴散らして遠ざけて、だがフィオナ本人には悟らせまいと必死だったことを知っていたからだ。
実際、フィオナ・ナスタチアム侯爵令嬢と皇弟フェアルド・ラナンキュラスの婚約関係は至って健全に継続した。
十一歳という年齢差にも関わらず、フェアルドはいつでもフィオナを婚約者として最優先し、他の年の近い令嬢との交流さえ持とうとせず、軽い火遊びに手を出すこともなかったからだ。
フィオナも幼い頃から「大きくなったらフェアルド様と結婚する」という前提で育てられたためか“皇弟妃“や“公爵夫人“としての立ち居振る舞いを含めた淑女教育を疑問に思うことなく、だが「フィーらしさを失ってほしくない」というフェアルドの願いとフィオナの優秀さも手伝ってデビュー前にはひと通りの淑女教育を終えてはいるが、家族や婚約者の前では無邪気に声をあげて笑う美少女が出来上がった。
幼い頃から愛らしさは際立っていたが、成長すると共に美しさは増し、腰まで伸びた銀の髪は妖艶な光を放っているのに水色の瞳は好奇心に輝き__結果、悪戯な妖精を連想させ、ちょっとした我儘も周囲がこぞって叶えたくなってしまう美少女に成長してしまい、フェアルドをやきもきさせた。
「まだ結婚できないのに」と。
口約束の婚約から七年、既にフェアルドがフィオナにとって誠実な婚約者であることは疑いようがなかったので、周囲もそんな様子を生暖かく見守った。
誰も、疑っていなかった。
「フィオナはフェアルドと結婚して幸せになるに違いない」と。
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