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約束(確保)
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「まず娘の意見を聞こう」
と言われるとは思わなかったフェアルドはめんくらったが、突然連れ立ってやってきた父親に「フェアルド殿が話があるそうだよ」と言われ、水色の瞳を丸くしながら頷くフィオナに覚悟を決めて膝き、
「レディ・フィオナ。大きくなったら、僕と結婚してくれますか?」
「けっこん?こうしつにお嫁にいくの?」
幼いながらも、フィオナは状況をなんとなく理解しているようだ。
「確かに現時点ではそうなるけど……大丈夫、フィーが結婚できるようになるまでには兄上に子供が生まれて、僕は継承権を放棄しているから。でも城仕えにはなるから僕は皇城内の一画を賜って小さな館を建ててそこに君を迎えたい」
「お城じゃなく、やかた?」
「ああ。もちろんフィーの部屋は三つくらい作るよ。フィーが寛ぐための部屋、友人が会いに来た時にもてなす為の部屋に衣裳部屋もいるだろう?後は将来の為の子供部屋と、フィーのお世話係には何人ぐらいのメイドが必要かな?あと護衛も__いや護衛兵も常駐させないといけないね、護衛が鍛錬する場所と寝起きするエリアに使用人部屋も合わせて作らないと__それともフィーはお城の方がいい?」
「ううん。お城は住みたくない」
「そうか、なら良かった。結婚するまでにフィー好みの館を建てよう」
この侯爵邸自体、ちょっとした城みたいな広さなんだけど……そりゃ、王城に較べたら小さいけど。
てかその内容、小さな館でもなんでもないだろ。
しかも護衛団常駐させるとかさらっと言ったし。
もう立派な城っつーかぶっちゃけただの離宮じゃね?
と傍で聞いているナスタチアム侯爵はじめお付きのメイドや侍従は心中で突っ込んだが口に出す者はいない。
殿下の決死のプロポーズの最中であるのだから。
フェアルドの熱心(ていうかちょっと異常)な口説き文句を黙って聞いていたフィオナは、
「フェアルドさまのお部屋は、ないの?」
と至って普通のテンションで聞いた。
純粋に疑問だったからだ。
「んー……僕には執務室と夫婦の寝室だけで充分かな?大体が王城で終わらせて極力持ち帰ってはこないつもりだし……でないとフィーとの時間が減ってしまうだろう?」
うわぁ全力で囲う気だよこのひと。
フェアルドの背後で側付きたちは額に手を当てて天を仰いだ。
「お城にもお部屋があるのにわざわざいったり来たりするの?」
「そうだよ。仕事とプライベートは分けないと。フィーの父君もそうだろう?」
ナスタチアム侯爵は常人なら夜なべして手にあまる程度の仕事量を定時までに終わらせて帰る“残業しない仕事鬼“として有名である。
よって夕食が一緒でないことはここナスタチアム侯爵家ではほぼなく、
「うん」
フィオナは素直に頷いた。
「そうだろう?僕も君とそんな家庭を作りたいんだ。もちろん今すぐじゃなく十年後くらいに」
「十年あとの約束をいまするの?」
「そうだよ」
なんでと言いたげなフィオナの頬に手を伸ばし、そこにかかる髪を掬って口づけを落としながらフェアルドは続ける。
「君が大人になって誰か他の人に先を越されてしまったら困るからね、今のうちに約束しておきたいんだ。もちろん、大人になった君が僕との結婚が嫌だと言ったら諦めるよ」
___嘘つけ。
今や外野の心が仕える主人は違えどひとつになっているが、フェアルドは敢えて気付かないフリを貫く。
「ダメかな?フィー。今は口約束だけでもいいんだ(正式な書類は君の保護者と交わすから。)」
フェアルドは“国一番の傾国“と称されるほど造作の整った青年である。
要するに顔面凶器なのである。
故に、()内の台詞とほの暗く漂う黒いオーラに気がつかないフィオナは頬を赤らめて「……はい」と答えてしまった。
それが、自身の未来を大きく歪ませることだとは気付かずに。
と言われるとは思わなかったフェアルドはめんくらったが、突然連れ立ってやってきた父親に「フェアルド殿が話があるそうだよ」と言われ、水色の瞳を丸くしながら頷くフィオナに覚悟を決めて膝き、
「レディ・フィオナ。大きくなったら、僕と結婚してくれますか?」
「けっこん?こうしつにお嫁にいくの?」
幼いながらも、フィオナは状況をなんとなく理解しているようだ。
「確かに現時点ではそうなるけど……大丈夫、フィーが結婚できるようになるまでには兄上に子供が生まれて、僕は継承権を放棄しているから。でも城仕えにはなるから僕は皇城内の一画を賜って小さな館を建ててそこに君を迎えたい」
「お城じゃなく、やかた?」
「ああ。もちろんフィーの部屋は三つくらい作るよ。フィーが寛ぐための部屋、友人が会いに来た時にもてなす為の部屋に衣裳部屋もいるだろう?後は将来の為の子供部屋と、フィーのお世話係には何人ぐらいのメイドが必要かな?あと護衛も__いや護衛兵も常駐させないといけないね、護衛が鍛錬する場所と寝起きするエリアに使用人部屋も合わせて作らないと__それともフィーはお城の方がいい?」
「ううん。お城は住みたくない」
「そうか、なら良かった。結婚するまでにフィー好みの館を建てよう」
この侯爵邸自体、ちょっとした城みたいな広さなんだけど……そりゃ、王城に較べたら小さいけど。
てかその内容、小さな館でもなんでもないだろ。
しかも護衛団常駐させるとかさらっと言ったし。
もう立派な城っつーかぶっちゃけただの離宮じゃね?
と傍で聞いているナスタチアム侯爵はじめお付きのメイドや侍従は心中で突っ込んだが口に出す者はいない。
殿下の決死のプロポーズの最中であるのだから。
フェアルドの熱心(ていうかちょっと異常)な口説き文句を黙って聞いていたフィオナは、
「フェアルドさまのお部屋は、ないの?」
と至って普通のテンションで聞いた。
純粋に疑問だったからだ。
「んー……僕には執務室と夫婦の寝室だけで充分かな?大体が王城で終わらせて極力持ち帰ってはこないつもりだし……でないとフィーとの時間が減ってしまうだろう?」
うわぁ全力で囲う気だよこのひと。
フェアルドの背後で側付きたちは額に手を当てて天を仰いだ。
「お城にもお部屋があるのにわざわざいったり来たりするの?」
「そうだよ。仕事とプライベートは分けないと。フィーの父君もそうだろう?」
ナスタチアム侯爵は常人なら夜なべして手にあまる程度の仕事量を定時までに終わらせて帰る“残業しない仕事鬼“として有名である。
よって夕食が一緒でないことはここナスタチアム侯爵家ではほぼなく、
「うん」
フィオナは素直に頷いた。
「そうだろう?僕も君とそんな家庭を作りたいんだ。もちろん今すぐじゃなく十年後くらいに」
「十年あとの約束をいまするの?」
「そうだよ」
なんでと言いたげなフィオナの頬に手を伸ばし、そこにかかる髪を掬って口づけを落としながらフェアルドは続ける。
「君が大人になって誰か他の人に先を越されてしまったら困るからね、今のうちに約束しておきたいんだ。もちろん、大人になった君が僕との結婚が嫌だと言ったら諦めるよ」
___嘘つけ。
今や外野の心が仕える主人は違えどひとつになっているが、フェアルドは敢えて気付かないフリを貫く。
「ダメかな?フィー。今は口約束だけでもいいんだ(正式な書類は君の保護者と交わすから。)」
フェアルドは“国一番の傾国“と称されるほど造作の整った青年である。
要するに顔面凶器なのである。
故に、()内の台詞とほの暗く漂う黒いオーラに気がつかないフィオナは頬を赤らめて「……はい」と答えてしまった。
それが、自身の未来を大きく歪ませることだとは気付かずに。
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