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第一章 出会う

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「君の名前を聞いても良いかい?可愛らしいレディ」
明るい金髪に碧い瞳の美青年に跪いて訊ねられ、
「……フィオナ」
と呆然として答えた銀髪の少女はどう見ても五~六歳。
声を掛けてきた青年はどう見ても十代後半だったので、一瞬少女の背後にいた護衛が殺気立ったが、青年と目が合うと、
「し、失礼いたしました!」
と慌てて臣下の礼をとった。
そんな同僚の姿にこちらも大事なお嬢様を背後に隠そうとした側付きのメイドが、
「あの、こちらは……?」
と同僚に遠慮がちに尋ねつつ、目は青年から外さない。
相手が誰であれ、お嬢様の安全が第一なのだ。

「マイア!こちらは__、」
そんな側付きメイドの様子に感心しながら、金髪の青年ことフェアルドは、
「よい。いきなり不躾にすまなかった。このご令嬢が春の妖精のように可愛らしかったものだから__遅れたが私はフェアルド。ラナンキュラス公の爵位を賜っている」
メイドは息を呑んだ。
このランタナ皇国で“ラナンキュラス“の爵位を授かっているのはただ一人。
「こ、皇弟殿下……?!?!」
メイドは息を吐くのを忘れて吸いすぎて、過呼吸を起こしそうだった。

無理もない。
この国でフェアルド・ラナンキュラスの名を知らない者はいない。
若く美丈夫であるのにどちらかとえば病弱な現在の兄皇帝バルドをよく支え、抜群のバランス感覚で政治の中枢を担いながらも決して帝位を望まず、
「次期皇帝は兄上のお子だ」
と言い張って帝位継承権返上を願い出て“ラナンキュラス公“の爵位を賜ったものの、二人の両親である前皇帝夫妻は既に亡くなっており、他に皇室直系がいないことから「現皇帝の後継が一定の年齢になるまでは」継承権の返上は認められず、現在も帝位継承権第一位も持つ若き公爵である。

護衛騎士は仕事柄と本人も貴族であることからフェアルドの顔を知っていたが、メイドは知らなかったのだ。
とんでもない人に睨みを効かせてしまったと泡を食うメイドに、
「あゝどうかお気になさらず。見知らぬ人物が大事なお嬢様に近づいたら誰何すいかするのは当然のことですよ。お嬢様とお話しさせてもらっても良いだろうか?」
後光でも放ってそうな極上の美青年の笑みに、もはやマイアはコクコク頷くしかない。
壊れた人形のように。

そんな側付きメイドの様子に若干引きながら、フィオナは改めて目の前の青年に視線を移す。
フェアルドという青年はフィオナの視界に入れたことが嬉しいようで、更に笑みを深め、
「フルネームを聞いてもいいかい?可愛い妖精さん」
と跪いたまま訊いてきた。
「フィオナ・ナスタチアム……お兄ちゃんは、天使さま?」
昼下がりの、平凡に終わるはずだった散歩中の公園で、これが二人の出会いだった。














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