心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉

プロローグ

「第三側妃、フィオナ様ご到着でございます」
到着して馬車の扉が開いた途端聴こえた声に、伸ばした指先がぴたりと止まる。

今、この侍従は何と言った？
“第三側妃“。
確かにそう言った。
第三というのはつまり、一番目と二番目がいるということだ＿＿＿自分よりも前に。
すぅっと血の気が引き、伸ばした指先を反射的に引こうとすると、今まさに自分をエスコートして馬車からおろそうとした手がそうはさせないとばかりに指先を握り込んだ。

「よく来てくれた、フィオナ姫。部屋へ案内しよう＿＿さあ、こちらへ」
手の主は馬車の中へ引っ込みそうになるフィオナの腰に手を回して抱き抱えるようにしておろすと、馬車の扉を閉めさせた。
フィオナに付いてきたはずのお付きたちも粛々とそれに従う。
それを目にしたフィオナは悟る。

あゝ、自分は騙されたのだと。
おそらくフィオナの顔は怒りに震え、真っ青になっていただろうが、重いベールに隠されている今、フィオナの顔は誰にも見えない。

＿＿＿見えたところで気にする者もいないだろう現状に思い至って、フィオナは絶望した。